仰天偉業!!東京藝大スーパークローン技術!弥勒世界再現への挑戦①バーミヤン天井壁画「青の弥勒」復元レポート【東京藝術大学美術館「みろく展」開催記念特集】

■東京藝術大学美術館「みろく–—終わりの彼方 弥勒の世界——」図録シリーズPart1
最先端スーパークローン技術を駆使して人類共通の遺産を復元している東京藝術大学COI(センター・オブ・イノベーション)による「みろく–—終わりの彼方 弥勒の世界——」展の開催を記念して、実際に現場で制作に携わった諸先生方によるレポートをシリーズでご紹介します。

※本展は「東京藝術大学アフガニスタン特別企画展」(2015年)、「素心伝心 —クローン文化財 失われた刻の再生」(2017年)に次ぐ、文部科学省が推し進める「革新的イノベーション創出プログラム」事業の成果発表の場となる展覧会で、当記事は、東京藝術大学COIより特別に許可を得て公式図録から転載するものです。下記の記事とあわせてお読みください。

弥勒世界再現への挑戦Part1
バーミヤンE窟天井壁画「青の弥勒」の復元

文:林 樹里(東京藝術大学COI特任助手)

「麗しの菩薩」復元に挑む

乾いた風が雄大な渓谷に広がる草木の葉を撫で、軽やかな音を奏でる。険しく切り立つ山々を背にした岩壁に800を超える窟が点在し、その中の一つE窟に「青の弥勒」はある。窟の中へと踏み入れば人為とは思えぬ巨大な仏さまが悠々とそびえ、その足元からゆっくりと頭上へ視線を動かすと、どこまでも続く青空に目を眩ませるやいなや、鮮やかな色彩を湛えた天井壁画に圧倒される。在りし日の壁画の姿を写真で目にした時、そうした崇高な情景が脳裏に広がったのだった。

「青の弥勒」は、その名の通り青を基調とする色彩が美しい天井壁画だ。その青は広大な空の青と相まって一層輝き、最頂部に描かれた秀麗な姿の弥勒が、見るものを優しく包むように見下ろしていたことだろう。「麗しの菩薩」とも呼ばれたこの壁画が、今や現地へ赴いても見られないことなど信じがたく、心より悔やまれる。

その「青の弥勒」を蘇らせるべく、制作を開始したのは2019年7月だった。「青の弥勒」復元は、同じくバーミヤン石窟の東大仏仏龕天井壁画「天翔る太陽神」復元に続くプロジェクトであり、前回の制作プロセスを参考にしつつ、特に構造についてはより精度を上げるための工夫が思案された。

制作は、主に壁画の本体を制作する立体班と、壁画の図像を制作する平面班に分かれて行われた。ここでは、まず平面班の作業について記すが、その工程は大きく次の通りだ。⑴残された写真資料から可能な限りの高精細画像を作成し繋ぎ合わせて全図を作成、⑵全図を縮小印刷して手彩色を加え密度をあげ、高精細撮影して原寸に適した解像度のデータを作成、⑶立体の展開図に画像を再編、⑷壁画表面を再現した和紙に出力し、立体に貼り付け、⑸手彩色による仕上げ、これらの工程を経て完成となる。

悠久の人々がどのように窟を掘り、そして天井画を描いたのか。プロジェクトが進み制作上の壁に当たるたび、太古の人々が有したその膨大な労力と時間に思いを馳せることとなった。

写真資料に基づく壁画全図の作成

壁画の在りし日の姿を現在我々に伝えているのは、破壊前に撮影された膨大な調査資料だ。1970年代に京都大学の調査団が撮影した15,000点近い中判ポジフィルムや、東京文化財研究所に保管されるポジフィルムから、E窟を写したものを選出し、今回の復元の主な手がかりとして用いた。ただし、壁画全体を撮影した写真は原寸出力には到底解像度が足りない。そこで、壁画を分割で撮影した写真をパズルのピースのようにつなぎ合わせることから制作はスタートした。

【図1】残された写真資料からデジタルデータを作成

写真資料には、カラーと白黒の二種類があり、カラーフィルム写真は図像を色彩とともに伝えるものの、十分な画質はなく図像の輪郭を鮮明に捉えることができない。一方、白黒のフィルム写真にはカラー写真よりも精度が高い画像が残されている。そこで、この二種類をデジタル上で重ね合わせ、図像は白黒写真から、色彩はカラー写真から抽出して合成することで、可能な限り精度の高いデジタル画像を作ることに成功した[図1]。

次に、カラーおよび白黒写真から作成した各画像をつなぎ合わせ、壁画の全体図を作成した[図2]。それぞれの写真は、当然ながら壁画に対する撮影角度が全て異なるうえ、空を仰いで逆光で撮られているため光の調子も一定ではない。これらを修正しつつ図像を繋げる試行錯誤を経て、まずはデータ上で破壊前の「青の弥勒」の全貌が現れた[図3]。

【図2】分割写真をつなぎ合わせて壁画全体図を作成

【図3】1970年代に撮影された写真を元にした再現図

図像の想定復元

さて、改めて破壊前の全図をみると、それまでにもすでに図像が失われていた部分があることが見て取れる。今回の復元プロジェクトでは、「青の弥勒」の破壊前当時の姿を取り戻すだけでなく、さらに時を戻しより鮮明に図像が残されていた頃の様子を復元することを最終目的としていた。そして、本展覧会ではバーミヤンからシルクロードを辿り日本へと続変遷がテーマの一つとなっており、特に各地の弥勒を弥勒たらしめる共通の特徴として、交脚する姿に光が当てられていた。

そこで、前田耕作先生監修のもと、同時代の弥勒像やバーミヤン石窟に残る他の弥勒像を参照し、破壊前の「青の弥勒」ではすでに失われてしまっていた、交脚して水瓶をもつ姿の図像を想定復元した。こうして、想定復元した全体図のデータが完成したが、まだ原寸での制作に耐えるだけの解像度を有していなかった。そこで、壁画表面の質感を再現した和紙に縮小版の全図を印刷し、細部を加筆して補い、再度高精細撮影することで、原寸出力にも適した画像解像度のデータを得た[図4]。

【図4】東京藝術大学COI拠点による想定復元図(2021年)

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