仏像たちが同窓会で150年ぶりの再会!奈良博「聖林寺十一面観音〜三輪山信仰のみほとけ」開幕

国宝十一面観音菩薩立像 木心乾漆造り、漆箔 像高209.1cm 奈良時代 8世紀(奈良・聖林寺蔵) 造立は奈良時代後期(760年代)。長らく秘仏とされてきたが、明治になってアメリカ人の美術研究家、フェノロサに見出され、その禁を解かれた。このときフェノロサは、「この界隈にどれほどの資産家がいても、この仏一体に到底及ばない」と激賞。以降、あまたの人々を魅了してきた

「神々しい威厳と、人間のものならぬ美しさ」
和辻哲郎『古寺巡礼』

「世の中にこんな美しいものがあるのかと、私はただ茫然とみとれていた」
白洲正子『十一面観音巡礼』

「それは菩薩の慈悲というよりは、神の威厳を感じさせた」
土門 拳『古寺巡礼』

〝国宝中の国宝〟〝日本彫刻の最高傑作〟と称えられてきた「聖林寺 十一面観音菩薩立像」。
かつてこの仏像が安置されていた三輪山・大神(おおみわ)神社内の神宮寺であった旧大御輪寺(だいごりんじ)伝来の仏像たちが、明治初年の神仏分離令により離散して以来、実に150年ぶりに奇跡の再会を果たす。

大神神社は、日本書紀や古事記にもたびたび登場する日本最古の神社として知られ、円錐形の三輪山をご神体としている。つまり三輪山は、仏教伝来以前から続く日本の原初的な信仰の山と言える。神の山に、最古の神社、そしてかつてそこに座した〝みほとけ〟たち。

奈良国立博物館と東京国立博物館の共同で企画された本展は、文化庁・宮内庁・読売新聞社が官民連携で取り組む「日本の美を伝える『紡ぐプロジェクト−皇室の至宝・国宝プロジェクト−』の一環。昨年の東博展に際して、十一面観音像が造立されて以来、実に1200年以上にもおよぶ歴史のなかで初めて奈良の地を出た。そして今回、地元奈良への巡回展である。

仏像造立の時期から推察すると、疫病平癒の祈りと願いが込められたと思われる十一面観音が、コロナ禍の今、奈良から東京へ、そしてまた奈良へと戻ってくる。東京展では、会場で観音像と向き合い、涙する人の姿も見られたという。

本展終了後、国宝十一面観音立像は、聖林寺で現在改修工事中の新しい観音堂の納められる。そして以降、観音の出座はない。奈良博の特別展は、〝国宝中の国宝〟と何の隔てもなく直接向き合える、まさに文字通り千載一遇のチャンスとなる。

左から、「国宝 地蔵菩薩立像」 木造、彩色 像高172.7cm 平安時代 9世紀(奈良・法隆寺蔵)、「月光菩薩立像」(部分) 木造、漆箔 像高164.5cm 平安時代 10~11世紀(奈良・正暦寺蔵)、「日光菩薩立像」(部分) 木造、漆箔 像高166.3cm 平安時代 10~11世紀(奈良・正暦寺蔵)。いずれも、「国宝十一面観音菩薩立像」(奈良・聖林寺蔵)と同じく、明治初年に旧大御輪寺からそれぞれ現在の寺院へ移された(法隆寺の地蔵菩薩立像は聖林寺を経由して法隆寺へと移された)。神仏分離前の三輪山信仰の形を今に伝える遺宝といえる

本展の見どころ① 国宝「十一面観音菩薩立像」奈良博で24年ぶりの公開

奈良国立博物館で開催された特別展「天平」(1998年)以来の出陳。奈良時代(8世紀)に造られた天平彫刻の名品と賞される本像を間近で拝観できる。

本展の見どころ② 十一面観音像を360度ぐるり観覧〈千載一遇の露出展示〉
優雅な表情、均整の取れた体軀、姿勢、しぐさの美しさなど、360度さまざまな角度からじっくりと堪能できる。ガラスケースに入れずに露出展示されるのは、今回限りという贅沢な展示となる。

本展の見どころ③ 三輪山信仰のみほとけが約150年ぶりに再会
江戸時代までは神社に仏がまつられるのは珍しくなく、現在法隆寺が所蔵する国宝「地蔵菩薩立像」、正暦寺「日光菩薩立像」、「月光菩薩立り像」もかつて大神神社にまつられていた。これら三輪山信仰ゆかりの仏像が、約150年ぶりに奈良の地で再会する。

聖林寺 十一面観音立像(部分)

聖林寺観音堂(新修蔵庫)の完成予想図[画像:聖林寺提供]本展終了後、国宝十一面観音菩薩立像は聖林寺の新しいお堂のガラスケースに納められ、以降観音の出座はないという。奈良博の特別展では、ガラスケースのない最初で最後の露出展示が行われる。国宝中の国宝と直接向き合える千載一遇の機会と言える。聖林寺では観音堂改修のため3度にわたりクラウドファンディングに挑戦している[支援募集期間:4月27日(水)23時まで]>>>https://readyfor.jp/projects/shorinji2022

聖林寺(奈良・桜井市)。境内からは、十一面観音立像がもともと安置されていた三輪山を望むことができるほか、卑弥呼の墓ともいわれる箸墓など大和盆地の古墳群、山の辺の道などを見渡すことができる。ミュージアムで仏像と出会ったら、いつの日かその寺院を訪ねたい

内覧会の前夜、会場にほど近い、奈良のサステナビリティを未来に継承するホテル「MIROKU(みろく) NARA」に滞在した。写真は、オープンスペースのバーラウンジに備えられている寺社巡りに相応しい気の利いたライブラリー。驚いたことに、たまたま訪れた客が翌日には聖林寺の国宝十一面観音とご対面することを、まるで以前から知っていたかのように、十一面観音に関する白洲正子や土門拳の著作がそこに! これがもしホテルスタッフの企みだとしたら、ただ者ではない

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監修:全国寺社観光協会

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