【特集】経験豊かな宮司の奮闘で 蘇った近江源氏の氏神様


荒廃した歴史ある神社を内外から活性化し、見事に立て直した宮司。
再建復興の成功の鍵は、経験に裏打ちされた数々のアイデアにあった。


復興への道のり

s_A-2_社殿_02 (2)

近江源氏の氏神様として崇敬され、佐々木姓発祥の地に鎮座する滋賀県の沙沙貴神社(ささきじんじゃ)。堂々たる社殿は、県の文化財指定を受けており、鎮守の森は珍しい樹木・草花が多いことで知られる。

しかし、40年ほど前までは、戦後の混乱期のままに荒れ果て放置されていた。現在までの復興を成し遂げたのは、昭和48年に就任した、岳眞杜宮司(おかまもり)である。

日牟禮八幡宮(ひむれはrちまんぐう)の次男に生まれた岳宮司は、伊勢の神宮皇學館(じんぐうこうがくかん)で学んだ後、父のもとで禰宜を勤めるかたわら滋賀県神社庁に奉職。神社庁では主事として、工費1億円の新築工事の責任者を務めた。また、日牟禮八幡宮では禰宜として、松明祭の飛び火で焼失した楼門屋根の修復にあたり、募財から竣工までを完遂した。その手腕を見込まれ、沙沙貴神社の氏子総代から是非にと請われて、宮司に就任したのだ。

「当時、森は鬱蒼(うっそう)として、本殿は雨漏りし、社務所は傾いて戸締まりすらできない有り様でした」

まず着手したのは、主要建物の屋根葺(ふ)き替えと社殿の修理。本殿、権殿、拝殿、楼門、社務所の工費概算見積もり額は、5千万円に上った。「とてもそんな金は出せない」と机をたたいて怒った氏子もいた。しかし生い茂った枝を手ずから払い、境内の整備に取り組む岳宮司夫妻の姿を目にして、氏子総代を中心とする地域の協力体制が自然と形づくられていった。協議の末、毎年1千万円を目標とする募財の5ヵ年計画が整い、着工。数年後に控えた宇多天皇(うだてんのう)式年祭に向けての事業も策定し、昭和55年、総事業が完成した。

s_昔の工事中楼門の屋根葺き替え工事にかかった昭和50年頃

s_C_宮司夫妻 (2)
復興にあたり岳宮司を心身ともに支えたのは、妻の睦子さん。「由緒ある神社を一から再建していくのは、やりがいのある仕事。こんなおもしろいこと、他人には任せられませんよ」。明るく前向きな言葉に励まされたという


転機となった文化財指定

神社庁での経験から、どんなに内情が苦しくてもこれだけは必要と積極的に取り組んだのが広報活動である。

「具体的な活動内容を知ってもらい、必要性を訴えかけなければ募財は成り立ちません。そこで、再建に向けての動きと教化活動を広く知らしめるために、社報を発行し、地域の方々や参拝者、関係各所に送付しました」

また、以前から全国の佐々木姓の集まりを組織化するという動きがあったのに目をつけ、近江源氏「沙沙貴神社全国佐佐木会」と改称した。会員に社報を送ると反響があり、日本じゅうに崇敬者の輪が広がるとともに多大な支援が寄せられるようになった。

岳宮司のあふれる熱意に突き動かされ、徐々に再建が進んでいった頃、大きな転機が訪れた。

平成元年夏、江戸中期に再建された楼門、東廻廊、西廻廊の調査のため、県の文化財保護審議会の委員らが沙沙貴神社を訪れていた。屋根を檜皮葺(ひわだぶき)から銅板葺(どうはんぶき)に替える際に出てきた棟札(むねふだ)を何気なく見せたところ、研究者たちの顔色が変わった。「これは持ち帰って詳しく調べてみないと」

結果、江戸後期の丸亀藩主、京極高朗(きょうごくたかあきら)公の名前が発見され、本殿、権殿、拝殿、楼門、東西廻廊など8棟が滋賀県有形文化財指定を受けた。

「文化財指定を受けてからは、補助金がおりるようになり、とても助かりました。屋根工事のとき、大事なものだからきちんと保管しておくようアドバイスしてくれた棟梁に感謝しています」

平成4年から10年がかりで、県と市の補助金と指導監督により、消防法の基準に則した防災工事と、電線・下水道などの地下埋設を含む環境整備が完成した。とはいえ、8千坪もの外苑・境内を管理していくのは並大抵のことではい。新たに補修・改修が必要な箇所が次々とでてくる。現在は「平成の社頭整備」のため勧募を呼びかけている。

「またかとお思いの方もおられるでしょうが、立派になってうれしい、こんな形でお金を使ってくれるなら甲斐があると言ってくださる氏子さんもいます」

s_無題伊勢の神宮ゆかりの米、懸税(かけちから「)イセヒカリ」から醸造した純米酒「神乃滴」。日々早朝の日供祭(にっくさい)に、御食(みけ)米、御酒(みき)酒としてお供えしてい


さらに広がる将来の展望

 
10月で80歳を迎える岳宮司が、めでたく復興が成った今なお意欲的なのには、もうひとつ理由がある。長女の郁美さんが後継者として禰宜を務め、孫の祐眞くんも神事のたびに参加してくれるからだ。

「沙沙貴神社の一番の魅力は、重厚な建築物や珍しい樹木など多彩な文化にふれられること。ほかにも文化財指定のきっかけとなった棟札、大津市在住の画家ウィリアムズ氏に寄贈された絵画など、たくさんの宝物があります。将来、それらを一般の参拝者の方々にご覧いただける展示館を設けたいと考えています」

広大な境内と社殿を護持し次代への灯を絶やさぬために、さらなる夢をふくらませている。

 

s_楼門
沙沙貴神社
〒521-1351
滋賀県近江八幡市安土町常楽寺1
TEL.0748-46-3564
http://sasakijinja.or.jp/

2017-05-09 | Category スペシャル

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