【風まかせ(16)後半】糺の森にひそむ三柱鳥居の謎


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そんな泉に立つ珍妙な三柱鳥居であるが、全国に例は少ない。しかも歴史的由緒を残すものとしては木嶋神社のほか東京の向島の三囲神社と長崎県の対馬にある和多都美神社の二ヶ所があげられるのみである。

s_4・三囲神社の三柱鳥居 真ん中に井戸がある

三囲神社の三柱鳥居 真ん中に井戸がある

平安初期の草創と伝えられる三囲神社には石造の三柱鳥居の真ん中に井戸が鎮座する。案内板には「三井邸より移す。原形は京都太秦・木嶋神社にある」と書かれている。水を汲みだす井戸を磐座とするように三本の柱で結界をなす。三井家を守る意味なのだろう三柱で井戸を囲み、三囲という井を囲む名を冠 する神社に作られた三柱鳥居。まるで頓智譚のようでもあるが、木嶋神社に原形を求めたことは、ただ井を守る意のみでなくコンコンと清水が湧き出す繁栄を象徴する様をご神体として祀ったと考えるのが妥当である。

ここも水との関係が深い土地であったのである。その傍証ともいうべき話が伝わって いる。元禄の頃、大旱魃に見舞われた折、当社で雨乞い祈願をする百姓たちを目にした俳人室井其角が「ゆうだちや田を見めぐりの神ならば」と詠うと、翌日に雨が降ったという。江戸中期に建立されたその雨乞いの句碑は現在も境内に麗々しく置かれている。

s_5・三囲神社・室井其角の雨乞いの碑

三囲神社・室井其角の雨乞いの碑

余談になるがその二百年後のこと、あの勝海舟が「三囲の社に続くひわれ田を神はあわれと見そなわさずや」という和歌を奉納していた。なんとその日に雨が降ったのだそうで、「おれの歌も、天地を動 かし鬼神をなかしむるほどの妙がある。小野小町や室井其角にもけっして負けない」と海舟一流の自慢話が「氷川清話」に披露されている。この程度の歌で雨が降ったとは到底思えぬが、昔から雨乞いや水に深い関りを持つ神社であったことを印す逸話である。ただ、なぜか知らぬが境内のどこを探しても海舟の歌碑は見当たらない。

さて、謎の解明に大きな示唆を与えてくれるのが対馬市豊玉町にある和多都美神社である。創立不詳の古社は竜宮説話の伝誦を残す満珠瀬・干珠瀬をもつ真珠の浜を前景として建っている。祭神は竜宮城のお姫様こと豊玉姫と山幸彦こと彦火火出見尊であり、当社の鎮座する町名も海神の姫の名に因んでいることは興味深い。当社は五つある鳥居のうち二つが海中に立つ海の参道で有名だが、玉砂利が敷かれた陸の参道脇に大きな汐溜りがある。そこに木造の三柱鳥居が建つ。その中心には海神とも海の精霊ともいわれる阿曇磯良の墓がある。その磐座はフジツボだらけの醜い磯良の顔を思わせる鱗状の奇怪な形状をしている。

s_6・和多都美神社の参道脇の汐溜りに立つ三柱鳥居

和多都美神社の参道脇の汐溜りに立つ三柱鳥居

s_7・和多都美神社の汐溜りに立つ三柱鳥居 海神・磯良の墓が真ん中に鎮座

和多都美神社の汐溜りに立つ三柱鳥居 海神・磯良の墓が真ん中に鎮座

満潮時には柱の中ほどまで海水が覆い磐座は海中に没し、引き潮とともに徐々に姿をあらわす。それは潮の干満を測る仕掛けのようでもあり、また、月の満ち欠けを測定する機械のようでもあり、古代人の自然に対する向き合い方、神への畏敬をあらわす素朴な信仰心を感じる。旁、黄泉の国から逃れ帰った伊弉諾尊が真っ先に海中に身を沈め穢れを洗い去り、潔斎を済ませたことが想起された。

その禊から生まれた海の神、綿津見三神と阿曇磯良を祀る “龍の都”と称される志賀海神社が対馬から南下した福岡県の志賀島にある。その沖津宮が島の北部に浮かぶ沖の島に鎮座する。沖の島に渡る舞能ケ浜は御手洗という名で古来、呼ばれてきた。そこが海の民が海潮で禊を行なった“お汐井”の浜辺であったことは間違いがない。

s_8・志賀海神社の沖津宮が鎮座する沖津島と御手洗の浜

志賀海神社の沖津宮が鎮座する沖津島と御手洗の浜

こうして三神社に共通するものを探ってくると、三柱鳥居が御手洗やお汐井という禊の儀式に深く纏わる原始信仰の徴標であり、さらには水位・潮位の変化、月の盛衰といった自然現象にも肉薄するある種の測定器のようにも思えてくる。韓国語のパタ(海)が転訛した氏名をもつ秦氏や海民所縁の地にはあって、利権を奪った鴨氏の地にはないという符牒。柱が三つ、なぜ四つではないのかなど謎は深まるばかりだが、下鴨神社発祥のみたらし団子でも食らいながら無い知恵をこれからも絞り出していくしかなさそうである。

s_9・満潮時の和多都美神社の海中の鳥居

満潮時の和多都美神社の海中の鳥居

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野田博明(のだ・ひろあき)
昭和26 年生まれ。東大卒。日本興業銀行広報部長などを経て、現在、一般社団法人全日本社寺観光連盟理事。平成27年文化庁・官公庁共管の「文化財の英語解説のあり方に関する有識者会議」、平成29年文化庁の「文化財の多言語解説等による国際発信力強化の
方策に関する有識者会議」の委員。

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2017-11-10 | Category コラム

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