仏龕および天井壁画の復元
そして、壁画をいよいよ立体にするため、ここまでに作成した二次元の全図を、立体の展開図の各パーツに再編した。これらの画像を実際に出力し、巨大な構造体上[図5]で繋ぎ合せていく際には、データ編集での誤差が大きなずれになりかねないため、適宜試行を繰り返しながら立体と画像の整合性を綿密に確認して編集を進めた。
そして、最終的に完成したデータを壁画表面の質感を再現した和紙に出力し[図6]、立体に接着していった[図7]。ここでは、薄手の和紙を用いることで、和紙特有の伸縮性を利用して立体の凹凸に沿わせるように画像を貼りつけた。
ついに立体となった壁画だが、ここからさらに手彩色を加えることでより精度の高い復元を目指した。「青の弥勒」がその名で呼ばれる所以となった、本壁画の大半を占める青色は、アフガニスタン特産のラピスラズリの鉱石とされる。本壁画のアイデンティティーとも言えるラピスラズリをはじめ、当時の鮮やかな色を再現するため、可能な限り同素材の絵の具を用いて彩色を行った[図8]。
いにしえの時代に岩肌を削って巨大な窟を開き、その天井に弥勒を描いた人々を思えばその苦労と志気は計り知れない。しかし、遥かな時を経て現代を生きる芸術家として筆を持ち、再び壁画に命を吹き込む作業には、わずかながらも当時の画工たちと精神を通わせる思いがした。こうして多くの芸術家たちの想いを結実させて、壁画は完成を迎えた[図9]。
かつて、シルクロードの中継地として反映したバーミヤン渓谷に存在した至宝。今はなきその姿をシルクロードの終着点であったこの地で蘇らせることとなった。メディアを通じ今なお混乱が続く様子を見ても、どこか遠い国のことに思ってしまうが、その昔は国境を超えた文化の交流で互いに通じ合っていたことを「青の弥勒」から体感してほしい。世界平和の願いを込め、一人でも多くの人々にご覧いただければ幸いだ。