京都・今宮神社の御旅所がスゴいことになりそうだ!「御旅所再考」展(京都工芸繊維大学D-lab)

日本の「祭」の「今」と「未来」を考える、非常に興味深い展覧会が開催されている。
「御旅所再考 京都今宮祭を継承する都市空間」[会場:東京・千代田区のアートセンター・アーツ千代田3331内にある京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab[D-lab]、会期:2022年1月30日(日)まで]がそれだ。

京都工芸繊維大学では、2017年から「今宮神社御旅所プロジェクト」を展開している。繊維産業の衰退著しい京都・西陣地域とその西陣が支えてきた今宮神社と今宮祭についてのリサーチを重ね、神社と地域、祭と日常の境界と結節点である御旅所の、現代にあるべき姿を考えてきた。

本展覧会では、これまでのリサーチと、それを踏まえた新たな御旅所像を具現化する大胆な御旅所建築に関する提案までが紹介されている。変わりゆく時代の中で、祭とその場としての御旅所はいかに在るべきか、「今」を見つめて思考し「未来」を志向する。

御旅所(おたびしょ)とは
▪神社の祭神が神輿・鳳輦また船などで神幸し、仮に遷座する場所のこと。頓宮・御輿宿・御旅宮などともいう。(吉川弘文館『国史大辞典』)
▪祭礼の御幸(みゆき)の時、神輿(みこし)が本宮から渡御して仮に鎮座するところ。御旅の宮。おたびどころ。《季・夏》(小学館『日本国語大辞典』)

御旅所再考――京都今宮祭を継承する都市空間

文:京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab「今宮神社御旅所プロジェクト」

「御旅所(おたびしょ)」とは、祭の期間に神様を町に迎える場所のこと。
京都・西陣を氏子地域とする今宮神社で毎年5月に行われる今宮祭では、神幸祭の日に神社から神様が遷られてから、還幸祭の日に戻られるまでの2週間、御旅所が神様の居処となる。御旅所は、神社と地域をつなぐ祭に不可欠な場所として、都市のなかに今も変わらず存在している。

しかし、この祭と地域をめぐる状況は昔と同じではない。織物産業の盛衰とともに今宮祭を支える西陣地域の生活は変わり、現在は祭への参加が困難になった町もある。御旅所周辺の環境も、都市化の進行によって大きく変化してきた。かつてとは異なる日常のなか、移りゆく時間を超えて今宮祭を未来へと継承していくためにできることは何か。

会場風景[写真:寺社Now編集部]

今宮祭と御旅所

京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labは、これまで京都・西陣の地域課題に向き合い、今宮祭のリサーチを重ねてきた。そこからは、祭の担い手の減少や、巡幸に用いられる剣鉾の保管の難しさなどが、課題として見えてきました。

これらの課題を解決し、西陣地域を含む氏子地域全体で広く行われている今宮祭を継承していくための提案を行うに際して、私たちは祭そのものにとって重要な御旅所に注目し、具体的な提案の舞台としました。

それでは、御旅所に提案するとはどういうことなのでしょうか。今宮祭の継承を考えたとき、当初は祭だけを考慮すれば良いかと思われました。しかし、リサーチを積み重ねる中で明らかになった課題に取り組むには、祭以外の部分にも注目する必要がありました。

「今宮祭の課題」とは「今宮祭を支える地域が抱えている課題」であり、祭が行われていない日常にも目を向けるべきだと考えたためです。

それは同時に、御旅所の日常を考えることでもありました。御旅所に神様が還られるのは年に一度、祭の時だけです。普段の御旅所は神域ではなく、儀式上の役割もありません。御旅所は賑やかな祭の舞台でありながら、日常的には閑散とした場所という、全く異なる性質も持っていました。

ハレとケ

「ハレ」と「ケ」という対義語で表すことができる祭と日常を、それぞれ考えることは重要です。しかし私たちは、両者を分けて扱うのではなく、つながったものとして考えることにしました。日頃から地域に暮らす人々が年に一度の祭を共にし、祭で生まれた繋がりや賑わいが日常に広がって行く。そうした繰り返しの中で育まれる地域の豊かさを、祭と日常を行き来する御旅でも生み出したいと考えたからです。

展覧会タイトルの「御旅所再考」とは、歴史ある今宮祭をこれからの時代に継承していくため、祭だけでなく日常においても、地域の中で御旅所がどう在るべきかを考えるということです。

境界/結節点としての御旅所

私たちの提案は、今宮祭の歴史を踏まえ、現在の祭と地域の状況を調査・分析することからスタートしています。その上で、祭にとって重要な御旅所の性質を守りながら、これからの今宮祭と周辺地域が互いに繋がり、より豊かな関係を築いていくための提案を、ひとつの新しい建築に託しました。

展覧会では、リサーチの成果を模型や映像を含めたビジュアルで示すとともに、リサーチから導かれた建築の提案を、図面や模型、点群映像で紹介します。京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labが積み重ねてきたリサーチの成果、そして今宮祭と地域に向き合い提案するこれからの御旅所の姿をぜひご覧ください。

現在の今宮神社御旅所。敷地の大半は普段、駐車場として利用されている。鳥居のすぐ左手に中華料理店「御旅飯店」[写真:寺社Now編集部、2022年1月17日撮影]

御旅所の鳥居は、ところどころ木肌が剥き出しに…。[写真:寺社Now編集部、2022年1月17日撮影]

敷地には登録有形文化財の建物がある一方で、普段はその大半が駐車場として使われている。御旅所とはどのような使い方をされるべきなのだろうか。京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labは本展覧会で、各種のリサーチに基づいて、地域を「再編」する装置としての新しい御旅所建築を提案している[写真:寺社Now編集部、2022年1月17日撮影]

【模型写真】コンセプトは「境界の再構築」。御旅所の敷地内の建物として、鉾の保管、ハレとケの二面性という今宮祭に関わる機能を実現させることが検討された。その上で、周辺と繋がる役割を持ち、地域住民を巻き込んでいける施設をめざす設計となっている。敷地の外側を日常として、内側は神の空間。祭の際にはこの境界が消え、あたり一帯が祝祭の空間と化す。

【模型写真】施設はテナントを誘致し、同時に各町で保管が難しくなってきている12の鉾の保管庫としての機能も果たす。

【展示パネル:建築プラン】地域の思いや祈りが今宮祭を支えていた昔から、時代や社会の変化に伴い、地域住民の祭への主体性の低下が現状にある。本プロジェクトにおける、新しい空間構造や機能を持った御旅所によって、日常生活における地域の人たちの意識や思いに変化が起き、やがて活気のある今宮祭の再興につながることを理想としている。

京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab
「御旅所再考 京都今宮祭を継承する都市空間」

会期|2021年11月26日[金]-2022年1月30日[日]
会場|KYOTO Design Lab 東京ギャラリー(アーツ千代田3331)
開廊|12:00−19:00
閉廊|月・火、12月27日[月]-1月4日[火]
入場|無料
主催|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab
協力|今宮神社
指導教員|岡田栄造 教授、魚谷繁礼 特任教授、赤松加寿江 准教授、三宅拓也 助教
参加学生|綾 哲志、釜谷諒子、神谷友理子、田中春日、出口絢斗、二宮拓真、萩尾涼太、力丸浩子、渡邊 駿

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監修:全国寺社観光協会

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