うどん県の山あいで!Uターン住職が本格ピッツェリア「Pizza e Bar TEMPIO」オープン!いったいどんな理由が…(香川・善教寺)

季節には、流れる小川にホタルが舞う、そんな山あいの静かな町の寺院に、突如として誕生したピッツェリアの物語をお届けしよう。舞台となるのは、うどん県(香川県)三豊市の南端、四方を山に囲まれた財田(さいた)町にある善教寺(真宗興正派)である。江戸の頃から続く由緒あるこの寺の境内に、令和2年(2020)12月、「Pizza e Bar TEMPIO(ピッツァ エ バール テンピオ)」が誕生した。「TEMPIO」とはイタリア語で「寺院」のこと。第20代住職、香西 亨(とおる)さん(61)が、ガレージを改装した店舗内に設えた窯で絶品のピザを焼く。アクセスがいいとはけっして言えない。集客は可能なのだろうか。それよりも何よりもそもそも山あいの寺の住職が、本格的なピッツェリアをオープンした理由が知りたい。

善教寺ピッツァ エ バール テンピオ

お坊さんがピザ職人!Pizza e Bar TEMPIO(ピッツァ エ バール テンピオ)香川・善教寺

長年飲食業に携わっていた住職。法衣よりも着慣れたエプロン姿のほうがが落ち着くそう

境内のガレージを改装した(写真は改装前)

内装もオシャレ!


「田舎の寺の小さな店ですが、結構評判がいいんですよ」と笑う住職。町の人がランチやディナーに訪れ、テイクアウトでピザを買って帰る。それだけでなく、時には瀬戸内海を越えて岡山県倉敷市からも足を運んでくれる人がいるそうだ。

境内のガレージを改装した店では、トマトベース、チーズベース、生クリームベースのピザが各10種ほど揃い、それを住職がひとり、しっかり窯で焼いている。評判のピザのほか、前菜や窯焼きの肉料理、パスタ、デザートもラインナップしていて評判は上々だ。

「飲食店をやるからには本気でやろうと考えたんです。数年前までは高松市内のイタリア料理店で料理を作っていましたから」

慣れた手つきで窯からピザを取り出す住職。イタリア料理店を含め、実は30年以上、飲食業に携わっていたという。地元へ戻り、ピッツェリアを開業したのは、寺の存続を考えてのことだった。

ピザは1枚800〜1500円。香川県産のレモンでつくるレモネード(700円)は奧様のお手製

住職のおすすめは、リコッタチーズたっぷりの包み焼きピザ、リピエノ・アル・フォルノ(1200円)

牛ロースの窯焼き(2800円/300g)は夜の人気メニュー。窯焼きにはオリーブ豚、鶏肉、仔羊もある

地域の人たちにとって一生記憶に残るアヒージョ

お寺の仕事だけでは暮らしていけない現実に直面

「私は長男ですから、いつかは寺を継がなければならないことは子供の頃からわかっていました」という香西住職。高校卒業後に京都の仏教系大学へ進学し、飲食店でアルバイトをするうちに接客業の楽しさを知った。

「中学生の頃に他界した祖父からは、寺を頼むぞと言われていました。祖父の言葉が頭をよぎることもありましたが、その頃は町の暮らしの楽しさの方が勝っていて、自分の中に寺へ戻るという選択肢はありませんでした。結局大学卒業後も9年間、飲食店で働いていました」

時折郷里から親戚が京都へ遊びに来て、そのたびに「いつかは帰って来いよ」と釘を刺されていた住職。京都での暮らしも13年目となった31歳の時、いとこから「お願いだから帰ってきて」と懇願されたことをきっかけに、寺へ戻ることを決意。その頃、次男が先代住職の手伝いをしていたが、親戚や檀家は皆、長男の亨さんが継ぐことを願っていた。

「寺に戻り、父について檀家さんの家の場所を覚えたり、仏事の手伝いをして少しずつ慣れていくことにしました。ところが檀家の数も減少傾向にある田舎の寺では、両親が食べていくのがやっとで、私の分の給料なんて出ません。それで仕方なく高松市の方へ働きに出ることにしました。それから25年間、ずっと飲食業に関わりながらやってきたわけですが、平成25年(2013)の父の死をきっかけに、仕事を寺院経営に絞ることにしたんです。飲食店で働きながら、ということも考えましたが、高齢の母だけに日中の寺を任せることは難しいと思って」

だが、寺の仕事だけになるとまた、生活していけるかどうかという問題が表面化した。とはいえ、できることといえばやはり飲食業しかなく、そうは言っても近くに道の駅くらいしか店らしい店もない地域でカフェをやっても、人が来てくれるはずもない・・・。

以後ずっと悩み続けていたが、なかなか解決法が見つからない。しかしあるとき、ふと、近くに店がないことを逆手にとることを考えついた。

イタリア語で「TEMPIO(テンピオ)」は、寺院のこと。

カンター6席と4人掛けテーブル2卓のコンパクトな店。「お寺の人がやっているんですか? と聞かれて『私が住職です』と答えるとみなさん驚かれます」

善教寺ピッツァ エ バール テンピオ

夜、境内のお店に灯るあかりが町をほっとさせる

寺がにぎわいを取り戻すことまで想像していなかった

「香川県は、普段からうどんを求めて誰もが動くクルマ社会です。だったら、ちゃんとした店構えにして、きちんと美味しいものを出せる店にすれば、高松市内の街中よりも財田町のような田舎の方が、面白がってお客さんが来てくれるのではないかと思いました」

お寺に併設のカフェというのは各地にあるが、本気のイタリア料理店を併設しているケースは、少なくとも香川県内、そして四国エリアにも見当たらない。そこで、これまでの経験をフルに活用し、イタリア直輸入の食材も使い、本格的なピッツェリアをオープンすることにした。すると予想以上にオープン後の評判は上々だ。

「辺鄙な場所だからのんびりやっていけばいいか、と考えていましたが、地元のテレビや雑誌で取り上げられたことで、ありがたいことに平日でもお客さんが市外から来てくださいます」

もちろん、地域の人も足を運んでくれている。

「一度ピザを食べたおじいちゃんが後日、孫に食べさせたいからと買いに来ることもありますし、何より、寺が寂れていくことを危惧していた門徒さんが『お寺がまた賑やかになってうれしいねぇ』と言ってくれたことはうれしいですね」

デザートも本格的!

家族の誕生日や記念日を祝うためにディナーを予約する地元の人も出てきたほか、同じ地域に住んでいながらお互いにこれまで面識がなかった人たちが、同じ日に来店したことがきっかけで知り合いになったという嬉しいケースも。お店のインスタグラムには、誕生日を祝ってもらって満面の笑みを湛えるおじいちゃんの姿など地域の人たちの交流も見られ、地元でも大歓迎されている様子がうかがえる。

取材時も地元の男性が、「会社の若いもんが頑張ったから、ご褒美に食べさせたい」とピザをテイクアウト。「チーズが入っているピザを」「全部のっていますよ〜」というオーダーのやり取りが微笑ましい

デザインされたデリバリーのケースも愛おしい

善教寺本堂前の庭園。天気のいい日は、ここでピザをいただきたくなる

開業から半年。最近では、「寺の庭でもピザが食べられたらいいのに」「食後にお参りして帰りたい」という声も聞こえるようになってきた。地域の人たちからは、2号店はいつ?なんていう冗談も言われている。お寺の存続を考えて辿り着いた飲食店経営だが、このような地域の声に住職は今、何を思うのか?

「お寺に戻るまではずっと飲食店でたくさんの人と触れあってきましたから、地域の人たちやお客さんとコミュニケーションが取れる毎日が楽しくて仕方ありません。結果的に地域のためになっていますが、私の思いはひとつ。おいしいものを食べて、みなさんに笑顔になってほしいだけです」と住職。

手探りで動き出した小さなチャレンジ。
笑顔の連鎖が始まった。

この日の門番は地域ネコ!

Pizza e Bar TEMPIO
〒769-0401
香川県三豊市財田町財田上7040
TEL:0875-23-7178
定休日:水曜日
※営業時間はホームページやSNSでご確認ください。


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