「神々しい威厳と、人間のものならぬ美しさ」
和辻哲郎『古寺巡礼』
「世の中にこんな美しいものがあるのかと、私はただ茫然とみとれていた」
白洲正子『十一面観音巡礼』
「それは菩薩の慈悲というよりは、神の威厳を感じさせた」
土門 拳『古寺巡礼』
〝国宝中の国宝〟〝日本彫刻の最高傑作〟と称えられてきた「聖林寺 十一面観音菩薩立像」。
かつてこの仏像が安置されていた三輪山・大神(おおみわ)神社内の神宮寺であった旧大御輪寺(だいごりんじ)伝来の仏像たちが、明治初年の神仏分離令により離散して以来、実に150年ぶりに奇跡の再会を果たす。
大神神社は、日本書紀や古事記にもたびたび登場する日本最古の神社として知られ、円錐形の三輪山をご神体としている。つまり三輪山は、仏教伝来以前から続く日本の原初的な信仰の山と言える。神の山に、最古の神社、そしてかつてそこに座した〝みほとけ〟たち。
奈良国立博物館と東京国立博物館の共同で企画された本展は、文化庁・宮内庁・読売新聞社が官民連携で取り組む「日本の美を伝える『紡ぐプロジェクト−皇室の至宝・国宝プロジェクト−』の一環。昨年の東博展に際して、十一面観音像が造立されて以来、実に1200年以上にもおよぶ歴史のなかで初めて奈良の地を出た。そして今回、地元奈良への巡回展である。
仏像造立の時期から推察すると、疫病平癒の祈りと願いが込められたと思われる十一面観音が、コロナ禍の今、奈良から東京へ、そしてまた奈良へと戻ってくる。東京展では、会場で観音像と向き合い、涙する人の姿も見られたという。
本展終了後、国宝十一面観音立像は、聖林寺で現在改修工事中の新しい観音堂の納められる。そして以降、観音の出座はない。奈良博の特別展は、〝国宝中の国宝〟と何の隔てもなく直接向き合える、まさに文字通り千載一遇のチャンスとなる。
本展の見どころ① 国宝「十一面観音菩薩立像」奈良博で24年ぶりの公開
奈良国立博物館で開催された特別展「天平」(1998年)以来の出陳。奈良時代(8世紀)に造られた天平彫刻の名品と賞される本像を間近で拝観できる。
本展の見どころ② 十一面観音像を360度ぐるり観覧〈千載一遇の露出展示〉
優雅な表情、均整の取れた体軀、姿勢、しぐさの美しさなど、360度さまざまな角度からじっくりと堪能できる。ガラスケースに入れずに露出展示されるのは、今回限りという贅沢な展示となる。
本展の見どころ③ 三輪山信仰のみほとけが約150年ぶりに再会
江戸時代までは神社に仏がまつられるのは珍しくなく、現在法隆寺が所蔵する国宝「地蔵菩薩立像」、正暦寺「日光菩薩立像」、「月光菩薩立り像」もかつて大神神社にまつられていた。これら三輪山信仰ゆかりの仏像が、約150年ぶりに奈良の地で再会する。
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