デービッド・アトキンソン(全日本社寺観光連盟 理事/株式会社小西美術工藝社 代表取締役会長兼社長)


情報誌「寺社Now」vol.6より

世界へ日本文化を伝えるために
-観光立国- 寺社に求められる新たな役割

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旅の四条件

国内外の観光客にとって、観光の魅力は主に四つの条件に定義されます。それらは「自然、気候、文化、食」です。観光大国になるためには、この四つ全て揃うことが理想であり、ひとつだけを整備すれば良いというわけではありません。観光客の趣味は十人十色で、朝から晩まで常に文化に触れていると肩が凝りますし、毎日何時間も食事をとることはないでしょう。
この四条件を一つ一つ考えてみることにします。自然には、綺麗な山や美しい海があり、田園風景、渓谷、滝、野花などがあります。当然ですが、多様化されれば、より多趣味の人々が集まりますので、魅力的な素材が多ければ多いほど観光立国に成りえます。次に、気候は温であることが基本ですが、暑いところであればビーチリゾートを、雪が降る山であればスキーリゾートを楽しむことができます。
食事も重要な要素の一つですが、 一日三回の美味しい料理だけでは十分な条件とは言えず、食間の楽しみも必要となってきます。最後は文化です。 一般的に、遠い国に旅行すると、普段は文化に余り興味がない人でも、直接的に触れる機会が多くなるというデータがあります。文化の奥深い国の場合、ほとんど全ての観光客が 一度はその国の文化に触れると言われています。
特に、海外の観光客にとって、日本は様々な面で極めて独特な文化を築いてきたので、日本文化に直接触れたいという衝動に駆られます。
 

日本らしさを伝える歴史や文化の大切さ

しかし、残念ながら現代の日本においては、建築や芸術などの伝統文化や歴史を直に体験したいと思っても、昔ながらの古き良き町並みは減少し、日常生活も大きく変化したため、日本的な要素も一般的に少なくなりました。 時代の移り変わりによって、日本古来の伝統的な家屋なども稀有なものになりましたので「日本文化を知りたい、見たい、勉強したい」と思って時間とお金を掛けてはるばる日本までやって来ても、現存するものが少なければ、メインになる場所は必然的に神社仏閣など 一 部のものに限られてしまいます。
今や神社や仏閣は、神道や仏教を勉強するだけでなく、それ以外の「日本らしさを求める人」に対しても幅広い役割を果たす必要があります。神社仏閣には、今でも自然な風景や日本庭園が数多く残り、そのほとんどが木造建築です。神社を見てみると、神社は海外には存在しない日本独自の建築様式を持ちます。外装、内装も諸外国とは違って日本独特のものですし、設えとして置かれている諸道具やそれらの色彩をとっても、十分な刺激を受けます。運が良ければ着物などの和服姿の人達と出会えるでしょうし、美しい風景の中で、結婚式や七五三などを目にする機会もあるかもしれません。
 

展示と解説の重要性

これまでの日本の観光は、ある意味修学旅行の延長のようなもので、一生に一度だけ来て、長居することなく、写真を撮って次のところに、といったパターンが多かった気がします。これからの観光は違うと思います。今まで以上に観光客に満足してもらうためには、もっと力を入れるべきポイントがあります。
それは、展示と解説です。海外においては、日本文化と日本史、日本の思想を事前に勉強するための十分な資料がありません。外国人観光客は日本の教育を受けてきているわけではないので、実際に文化財を見る目が養えていません。建物の特徴、そこで起きた歴史、内装と外装の模様の意味合い、装束と普通の着物の違い、宗教的な思想など、説明をすればするほど魅力を感じます。遠国から来た人は、当然ながら多大な時間的投資をしていますので、「満足のいく経験をして国に帰りたい」と思うのは当たり前です。ガランとした建物に放り込まれるだけで何の解説もなければ、その場所の魅力は半減し、本来持つ魅力はほとんど伝わりません。当然「その時伝える中身」も問われます。簡単に言えば、観光は「人」です。人間のガイド、人による体験などが求められます。また安易に看板を立ててて、薄い内容を多言語に対応するのは失敗の始まりだと感じます。4ヵ国語で1000字の解説を作るよりは、とりあえずは2ヵ国語で2000字の解説を作成した方がいいと思います。
 

おわりに

これからの日本経済は、観光業が重要な役割を果たすことになります。おそらく、基幹産業のトップ3に入るでしょう。それを実現するには、日本の素晴らしい伝統文化や日本の思想が中心的な役割を果たします。それによって、世界中に日本の共存共栄の心も一緒に伝われば、より大きな影響力も期待できます。今後、日本の人口が激減する中で(観光で大きな力となる)文化財を維持修理することは、大変になります。日本文化を守っていくには、今後多くの整備が必要ですが、それによって、日本の潜在力を発揮して、日本文化のさらなる発展が実現されることを祈っております。

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 デービッド・アトキンソンプロフィール
(一社)全日本社寺観光連盟 理事
1965 年イギリス生まれ 。オックスフォード大学卒業。
1990 年来日。ソロモンブラザーズ証券会社やゴールドマン・サックス証券会社でアナリストとしての勤務を経て、2009 年、業界の老舗企業として、文化財・歴史的建造物、美術工芸品の修理、施工を手掛ける小西美術工藝社入社、取締役就任。
2011 年より株式会社小西美術工藝社 代表取締役会長兼社長
日本遺産審査委員会 委員
-著書・活動 -
主な著書に『銀行-不良債権からの脱脚』(日本経済新聞社、1994 年)。『イギリス人アナリスト日本の国宝を守る』(講談社α新書、2014 年)など。
1999年裏千家入門、茶名「宗真」
2015-10-23 | Category インタビュー, スペシャル

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