【巻頭特集】MICE(マイス) 国際会議の開催や企業の報奨旅行など、誘致拡大に向けた 社寺の取り組み。


“ M:ミーティング”、“I:インセンティブ”、“ C:コンベンション”、“E:イベント・エキシビション” の頭文字をとった『MICE』。

国際会議の開催や企業の報奨旅行などの総称で、これらを呼び込むことは、都市の知名度向上や高い経済波及効果につながることが期待される。これら国際会議などの開催に際しレセプションやイベントの会場として、社寺が今注目を集めている。MICEを巡る最新の動向をご紹介する。

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外国人旅行者の増加に伴い重要性が増すMICE

MICEの開催は、地域の知名度を向上させること、参加者の滞在日数が長く支出が多いこと、経済効果があることから、観光庁ではMICE誘致・開催を積極的に推進している。

さらに、国際会議や企業ミーティングなどのレセプションやイベントを「歴史的建造物」「神社仏閣」「博物館・美術館」などで行うことで、日本の文化や地域ならではの魅力を発信できることから、観光庁でもこれらの場所をユニークべニュー(=特別な場所)として、積極的な利用を推進している(表1)。
 
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実際、2015(平成27)年には「国際専門家会合レセプション」を仙台市の遺跡博物館「地底の森ミュージアム」で開催。「国際イノベーション会議『HackOsaka 2015』前夜祭」を歴史的建造物として国の登録有形文化財に指定されている、大阪市の「山本能楽堂」で行うなどの例がある。

特に日本文化の発信を考えるうえで、その効果がかなり期待できるのが「神社仏閣」だ。
観光庁は、2016(平成28)年度に新たな事業として「MICE誘致拡大に向けたユニークベニュー活用推進事業」を公募。ユニークベニューで開催される会議や講演会などの開催を支援している。
今年度2回の選定委員会が開かれ下記表の9件のイベントへの支援が決定した(表2)。
 
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 この中には神社仏閣も複数選ばれているが、その中の「IHRA国際フォーラム」*1(IHRA:一般社団法人国最高速鉄道協会) の開催地であり、昨年10月文部科学省が主催する「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」の分科会〝クリスタルアワード受賞者との特別ワークショップ〟が開催された 妙心寺 退蔵院(たいぞういん)の松山大耕(まつやまだいこう)副住職と、主催者の文部科学省スポーツ・文化・ワールド・フォーラム準備室 藤沢久美(ふじさわくみ)リーダーにお話を伺うことができた。
 

MICE事例:妙心寺退蔵院副住職 松山大耕さん、文部科学省 藤沢久美さんインタビュー

社寺だからこそ叶う日本文化の発信と〝心のお土産〟となる仕掛けづくり

東京大学大学院を卒業後、積極的に日本文化の発信を行い、2009(平成21) 年には「政府観光庁Visit Japan大使」、2011(平成23)年には「京都観光おもてなし大使」に任命された臨済宗大本山妙心寺退蔵院 松山副住職。
 

s_松山副住職妙心寺 退蔵院 松山大耕副住職

さらに同年、日本の禅宗を代表し、ヴァチカンにてローマ教皇に謁見。
2014(平成26)年には「世界経済フォーラム(ダボス会議)」にも出席するなど、宗教者という垣根を越えて世界的に活動している。また、日本の仏教や文化を海外に向けて発信してきた松山副住職。日本文化発信において寺院が果たせる役割は多いと語る。

「日本には非常にユニークな文化があり、その発信において神社仏閣が果たせる役割は大きいと思っています」 それゆえ、観光庁がMICEの誘致、そして神社仏閣などをユニークベニューの会場として推進していることについて
「私自身も海外で講演する際、例えばイタリアではローマ時代に建てられた教会や大使公邸でさせていただくことがありました。これは他ではできない体験です」と話す。

 昨年10月、退蔵院で開催された「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」〝クリスタルアワード受賞者との特別ワークショップ〟では、世界経済フォーラムが選んだ国際社会の文化交流と世界平和に貢献した芸術家や文化人に授与する賞、クリスタルアワードの受賞者、アナント・シン(映画監督/プロデューサー)、アンジェリーク・キジョー(音楽家)、タン・スウィーヒャン(画家/詩人/思想家/作家)の3名による講演のほか、タン・スウィーヒャンさんによるパフォーマンスが行われた。
 

s_特別ワークショップクリスタルアワード受賞者との特別ワークショップの様子

その会場として退蔵院が選ばれた理由を、主催者の文部科学省スポーツ・文化・ワールド・フォーラム準備室リーダーの藤沢久美さんは、「世界的著名人である受賞者が素敵だと感じ、かつリラックスできる会場が必要でした。
特にタン・スウィーヒャンさんは、過去に妙心寺の高僧と交流された経験をお持ちだったのも理由の一つです」と語る。
 

食事を提供でき広い本堂がある寺院は設備が整っている

要人対応の経験豊富な松山副住職は当時の様子を次のように振り返る。「そういった会場を社寺が担うには、それなりの心がけが必要だと考えています。

単なる〝場所貸し〟ではだめで、何かしら〝心のお土産〟を持って帰ってもらえるような仕掛けをしなければいけません。通訳を介さず私が直接話をするなり、何か文化体験してもらうなり、仏教や日本の文化の香りを感じてもらう。
そのワークショップにおいても、日本庭園を眺めながらの季節の和菓子とお茶を楽しんでいただきました」ただ、多くの寺院では、海外から参加者を受け入れる体制や設備に不安を感じることも多い。
 

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それについて松山副住職は「寺院は、法事などの際に訪れる方に食事を出すことがあります。皆さんにお食事を提供でき、広い本堂がある。つまり、すでに会議やフォーラムなどを開催する設備が整っているのです」と寺院での受け入れ態勢に不安は少ないと語っている。

もちろん細かい配慮も必要だ。座布団に慣れてない海外からの来訪者にはテーブルとイスを用意。お手洗いも洋式にしている。「あとは、やはり海外の方は靴のまま上がろうとする方がいらっしゃるので(笑)、靴を脱いでおあがりください、という掲示は必要でしょうね。英語での表示よりイラストで示す方がよいと思います」
 

今、国際会議に求められる精神性をかもし出す会場演出

昨年10月、退蔵院が開催地である「IHRA国際フォーラム」が「MICEの誘致拡大に向けたユニークベニュー活用促進事業」として観光庁の支援を受けることに決まった。同フォーラムの主催者も、退蔵院での開催に特別な意味を感じているようだ。
 

s_方丈ワークショップの会場となった、退蔵院の方丈

それについて松山副住職は次のように語ってくれた。
「この場所は『日本の技術というのは見えないところを大事にしている』ということをアピールする場として最適なのです。本堂の建具や襖は400年経っているのですが、この年月に耐えうるだけの技術によって作られています。
日本の鉄道の技術力をアピールするには、もってこいの場所だと思っていただけたのです」さらに、海外旅行者の新たなニーズにおいても神社仏閣が果たす役割は大きいようだ。

松山副住職によれば「京都観光は、単なる名所めぐりから少人数での〝体験〟を求める形、つまり〝seeing〟から〝doing〟になってきました。そして最近は、旅のなかに精神性を求める〝being〟になってきています。

幸せとは何か、なぜ自分は仕事をしているのか・・・家に帰ってきてからも生き方の指針となるようなものを求める方が増えてきています。
そのニーズに対応できるのは、まさに神社仏閣だと思います」今、国際会議の会場にも、このような精神性が求められているのに違いない。
 

主催側・文部科学省が考える社寺におけるユニークベニューの意義

一方、「クリスタルアワード受賞者との特別ワークショップ」を主催した文部科学省のスポーツ・文化・ワールド・フォーラム準備室リーダーの藤沢久美さんは、ワークショップが成功裏に開催できた要因について次のように語る。
「退蔵院の会場としての魅力が非常に高く、日常と非日常を併せ持つ歴史的な空間に身を置くことで、出演者・参加者に自然と一体感が生まれました。また、会場そのものに個性が備わっているので、敢えて作り込んだ演出を用意する必要もありませんでした」
 

参加者との一体感を自然と生み出す歴史的空間

参加者からも好評だったようで、「登壇者からもここでの基調講演やパフォーマンスは大変印象深かったとのご意見をいただいております」と藤沢リーダー。
 

s_パフォーマンスタン・スウィーヒャンさんによるパフォーマンス

さらに今後、このような国際的なイベントや会議を、神社仏閣などを活用して開催することについて藤沢リーダーは、「今回のワークショップは、受賞者の来日や松山副住職のお力添えなど、さまざまなご縁が重なっての実現でした。

今後もこうした機会がありましたら、お寺などでの開催を検討したいと思います。イベントや会議のご相談をしたくなった際に、ご協力いただけるお寺や神社に関する連絡先や会場の諸情報などの一覧などがあると検討しやすいかと思います」と語ってくれた。
 

インタビュー:観光庁国際観光課課長 MICE推進室室長 田中由紀さん

観光庁が取り組む社寺におけるユニークベニューの開発・利用促進の意義

MICEの誘致・開催には当該国・都市地域の発展、成長に寄与する大きな意義があり、国際的な誘致競争が激化している。観光庁では現在、MICE誘致に関してさまざまな取り組みを行っている。

 MICE誘致の必要性について、観光庁国際観光課課長でMICE推進室の室長を兼務する田中由紀(たなかゆき)課長は「MICEのEにあたる展示会やイベントの部分は誘致というよりも自分たちで開催して人を集めていくものになりますが、M(ミーティング)、I(報奨・研修旅行)、C(国際会議)の部分は誘致活動をしないといけない。そのためのいろいろな支援を行っているのがMICE推進室です」と話す。
 

s_田中由紀さん観光庁国際観光課課長 MICE推進室室長 田中由紀さん

MICE誘致には専門のノウハウが必要であり、経済波及効果など有用性を関係者に示して巻き込んでいくことも重要となるため情報発信と収集に取り組んでいる。
地域の誘致力強化のために強化都市の指定も行っているが、「観光誘致と違って、ターゲット層が学会の先生や研究者になるので、観光情報だけ提供していても意味がありません。

その都市で開催することの意義は何なのか、どのようにプレゼンテーションすればいいのかを専門家の目を通して考えています」と、MICEならではの目線で戦略が必要と語った。
 

ユニークベニューにおいて高まる社寺への期待

現在、ユニークベニュー施設リストとして約100箇所近くが挙げられている。
その選定のポイントは「どこでもユニークベニューにできるわけではなく、施設管理の方のご理解が必要。実際にレセプションやディナーで使うことができる施設を中心に選定しています。
 

s_円通院ユニークベニュー施設リストにあがる、宮崎県の圓通院(えんつういん)。日本庭園は松島随一と言われる。

数は少ないですが、まだユニークベニューとして開放していないところでも、調整することでリストに入れてあるところもあります」としている。社寺も選定されているが、その数は決して多く無い。

「こちらはすでにユニークベニューとして実績がある社寺ということで選定しています。すぐにでも利用したい方に使っていただくためのリストなので、使いやすい状態にあるところでないと選定は難しい」というのが理由だ。

社寺の選定数が少ないことについては「そもそも社寺関係の方がユニークベニューの概念についてご存知の方が少ないこともあると思います。施設側の方もハードルが高いと考えていらっしゃることもあるでしょうね」と考察した。
社寺に限らず、「文化財などがある施設ですと、傷がつくのではないかなどの心配や一般の方に向けては貸し出せないというご意見もある」。

今年度ではそのような施設がどのような工夫や調整を経てユニークベニューとして活用できるようになったかも取りまとめて、関係者に周知できるようにしていきたいという。
選定リストでの数は少ないが、観光目的でない方にユニークべニューを利用してもらうことで日本の良さを体感してもらうという意味において社寺は非常に魅力的な施設と考えられている。

「お寺や神社はまさしく日本ならではの場所なので、日本を体感、体験していただくにはもってこい。日本の文化を感じる場としての需要に社寺の方々に関心を持っていただいてご検討していただきたい」と期待を寄せた。
 

特別な場所で実施される日本らしいプログラムに価値

2016(平成28)年度からは新たな取り組みとして「MICE誘致に向けたユニークベニュー活用促進事業」が進められている。これまでも観光庁ではユニークベニューを活用させたいという取り組みは行ってきていたが、まだまだ知られていないという実態があった。

そこでこの取り組みを継続強化させ、ユニークベニューの活用実績を増やしていきたいという狙いだ。ユニークベニューを活用したレセプションや会議を開催する場合に費用の一部が支援され、2回の公募で計9件が決定した。
「通常はイベントなどが行われない特別な場所であることをまず重視しています。また、そこでできる特別なプログラムに工夫があるかどうかもポイントになります」と決定のポイントを挙げた。

特別なプログラムとは、例えば寺院であれば、住職による英語での講話が実施できる、神社の境内でお神酒や食事などを提供できる、などだ。特別な場所で、日本らしさを体感できるかどうかが重要となる。

MICE誘致については観光庁以外でも、各自治体やコンベンションビューローも普及・啓発に取り組んでいる。「ユニークベニューの概念を広め、皆さんに積極的に取り組んでいただけるような仕組みにしていきたい」と、今後の訪日客増加の目標に向け、観光庁として今後も精力的に取り組んでいく方針だ。
 

ユニークベニューを地域活性のきっかけに

国際会議やレセプションと聞くと大規模なものを想定してしまうが、MICEの規模もさまざまで数人程度のものから数千人規模のものまでいろいろなパターンがある。
 

s_pixta_22563046_M2016年に開催された「国際メトロポリス会議 愛知・名古屋」では、熱田神宮の熱田神宮会館でフェアウェル・ディナーが催された。

 
そもそも多くの社寺で独自の会館やホールを持ち、結婚式のほかにさまざまな会議などを開催しているケースは多い。

たとえば神戸・生田神社では「生田神社会館」で学会の会議が開催されたり、製薬メーカーの講演会も年間100回ほど開かれているという。
また奈良・東大寺は図書館、ミュージアム、収蔵庫、寺史研究所、華厳学研究所、金鐘会館とショップやカフェを備えた複合施設「東大寺総合文化センター」において、東大寺の歴史や美術を紹介する企画展や「東大寺学講座」など多彩な催しを行ったり、国際会議の会場としても利用されている。

このように多くの社寺において、会議やレセプションを受け入れるノウハウは有しているといえる。さらにユニークベニューへ取り組むことは、社寺の既存の会館などを利用することもできるので、これまでとは違った層の人々を社寺に招き入れる機会の創出となるのは間違いない。

単に日本らしい風情を味わえるだけでなく、日本の技術力の根幹を示すことができ、さらに来訪者の心にも語り掛けること
ができる。ユニークベニューとしての神社仏閣への期待はますます高まりそうだ。加えて、社寺周辺の経済波及効果から、地域貢献にもつながる可能性もある。

ユニークベニューの支援以外にも、これまで本誌では文化財保全や外国人観光客誘致に関するさまざまな補助事業を紹介してきた。それらを有効的に活用し、社会や地域へのより積極的なコミットメントを検討してみてはいかがだろうか。

<取材協力>
臨済宗大本山妙心寺退蔵院 http://www.taizoin.com/
文部科学省スポーツ・文化・ワールド・フォーラム準備室
「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」のホームページ:
http://www.mext.go.jp/a_menu/worldforumonsportandculture/index.htm
観光庁 国際観光課MICE推進室
「MICEの開催・誘致の推進」のホームページ:
http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/mice.html

※情報誌 寺社Now vol.13 「巻頭特集~」より

2017-03-08 | Category スペシャル

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