【編集企画】高齢化社会に備えて 〜 社寺のバリアフリーを考える 〜①


社寺において高齢者の訪問数が増加する昨今、設備のバリアフリー化の必要性も高まりつつある。
今回の編集企画では、社寺の環境整備の一つとして「バリアフリー化」について考えてみたい。
ハード面におけるバリアフリーは、文化財・宗教施設という面から難しいという声もあるが、
導入にむけた共通認識の持ち方や、実際にバリアフリーを進めている社寺の事例をご紹介する。



〈インタビュー〉 中央大学研究開発機構 教授
国土交通省バリアフリー化推進功労者表彰選考委員会 委員長 秋山哲男さん

魅力ある社寺そして街づくりのためにバリアフリー化を

ユニバーサルデザインやバリアフリーといった視点から誰もが暮らしやすく、移動しやすい街づくりを進めているのが、中央大学研究開発機構の秋山哲男(あきやまてつお)教授。今回は秋山教授に社会におけるバリアフリーの必要性、また、社寺で取り組んでいる事例やバリアフリーを進めるための具体的な方法、今後の課題などをお聞きした。

s_秋山氏中央大学研究開発機構 秋山哲男教授


バリアフリーという視点は動きやすさの確保の一手段

秋山教授は移動そのものや動きやすさを表す『モビリティ』という概念に主眼を置き、おもに障害者のモビリティ確保に関する研究を行っている。「ユニバーサルデザインやバリアフリーという視点は、モビリティを確保するためのツール。しかもそれは駅舎や車両といった限られた空間でなく、移動困難者が動きやすいような街にすることが肝要。モビリティ確保はイコール街づくりなのです」と秋山教授。

こうした高齢者や障害者といった移動困難者が移動しやすい公共交通機関や建築物、道路などのバリアフリー化を総合的に進めるための良い評価事例を紹介する一つが、秋山教授が委員長を務める『国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰』だ。同委員会では毎年、バリアフリー化に貢献した個人や団体を表彰。10回目の今年は仙台市交通局や全日空輸株式会社などが受賞した。


国宝や重要文化財は仮設の設備や人的支援で

この大臣表彰では、第4回に京都の清水寺が『重要文化財を活かした寺社地のバリアフリー化』(受賞タイトル)で受賞。清水寺では国宝・重要文化財が建ち並んでおり、改修するための制約が多い上、高低差の大きい傾斜地に建つなどバリアフリー化には厳しい条件がそろっていた。しかし、文化財の確保や景観への配慮もしつつ、車いす用の舗装や参拝路のスロープ整備などを行って境内を一周できる段差のない参拝ルートを確保。また、参拝ルート上に3つの多機能トイレも設置したほか、拝観入口近くまで車でアプローチできるようにした。

「このほか、私の調査では重要文化財や国宝がある場合、形を変えることなく仮設のスロープを付けるなどの工夫をしている社寺がありました。また、地面が玉砂利だった場合は、『車いすを押します』といった人的支援でバリアを解消しているケースもありました」と秋山教
授は言う。半面、まったくバリアフリー化が進んでいないケースもあり、「社寺は二極化になっている」(秋山教授)という。


重要なポイントは幅と段差とトイレ

実際に社寺でバリアフリー化を進める場合、どのようなハードルがあるのか。秋山教授は「3つの関門があります」と指摘する。1つ目は「国宝、もしくは歴史的建造物かどうか」。文化財の場合は許可を得たり、形を崩さないように整備する必要が出てくる。2つ目が「地形」。傾斜地で段差が多かったりするとその分、整備も大変になる。3つ目が「公私」。社寺の敷地が個人の所有の場合、所有者の考えによって左右されるからだ。「これらの問題を丁寧に解きほぐし、どこまで整備可能なのかを調査して、方法論を考えていくことが第一歩」と秋山教授はアドバイスする。

それでは具体的には何から手をつければいいのか。秋山教授は「車いすの人がお参りしてトイレを利用することを基本とすると分かりやすいのでは」とアドバイス。その際の前提となるのが、「幅」と「段差」だという。幅は車いすが通れる90センチメートルは確保したい。また、段差はスロープやエレベーターなどを設置する。トイレは、車いすだけでなく、ベビーカー、オストメイト(人工肛門・膀胱保有者)など多様な人が使えるよう配慮する必要がある。「幅と段差とトイレ。これがポイントです。最低限、これがそろえばある程度のバリアフリーをクリアできるのでは」と秋山教授。また、「前出の社寺のケースのように設備がない分、人的に支援するというのも1つの方法。そうすることで、バリアフリーの幅も広がります」という。

一方、こうした整備を進める前に基本構想を練ることがポイントとなる。その際「社寺単独で計画を進めるのではなく、例えば駅から社寺までのルートなど、周辺のバリアフリー化を考える必要があります。このため、行政などと連携しながら計画を進めることが大切。それによって、社寺も生きるし、街も生きることになります」と秋山教授は助言する。

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古い歴史と新しい考え方、二者の融合で魅力を向上

魅力ある社寺、そして魅力ある街づくりを進める上で、だれもが利用しやすい、移動しやすい環境を整えることは重要なファクターだ。とはいっても、社寺のような歴史的建造物は街の顔として重要な存在感を持っており、とくに国宝などの場合は、形を変えることなくバリアフリー化することが求められる。

「例えば、チェコ共和国のプラハでは、中世の古い城と近代のキュービズムの建築物が共存し、街としての魅力を高めている。つまり、古い歴史と新しい考え方のどこで折り合いをつけるか。バリアフリーだけですべてを進めていくのではなく、人々の生きざまをどうやって変えていけるのか。それが私たちの目指すところです」

秋山教授は言う。「今後、高齢化がますます進んでいく中で参拝客を確保するために、ぜひ、折り合いをつけながらバリアフリー化を進めてほしいですね」

<関連サイト>
■ 中央大学研究開発機構 
http://www.chuo-u.ac.jp/research/rdi/
■ 国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_tk_000001.html



CASE① 伊勢志摩バリアフリーセンター

「パーソナルバリアフリー基準」を独自で開発し、障害者をサポート

本当に必要な情報とは利用者の視点で情報収集

観光地、伊勢志摩の鳥羽市にあるNPO法人「伊勢志摩バリアフリーセンター」。このNPO法人は、バリアフリーについての啓蒙活動を行いつつ、バリアフリー対応が必要な障害者や高齢者に対して伊勢・鳥羽・志摩など三重県の観光に関してさまざまな活動を行っている。その活動が認められ「第1回国土交通省バリアフリー化推進功労者大臣表彰」を受賞した。彼らが目指すのは「日本一のバリアフリー観光地づくり」。そして合言葉は「行けるところ、より、行きたいところへ」だ。

さまざまな活動のなかで、第1にあげられるのは情報収集だ。宿泊施設や観光施設のバリアフリー環境に関する正確な情報を把握するため、伊勢志摩地域内の障害者を含む「専門員」と呼ばれる調査スタッフを組織。彼らが実際に調査対象の施設へ出向き、体が不自由な観光客の視点で調査を行う。例えば入り口の幅、段差の高さ、トイレの大きさ、ベッドの高さなどを、同法人が独自に開発した「パーソナルバリアフリー基準」に基づいて細かく調べ、その結果を窓口やホームページで公開している。

この「パーソナルバリアフリー基準」とは、一般的なバリアフリー情報である「段差の有無」だけを提供するのではなく、その施設の「バリア」を詳細に調べ上げてありのまま紹介するのが特徴だ。例えば同じ車いすの旅行者でも、個人行動なのか、誰かと一緒なのか、若い人なのか高齢者なのかなどの状況によって、どういったことがバリアとなるのかは千差万別。旅行者それぞれのバリアを理解するために、幅広く詳細な情報を集めている。

第2の活動として、「パーソナルバリアフリー基準」による調査情報を基にして、旅行者の体の状態や希望に沿った宿泊施設や観光施設の紹介、旅行アドバイスを、障害者を含むスタッフが常駐で行っている。単にバリアフリーの状況を伝えるだけでなく、「段差はあるけど景色が素晴らしい宿泊施設」といったような、バリアを超えた先にある「楽しみ」「喜び」を結び付けて提供するための基準だ。

s_伊勢ヘルパー活動写真「伊勢おもてなしヘルパー」のボランティアが、車いすの介助をしてくれる


「行きたい」を実現するサポート活動も充実

そして第3の活動は、現地でのサポート体制の確立。例えば伊勢神宮の玉砂利の参道では、タイヤの太い参拝専用の車いすを借りることができるが、介助が必要なため、ボランティアがその役割を果たす。同センターでは伊勢市や観光協会などと連携して育成した「伊勢おもてなしヘルパー」による有償のサポート体制を確立。内宮の参道の車いす介助の他、希望者には、ご正宮前にある25段の階段を、車いすごと上げるサポートも行う。

このような活動は、障害者や高齢者の助けとなるだけでなく、施設側にとっても新たな顧客獲得となる。すでに「パーソナルバリアフリー基準」は全国各地のバリアフリーツアーセンターでも利用されているようだが、全国各地で同センターと同様の活動ができれば、社寺にとっても観光面での活性化につながるのは間違いなさそうだ。

NPO法人
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター

〒517-0011 三重県鳥羽市鳥羽一丁目2383-13鳥羽一番街1F
TEL:0599-21-0550
http://www.barifuri.com/



CASE② 大本山 中山寺

妊婦や高齢者、ベビーカーなど多彩な参拝者に配慮した改修計画

参拝者の特性を考えるバリアフリーへの姿勢

今から1400年前に聖徳太子により開山、日本初の観音霊場とされる中山寺。明治天皇の出産時に安産祈願したことから安産祈願の霊場として広く知られており、安産祈願の腹帯を求めて全国から参拝者が訪れている。その中山寺はまた、バリアフリーに対する積極的な取り組みでも知られている。その取り組みについて中山寺のVol.14 10谷本恵隆(たにもとえりゅう)さんは「やはり安産祈願として知られていることから、参拝される方はご妊婦さんや小さいお子様、娘の安産を願う高齢者の方々が必然的に多くなります」。

中山寺は、1995( 平成7)年に開創1400年記念行事として、新築、改修工事を行う予定があり、同年1月18日から着工する予定だった。ところが、その前日、1月17日に阪神淡路大震災が起った。中山寺も総持院(そうじいん)、華蔵院(けぞういん)など山門を挟む塔頭に甚大な被害をこうむった。観音様のご加護によるものか、本堂だけは奇跡的に被害をまぬがれることができた。「全国的にもバリアフリーの設備が充実してきたのか、ここ5~6年は車いすで参拝される方が増えたように感じます。また中山寺に参拝される方々は、安産祈願ということもあって、もとより車いすやベビーカーで来られる方が多い。なので改修工事にあたっては当初よりエレベーターやエスカレーターをつける計画でした。しかし改修工事着工の前日に震災を経験するにあたり、あらためて震災復興事業の一環として、安全性にも配慮しながら綿密なバリアフリー計画を立てました」と谷本さん。

本堂と五重塔までのルートには、エレベーター2基とエスカレーター2基を設置。さらに大だ いがんとう願塔へのつながるルートにもエレベーターが設置されている。つまり本堂、大願塔、大師堂、五重塔など主要なお堂には、車いすやベビーカーでスムーズにお参りできる。「境内の雰囲気のなかで違和感のないよう、景観については考慮しました。昔ながらの石段に沿わしつつ、外観的にも朱色を使うなど外観的にも違和感のないようにしました」また「本堂までの坂道もスロープなっています」ということなので、もし体力があるのであれば、エレベーターなどの設備に頼らなくても本堂にたどり着くことができる。


エレベーターだけではないさまざまな配慮が各所に

参拝者への配慮はこれだけではない。「お手洗いにもバリアフリーに配慮しています。洋式の多機能のものに改修しており、手すりも設置しています。もちろんトイレに入るまでの動線においてもスロープを設置しています」。トイレの暖かい便座は、急激な温度差によって体調が急激に悪化するヒートショックの対策としても有効だ。「結果として、ご参拝の方々からも『これええやんか』『助かるわぁ』という声を聞くことができています」

JR中山寺駅構外には、2002(平成14)年からエレベーターが設置された。これは宝塚市が自治体として取り組んだものだ。宝塚市はほかにも、「交通バリアフリー法に基づく重点整備地区」として宝塚駅周辺及び逆瀬川駅周辺の2地区を指定し、各地域におけるバリアフリー化のための整備目標、整備内容を盛り込んだ基本構想の策定を行っている。このように、自治体と地域が同じ志をもってバリアフリーに取り組むことが、今後のさらなる普及につながるのではないだろうか。

s_中山寺エスカレーター

s_中山寺エレベーター中山寺の本堂へ向かうエレベータとエスカレータ

大本山 中山寺
〒665-8588兵庫県宝塚市中山寺2-11-1
TEL:0797-87-0024
http://nakayamadera.or.jp/




今後はバリアフリーの「質」が問われることに

2008(平成20年3月、日本では『バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進要綱』が策定され、内閣府も関係機関との連携を図ってバリアフリー化に積極的に取り組んできた。その効果もあって、国民への調査においても約半数の人が「バリアフリーは十分進んだ」または「まあまあ進んだ」と考えるようになった ※2016(平成28)年3月公開の内閣府による意識調査報告書より。

しかし、今後さらなる超高齢化社会を迎えるにあたり、バリアフリーに対する意識や現状の設備に対してさまざまな場面でその質を問われることとなるだろう。利用者の立場に立って考えたバリアフリーの取り組みが、社寺を含めた地域全体の活性化につながるといえよう。

2017-05-08 | Category スペシャル

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