静かに歴史を刻む奈良・信貴山 三院の宿坊から学ぶ現代の宿坊のあり方


信貴山本山の年間行事を一体となって支える三院

 

奈良信貴山奈良 信貴山

聖徳太子が「寅の歳・寅の日・寅の刻」に毘沙門天王の力を借りて世の平安を取り戻したと伝えられるこの地は、聖徳太子によって信じ貴ぶべき山として「信貴山(しぎさん)」と名付けられた。
いにしえから脈々と続く信仰はこの地に根付き、信貴山本山の塔頭として、長きに渡り本山の一年を通して行われる、法要をはじめとする約10回の主要行事の運営を互いに支え合い、宿坊として参拝者を受け入れてきた三院は、今、都市近郊型の宿坊としても注目を集めている。
千手院(せんじゅいん)、成福院(じょうふくいん)、玉蔵院(ぎょくぞういん)の宿坊に、現代における宿坊のあり方、それぞれの運営方法や新たな取り組みについて伺った。
 

伝統と歴史が濃厚に香る信貴山最古の宿坊

信貴山 千手院

千手院信貴山 千手院

千手院(せんじゅいん)は山内最古の寺で、信貴山寺を代表する住職の住む自坊とされた。
宿坊としても最も歴史があり、江戸時代から現代まで信仰を求める人々に愛されてきた。池泉庭園(ちせんていえん)を眺められる宿坊としても知られ、その庭は茶人や建築家として名高い大名である小堀遠州(こぼりえんしゅう)が作庭したと伝えられている。
 

池泉庭園池泉庭園

また、江戸の名残を残す同院の宿坊『信徒会館』は絢爛豪華な襖絵やノスタルジックな大正ガラスなど、時代を超越した色彩が溢れる。「見える世界ばかりを追う今の世だからこそ、見えないものを満たす空間でありたい」と語る田中眞瑞(たなかしんずい)貫主。
 

田中信貴山 千手院 田中眞瑞貫主

同院が心がけているのが、本来の宿坊の在り方として「本山の毘沙門様とご縁を結んでいただく」を貫くこと。
実際に宿泊客の大半が朝のお勤めに自主的に参加し、写経や坐禅を体験するという。
全体の2割が欧米からの外国人だが、他の宿泊者同様にお勤めに励むそう。「自らの浄化を目的に訪れ、毎朝の護摩行や修行体験を受ける人が多いです。
無論現代のニーズに合わせて快適に過ごしていただく工夫はしますが、根本にあるのは昔のままの宿坊の姿です」伝統を重んじる姿勢が感じられる。
 

英気を養う宿坊の要となる三つの「R」の真髄を紐解く

信貴山 成福院

s_s_外観1信貴山 成福院

信貴山真言宗の大本山である成福院(じょうふくいん)。宿坊ならではの静謐(せいひつ)さは言うまでもなく、足を踏み入れて感じるのはそのモダンさと心地良さ。
 

宿泊部屋1_1宿泊部屋

実はこの宿坊の設計は文化勲章も受賞した村野藤吾(むらのとうご)氏によるもので、1970(昭和45)年に大阪万博に合わせて建て替えられたという。今なお当時の斬新さとモダンさを湛える。
鈴木貴晶(すずききしょう)貫主は同院の魅力について「せわしない現代に生きる人々の気を養うための宿坊でありたいというのが基幹にあり、現在はリセット・リフレッシュ・リラックスの三つの「R」を大切にしています。
 

s_精進料理3成福院の精進料理

まずはここでくつろぎ癒される、そして宿泊客の目的に合わせて祈願や祈祷、相談などを行い、五感で信貴山の自然や信仰を体感できる空間作りを意識しています」と語る。
 

s_信貴山成福院_鈴木_貫主1601信貴山 成福院 鈴木貴晶貫主

「信貴山はご祈願するお寺ですので、遠方から来られる参拝者にもなるべく長く住職と接していただくようにするのが宿坊の役割です」誰もが気軽に受けられるよう1000円という低価格で祈祷を行う『ワンコイン祈祷』といった新しい取り組みを実現するなど、固定概念に縛られず宿坊に新風を吹き込み続けている。
 

時代の流れに応じて柔軟に姿を変える宿坊

信貴山 玉蔵院

玉蔵院信貴山 玉蔵院
玉蔵院(ぎょくぞういん)は、大正と平成の建替え時には古材を随所に取り入れ、その空間が歴史の長さを感じさせる造りとなっている。
 

s__玉蔵院富貴閣_個室56A3玉蔵院富貴閣の個室

由緒ある寺でありながらも宿坊は非常にオープンで、参拝や修行体験を目的に訪れる人のほか、観光客にも広く開放しているのが特徴だ。現在は日本の伝統ある場所で宿泊したいと希望する外国人観光客など、国内外から多彩なゲストが訪れる。
宿坊内にはWi-Fi 完備の談話室もあり、ネット環境が整っているのも現代的。
 

s_信貴山玉蔵院_野沢貫主信貴山 玉蔵院 野沢密孝貫主

こういったサービスについて野澤密孝(のざわみっこう)貫主は「世の流れに応じた変化は必然。しかしその根底にあるのは布教であり、宿泊することで心癒され、日本の伝統的な精神世界を味わってもらえたら」という柔軟な考え方をしながらも「宿坊はご本山を身近に感じていただく、布教のひとつ」という姿勢を貫く。
実際に宿泊客の大半が朝の祈祷に参加し、多かれ少なかれ宗教の教えに触れて宿を後にするのだとか。“泊まる・体験する”といった宿坊の在り方を越えたおもてなし精神こそ、同宿坊の要だろう。

今なお、戦国時代に当地にあった信貴山城の城址保全のため、信貴山観光協会や地域住民と共に寺院も協力して清掃活動が進められている。
地域振興活動にも積極的に取り組む寺院の今後に注目したい。

千手院信貴山 千手院
住所 : 〒636-0923 奈良県生駒郡平群町信貴山2280 
TEL : 0745-72-4481
http://www.senjyuin.or.jp
客室数 : 18室 収容人数 : 80名 
主な施設 : 大浴場、食堂、喫茶スペース

s_s_外観1信貴山 成福院
住所 : 〒636-0923 奈良県生駒郡平群町信貴山2280 
TEL : 0745-72-2581
http://www.jyofukuin.jp/
客室数 : 12室 収容人数 : 40名弱 
主な施設 : 大広間、浴場

玉蔵院信貴山 玉蔵院
住所 : 〒636-0923 奈良県生駒郡平群町信貴山2280 
TEL : 0745-72-2881
http://www.gyokuzo.com/ 
客室数 : 40室 収容人数 : 200名 
主な施設 : 大浴場、中庭、茶室

2017-02-01 | Category スペシャル

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