仏像イラストレーター・田中ひろみ「御朱印を描くおへんろ旅〜四国別格二十霊場篇〜」

③悪龍が棲む洞窟で穴禅定体験:別格第三番札所「慈眼寺」
▪寺名:月頂山宝珠院
▪本尊:十一面観世音菩薩
▪宗派:高野山真言宗
▪住所:徳島県勝浦郡上勝町大字正木字灌頂瀧18
▪電話: 0885-45-0044
▪霊場HP:https://www.bekkaku.com/?page_id=17

穴禅定を体験するには、2枚の板の間を通り抜けられることが絶対条件(写真左)。無事この条件をクリアしたら、山道を20分、本堂をめざします

さあそして今回ご紹介する3つめは、四国別格第三番札所「慈眼寺(じげんじ)」です。
ここでは、穴禅定(あな・ぜんじょう)という修行を体験することができます。お大師さまゆかりの鍾乳洞で、ローソクの明かりだけをたよりに、とても狭い穴を通り抜けて還ってくるという修行です。

それはこんなエピソードに由来します。
お大師さま19歳の頃、この地を訪れた際に霊気漂う不思議な鍾乳洞を発見しました。そこで、邪気を祓うために洞窟の入り口で護摩祈祷をすることに。そうしたところ結願も近いある日、霊気の正体=悪龍が突然現れて襲いかかってきたのです。お大師さまはとっさに法力で対抗し、最終的には悪龍を洞窟の奥に封じ込めることに成功しました。穴禅定は、悪龍を閉じ込めたこの洞窟内をゆく精神修行でもあります。

それではその穴禅定へとご案内することにしましょう。

めざす洞窟は、大師堂や納経所のある場所から徒歩約20分、細い山道を登ったところに建っている本堂の脇にあります。とその前に、穴禅定を体験するには1つ条件があります。「穴禅定行場の路幅(みちはば)体験場」と彫られた大きな2枚の石板のあいだをすり抜けることができるかどうかのチェックです。

向かい合った2枚の石板の間隔は、およそ25センチメートル。ここを通ることができないと、狭い洞窟を這うように行く穴禅定は物理的に無理と判断され、体験の許可が出ません。今回、恐る恐るチェックを受けましたが、次回からは事前にダイエットでもして余裕の参加を心がけたいものだと、ややふくよかなお腹をさすりながら秘かに決意したことを告白致します。

慈眼寺住職・大森秀尊さんの案内で山を登って本堂へ。するとそこには巨石が……洞窟はこの中に!

本来だとこの先は、穴禅定先達(せんだつ)と呼ばれる専門の方にガイドしていただくそうですが、訪問時はコロナ禍のため穴禅定がお休みだったこともあり、特別に慈眼寺のご住職に案内していただきました。そんなこんなで、息も絶え絶え、普段の運動不足を呪いながら、山道をおよそ20分、なんとか本堂までたどり着きます。

すると目の前にとてつもなく大きな巨岩が!
ここで塩と聖水で口と手と身体を清めてから、巨岩横の階段を登って洞窟の入り口へと向かい、ローソクに火をつけ、いざ真っ暗闇の洞窟内部へと進入していきます。

洞窟は狭く入り組んでいて、伸びたり屈んだり這いつくばったりと、けっこうな全身運動。コウモリ(左)たちもお出迎え

ところがこれが想像以上に狭いのなんの。最初から最後まで普通には歩けません。前を行く人が後ろの人に「ここでは、まず左手から。次に左肩を入れて・・・」といったように、まるで難解な知恵の輪を身体全体で解いていく立体的なパズルの世界に入り込んだかのよう。

途中、コウモリの大群に遭遇したり、ほふく前進したり、鎖を持って下へ下へと降りていったり、もうヘトヘトです。ちなみに、しんがりをつとめてくれたお坊さんは、途中でお腹がつかえて進めなくなってしまい、引き返してしまいました。後から聞いた話ですが、身動き出来なくなってレスキューされる人が年に何人かはいるそうです。

左)岩肌の「龍の爪」。右)洞窟のいちばん奥に19歳のお大師さま

とまあ、修行というより、私にとってはほとんどアドベンチャーだったわけですが、お大師さまが悪龍を閉じ込めたその痕跡とされる岩肌の「龍の爪」や、その悪龍を閉じ込めた空間の説明などをご住職から聞いたりしながら、19歳のお大師さまを祀っている洞窟のいちばん奥まで辿り着いたら一段落。

帰路は、胎内くぐりの小さな穴から地上へと舞い戻ります。暗闇から光に溢れたこの現実世界へ戻ったその瞬間は、まさに生まれ変わったような気分。新しい自分と出会って、どんな困難でもくぐり抜けて、新しいことに挑戦できそうな心持ちにさえなります。

ちなみにこの穴禅定は、「狭いところを通り抜ける」ことから、狭き門の入試をくぐり抜ける合格祈願や、赤ちゃんが狭い産道を抜け出てくるイメージから安産、あるいは開運成就などのご利益があるんだそうです。特別御朱印のデザインは、お大師様と悪龍の対決シーンを描きました。

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監修:全国寺社観光協会

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