人は死んだら、どこに行くの?! 中之島香雪美術館「来迎(らいごう) たいせつな人との別れのために」展(4/9-5/22)

第5章:それぞれの来迎の夢

写真左手前は、本展担当学芸員の大島幸代さん(大阪市中之島・中之島香雪美術館)とその奥は郷司泰仁さん(神戸市御影・香雪美術館)

「阿弥陀二十五菩薩来迎図」三幅対(各縦104.8×横53.4cm) 鎌倉時代 13~14世紀(香雪美術館) 中幅に阿弥陀三尊、左幅に11菩薩、右幅に12菩薩を表し、あわせて阿弥陀如来と25菩薩を描いている。みな白雲に乗り、画面奥から手前へとお迎えに来ている。ちなみに本記事の第1章と第2章で紹介している来迎図は、いずれも斜め上から下へと垂直方向の移動がイメージされているが、本来的に西方浄土は水平方向に西の彼方にあると想定されるので、本作のほうがより正確性があると言える。ただし、阿弥陀如来ほか菩薩たちが、臨終にお迎えに来てくれるという移動感を平面上でよりリアルに実感させるのは、奥から手前への移動よりも、斜め上から下へという構図のほうが表現しやすいというデザイン的な観点も関係していると推察される

左と中央)「二十五菩薩来迎図」二幅 鎌倉時代 13世紀(福井県立美術館) 展示期間:後期 25人の菩薩は、舞を踊ったりポーズもさまざまで、まるでリズミカルでテンポのいい楽団のよう。右)張思恭 筆「阿弥陀三尊像」 中国 南宋時代 13世紀(京都 禅林寺) 展示期間:後期 来迎図には、正面を向いて飛来してくる正面タイプと、斜めに飛来する斜め向きタイプがあり、本作は正面タイプの一つ

ひとくちに「来迎図」と言っても、図様はさまざまでバラエティーに富んでいる。阿弥陀如来が単独で来迎することもあれば、観音菩薩や勢至菩薩を加えた阿弥陀三尊として来迎するケース、あるいは25人の菩薩を率いての来迎、さらにはもっと多くの菩薩や人物が登場するケースもある。大きさもさまざまだ。

そうしたいずれの来迎図も、死にゆく自らのために、あるいはたいせつな誰かのためにつくり、その多くは、実際に臨終の場面で、枕元に置かれたり、懸けて広げられた。旅立つ人、あるいは送り出す人が望む来迎のかたちにあわせて、さまざまなバリエーションが生まれたと考えられる。

第6章:たいせつな人との別れのために

左)滋賀県指定「阿弥陀三尊来迎図」  鎌倉時代 13世紀(滋賀 光明寺) 展示期間:前期  右)重要美術品「帰来迎図」 南北朝時代 14世紀(香雪美術館)、「帰来迎図(かえり・らいごうず)」とは、阿弥陀如来が往生者を迎え取り、極楽に帰ろうとする姿を描いている絵のこと。つまり、迎えに来るシーンを描いている来迎図の、次の極楽浄土への移動シーンを描いている。本作品、三菱財団2019年度文化財修復事業助成金をうけて修理が実施され、完成後初の公開となる

上の画像の左側「阿弥陀三尊来迎図」 をよく観ると、右下の観音菩薩の蓮台の上に、臨終を迎えた剃髪の人物が墨染めの衣と袴を着けて座っているのが見える。本作の画絹(えぎぬ)は、作中に描かれた人物が生前に着用していた衣料を転用している可能性がある。このように、来迎図の中には、往生者を描き込んだ作品もある。これらは、具体的な誰かに訪れた来迎の様子を描いたもので、たいせつな誰かの死後の幸福を約束し、残された人々の心の痛みをやわらげる機能を持ちあわせていると考えられる。

こうして観てきたように、来迎図は、臨終に際して極楽浄土へ行くことを願う往生者自身とその往生者がたいせつに思っている人のために、さらには死にゆく往生者をたいせつに思っているすべての人のためにある。生前には、日常的な礼拝の対象として、臨終の時は、来迎の夢を見るツールとして枕辺に置かれた。そして死後には、死者を想う追善供養のために、来迎図は開き懸けられた。

ひるがえって現代社会にあって、人々の死生観や他界感は大きく変容し、死者を見送る臨終の作法や葬送の儀礼も様変わりしてきている。COVID-19は死にゆく者と送る者を隔絶してそれぞれを孤立化させ、戦場で突然命を落とす犠牲者たちはみずからの死を自覚することすらできない。大阪・中之島の『来迎』展会場に佇み、前後左右で賑やかに繰り広げられる阿弥陀如来と菩薩たちによる「来迎(お迎え)」に囲まれ、「たいせつな人との別れのために」描かれた来迎図に、今、何を想う…。

写真左)大阪・中之島香雪美術館の館内には村山龍平記念室があり、また現存する旧村山家住宅のジオラマも展示されている。朝日新聞を創刊した村山龍平が六甲山の麓の神戸・御影に構えた居宅は、阪神間に広がった郊外住宅の先駆的存在だった。村山が大阪から移り住んだことなどを契機に、明治・大正・昭和初期にかけて大阪の実業家たちが競ってこの地域に私邸を構えた。旧村山家住宅は、広大な敷地と和洋の建物を擁する明治・大正期の邸宅の面影を今に伝え、国指定重要文化財に指定されている。 中央上)旧村山家住宅のうち洋館の居間が中之島香雪美術館内に再現されている。 中央下)村山龍平は茶を嗜み、茶の湯を通じて関西の財界人たちと交遊した。邸内に2つの茶室を設けたが、そのうちの1つ「玄庵」が中之島香雪美術館内に再現されている。玄庵は、村山の師である藪内流家元の茶室「燕庵」(重要文化財)の写し。 写真右)本展の図録(1冊2,200円)。そのすぐ左にある書籍の表紙カバーに村山の顔写真が見える

中之島香雪美術館「来迎 たいせつな人との別れのために」

会場中之島香雪美術館
会期2022年4月9日(土)~2022年5月22日(日)
前期:4月9日(土)~5月1日(日)
後期:5月3日(火)~5月22日(日)
休館日月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
開館時間10時~17時
(入館は16時30分まで)
夜間
特別開館
2022年4月28日(木)、5月12日(木)
午前10時~午後7時30分(入館は午後7時まで)
料金一般 1,000円/高大生 600円/小中生 300円
公式HPhttps://www.kosetsu-museum.or.jp/nakanoshima/
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監修:全国寺社観光協会

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