【シリーズ☆ザ・寺社婚:第1回】〝第3の実家〟をめざす!築地本願寺「築地の寺婚(てらこん)」

 晩婚化や未婚化が、少子化を加速させている。国力の衰退を招く少子化に対抗すべく政府は、こども家庭庁を通じて「婚活」を支援する方針を打ち出した。こうした社会状況の中で、寺社Nowは、少子化対策や地域の活性化に向けた新たな取り組みとして、寺社を拠点とした結婚支援活動(婚活)に注目し、また運営団体の(一社)全国寺社観光協会は、寺社の婚活支援活動をサポートする「マリッジカミング」事業の展開を開始した。
 寺社は古来、祭礼や縁結び信仰を通じて人々のつながりを支えてきた。その伝統を背景に、結婚を希望する人々に寄り添い、新しい形で出会いの場を提供する取り組みが各地で進められている。当協会も、積極的にその後押しをしたい。
 本連載では、寺社が取り組む結婚支援の現場に焦点を当て、その意義や可能性を探っていく。

 第1回は、2020年7月、COVID-19が猛威を振るうコロナ禍の渦中に始まった東京・築地本願寺の結婚相談所「築地の寺婚(てらこん)」を紹介する。事業開始から取材時点(2024年12月)まで約4年半の間に、計87名が成婚に至り、新たな人生を踏み出しているという。
   

都会のオアシスで見つける安心と繋がり

 築地本願寺は、晴海通りと新大橋通りが交差する築地エリアに所在し、銀座まで歩いてすぐの都心部にありながら、開放感に満ちた境内を持つ。築地場外市場での食べ歩きツアーや歌舞伎座での観劇のついでに立ち寄る外国人観光客も多く、街を行き交う人々が気軽に訪れることができる開かれた寺院である。

正面に見える築地本願寺の本堂(重要文化財)は現在耐震工事中で2026年12月工事完了予定。[撮影:寺社Now]

(左)左手に、築地本願寺カフェTsumugi の行列が見える。※写真は耐震工事前2019年に寺社Now撮影 (右)各メディアでたびたび紹介されている人気の「18品の朝ごはん

 
 目印となるのは、境内の一画にある「築地本願寺カフェTsumugi(ツムギ)」だ。雑誌などでたびたび紹介される人気カフェで、色とりどり「18品の朝ごはん」が人気。朝から行列ができることも珍しくない。参考までに「18品」という数字には意味がある。築地本願寺の本尊である阿弥陀仏が建てた48の誓願、その中でも本願として大切にされている18番目の誓い「(意訳)生きとし生けるもの誰一人として決して見捨てない」にちなんでいる。

 そのガラス張りのカフェで境内を眺めながら一服した後に、建物の2階へ上がると、築地本願寺の職員で担当カウンセラーの大森さんが笑顔で迎えてくれた。そこは温かく柔らかな空気に包まれた、居心地の良さが際立つサロンだった。

──「築地の寺婚」がスタートした2020年7月といえば、コロナ禍発生からおよそ半年余りが経過して、感染者が再拡大していた時期に当たります。そうした中で、なぜ婚活支援に乗り出したのですか。

「築地の寺婚」担当カウンセラー、大森さん

大森「ちょうどあの頃は、コロナもあって多くの人が大切な人とのつながりを改めて感じていた時期でした。特に、外出自粛やリモートワークが普及するなどしたため孤独感を抱える人が増え、結婚を真剣に考える人も増えていたように思います。

そこで築地本願寺では、「開かれたお寺」をめざし、若い人たちも立ち寄りやすいお寺にしたい、ということでいろいろ話し合った中から、その一つの取り組みとして婚活サポートが始まりました。若い人に共感いただき、かつ出会いの場を提供でき、日本の社会問題にもお役に立てるのではという発想です。そして「築地の寺婚」がスタートしました」

Zoom活用で自宅から始まる新しいご縁

──婚活にオンライン会議システムのZoom(ズーム)を活用していますね。

大森「直接会うことが難しい時期だったからこそ、オンラインのお見合いを取り入れる必要がありました。コロナ禍でZoomが普及して、多くの人が使い始めていたことも活用につながったと思います。最初はカウンセラーがホスト役となって確認しながら進行する場面もありましたが、次第に会員様同士で行うようになりました」

──オンラインを活用するメリットは、どのあたりにありますか。

大森「Zoomの利点は、お互いが自分の家というリラックスした環境でお見合いができることです。自宅だからこそ話せることや、自分らしさが伝わる瞬間があるんです。たとえば、飼っているペットや好きな本の話題が自然と出てきて、会話が弾むことが多いですね。それで『この人と実際に会ってみたい』と感じて、そこから交際に発展するケースも少なくありませんでした」

自分自身、そして相手と向き合うことの大切さ

 「築地の寺婚」は、IBJ(※日本最大級の結婚相談所連盟)と提携しているため、約9万人の会員ネットワークを活用でき、利用者が自分に合ったパートナーと巡り合う可能性を広げている。

大森「対面カウンセリングにも力を注いでいます。「築地の寺婚」は、条件の一致にとどまらず、自分自身を深く知ることを重視しています。価値観や人生観を共有できるパートナーとの出会いをめざし、結婚を考える過程でお相手や自分自身と向き合い、内面的に豊かになるきっかけになればと思います」

サロンでの対面カウンセリング風景(イメージ)

 
──具体的には?

大森「カウンセラーとマンツーマンで行う対面カウンセリングでは、自分自身の希望や価値観を整理するだけでなく、会話や自己紹介など実践的なコミュニケーション、話題の選び方など、相手にどんな質問をすると答えやすいかといったコツをアドバイスすることもあります。

たとえば相手のプロフィールを一緒に見て、ここからどんな質問ができるかを一緒に考えます。より自信を持ってコミュニケーションを取れるようにサポートを行っています。そうした積み重ねは、お見合いに限らず、生涯にわたっていろいろなコミュニケーションの場で役立てば嬉しいと思います」

 一人ひとりの個性を大切にしながら、漠然とパートナーを見つけるだけでなく、自分自身と向き合い、人との出会いを通じて成長する。築地本願寺という信頼感と安心感を持つ歴史的な空間が醸しだす特別な雰囲気が、自然と心を落ち着かせ、自分自身と静かに向き合う時間を提供しているのかもしれない。「婚活を通じて学んだことが仕事や他の人間関係にも役立った」といった声も多く寄せられているようだ。

結婚後も寄り添う「第3の実家」

──2020年7月にスタートした「築地の寺婚」は、2025年夏に5周年を迎えますが、これまででどのような手応えを感じていますか。

大森「おかげさまで、結婚してからもご夫婦で築地本願寺を訪れ、人生の節目を共に祝ったり、相談に来てくださいます。「築地の寺婚」は、結婚というゴールだけを目的にするのではなく、その人の人生に寄り添える存在、「第3の実家」でありたいと願って取り組んでいます」

築地本願寺HP
築地の寺婚

 

 大森さんは「第3の実家」という言葉に力を込めた。その言葉には、「築地の寺婚」がめざす結婚後のつながりへの思いが象徴されている。多くの結婚相談所が成婚をゴールとするのに対し、「築地の寺婚」は結婚後も人生に寄り添い続ける姿勢を大切にしていた。人生の節目ごとに家族のように迎え、支えとなる存在でありたいという願いが、この取り組みの根底にある。
 寺院の存在意義が改めて問われる現代の日本において、築地本願寺が「築地の寺婚」を通じて人々の生活と結びつき、新たな社会的役割を担おうとする姿が浮かび上がってきた。
 このシリーズ「ザ・寺社婚」では、次回以降も各地の寺社が取り組んでいる結婚支援活動を取り上げ、寺社が現代社会で果たす役割と可能性を探っていく。

【取材:寺社Now編集部】

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監修:全国寺社観光協会

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