東大寺・奈良の大仏24hライブ配信の意外な反響!テレワークの生活リズムと心がととのうヒミツ

ライブ配信の裏側シリーズ〈1〉東大寺:奈良の大仏さま編

コロナ禍により神仏にいつでもお参りすることができない状況となって、早いもので1年以上が経つ。全国の寺社の多くがそうした状況でも、オンラインで参拝の機会や神仏のご縁を、などの理由で動画配信に取り組んでいる。とはいえ、まだ馴染みが薄いせいか賛否両論もあり、このまま定着していくかどうかは分からない。

そこで寺社Nowでは、リモート参拝など寺社によるオンラインでのライブ配信にどのような可能性や課題があるのかを考える一助として、さまざまなケースをシリーズで取材していこうと思う。

その第1回目となる今回は、奈良の大仏さまの24時間ライブ配信実施で新たな気づきを得たと語る、東大寺(華厳宗大本山)のケースを紹介する。


世界中で新たな感染症による目に見えない不安や恐怖が拡がり始めていた令和2年(2020)の春、日本最大のインターネットの祭典「ニコニコネット超会議2020」を主宰する株式会社ドワンゴの担当者から東大寺へ、日本仏教の歴史を変えることになるかもしれない大胆な企画の提案があった。

東大寺の国宝・盧舎那仏、通称「奈良の大仏さま」を24時間ライブ配信する、という仰天プランである。

この年の4月、例年であれば千葉県の幕張メッセで開催される「ニコニコ超会議」が、コロナ禍の影響によりオンラインで実施することを余儀なくされていた。

同イベントでは数年前から「超テクノ法要×向源」という、会場で来場者と僧侶がご縁を結ぶことも目的とした仏教関連の企画を実施していたが、オンラインでの開催となると方向性を大きく変更せざるをえない。

この状況下で何が可能なのかを考え抜いた担当者は、東大寺をはじめ、天台宗の総本山である比叡山延暦寺や日吉大社(いずれも滋賀県)、そして築地本願寺(東京都)などから、神仏への祈りを届けるライブ配信を思いついた。

もともと奈良の大仏さまは、奈良時代に大流行した天然痘や天変地異によって人々が大きな不安に襲われたあとで、国家の安寧を願うために聖武天皇によって造立されたという歴史がある。つまりCOVID-19という目に見えない不安や恐怖を少しでも鎮めたい、大仏さまの姿を通してオンラインで少しでも安心を届けたいとする企画は、無理筋ではない。

さらに、日本を代表する大寺院である東大寺でこの企画が実現すれば、長い歴史の中でも画期的な事件でもある。

「ニコニコネット超会議2020」での24時間ライブ配信の提案を受けた東大寺の森本公穣庶務執事は、少し戸惑いを見せた。

東大寺の森本公穣庶務執事。自身でもSNSを活用し、積極的に東大寺の今を発信する

「ほぼ静止画なのに、大丈夫か?と初めは思いました。それでドワンゴ社の方に、“大仏さんは動きませんが、それでもいいんですか”と尋ねたところ、まったく問題ないとのことでした。私にはわかりませんでしたが、プロとして、それでも視聴者に何かが伝わるという確信をお持ちだったのでしょう。そう考えることにして、少しでもお役に立てるのならば、と寺内や関係者の了解を取り付けてお受けすることにしたのです」

森本師は以前より、自身のSNSを通じて積極的に東大寺を発信してきた。それなりに情報を人に届ける重要性は理解していた。が、しかし、大仏さまの映像をオンラインで流すだけで伝わるものはあるのか……。

ライブ配信で届ける「祈り」と「心」

大胆にも大寺院である東大寺へライブ配信を打診したドワンゴ社だが、実は数年前から、高野山の壇上伽藍や比叡山延暦寺などいくつかの寺社でライブ配信を手がけていた。専門の部署があるわけではない。しかし、これまでの実績から、寺社のライブ配信を喜んでくれる人がいることもわかっていた。

ただしこれまでは、何かメインのイベントがあってそのオプションとしてのライブ配信だった。今回は、それがない。それでも敢えて冒険的に提案をしたのは、担当者の気持ちからだった。

「毎年リアルイベントとして開催してきたニコニコ超会議ですが、令和2年はコロナ禍の影響でオンライン開催にせざるをえませんでした。私は超会議の中で予定していた『超テクノ法要×向源』を担当していたのですが、オンラインで何ができるかを考えるミーティングの席で、コロナ禍の現状はまさに国難だという話が出たんです。

それならば、鎮護国家の寺院として真っ先に思い浮かぶ東大寺様と大仏さまにご協力をお願いするしかない!となったのです。これは何としても実現したいと思い、東大寺様へぜひにとお願いした次第です」(ニコニコ事業本部・高橋薫氏)

寺社がYouTubeや各種のSNSアカウントを持っていても、独自で運用しているだけではその拡散力にはおのずと限界が出てくる。今回は「そこを広げていくことができる」と高橋さんが確信するドワンゴ社の配信事業の強みが、コロナ禍で不安を感じる多くの人々に祈りを届けたいという寺社側の思いと重なった。

「本当にありがたいことに、東大寺様ほか皆さまにご協力をいただけたわけですが、ライブ配信の特色は、映像と視聴者が共に同じ時間を過ごす点です。オンラインでこの体験をする参加者の心に生まれる『思い』を信じられることができるかどうかが取り組みにおいて重要だと思います」(高橋氏)

 

視聴者から届いた、予想を超えた反応

かくして、関係各所との調整や準備を重ね、令和2年4月11日から15日まで、「超テクノ法要×向源@ニコニコ超会議」が開催された。そしてそのプログラムのひとつとして、参加寺社の法要や例祭と共にオンラインでのライブ配信が実施されることになった。

東大寺はその皮切りとして、20時からの大鐘を始め、4月1日から行っていた疫病退散の「正午の祈り」を含め、定点カメラで「奈良の大仏さま」を24時間ライブ配信した。

また大仏さまの姿や法要にとどまらず、森本師が案内役となって大仏殿から歩いて二月堂、三月堂まで行ってまた戻るという、東大寺を知り尽くす人物による散策ガイドをライブ配信する画期的なプログラムも実施した。

東大寺の歴史上、前代未聞のチャレンジである。
賛否両論が予想された。バッシングも覚悟した。
ところが……。

「ありがたいことにライブ配信後に、『大仏さまが映っているだけで安心しました』とか『コロナでなかなかお参りに行けない状況なので、映像だけでも大仏さまのお姿を見ることができて嬉しかった』といった声が寄せられました。それだけでも十分に意義はあったのかなと私どもは感じています」(東大寺 森本師)

令和2年4月のライブ配信では、盧舎那仏の姿に多くの人が安心を覚えた

 

森本師は視聴者からのこうした反応を受けて、ドワンゴ社側の担当者に、ニコニコネット超会議2020終了後も定点カメラを据え置いたままにして、24時間のライブ配信をしばらく続けてほしいと願い出た。

「もともとドワンゴさんのイベントは4月19日まででしたが、実はちょうどそのタイミングで、毎年4月21に金剛峯寺と合同で厳修している弘法大師の御影供の中止が決まりました。さらに、4月24日から5月31日まで大仏殿の拝観停止も決まったところだったんです。そこで、オンラインでのライブ配信について皆さまからの嬉しいお声をたくさん頂戴したこともあり、延長することができればより多くの方に盧舎那仏のお姿を拝んでいただけるのではと考えました」

カメラやPCのトラブルの際に対応し、生放送を陰で支えたのはほかならぬ東大寺の僧侶や職員。視聴者に大仏さまのお力を感じて欲しいという思いだったそう

 

結果、6月1日までの50日間、延べ1200時間にもおよぶ長期間のライブ配信が実施されることになった。そしてその期間中にもまた、東大寺に数多くの感謝の声と応援のメッセージが届いた。

「一番印象的だったのは、テレワークをしている方から寄せられた『パソコンの画面の隅で大仏殿のライブ映像を流したまま仕事をしていますが、とても落ち着きます』という声でした。まったく予想もしていなかったご縁の結び方ですが、オンラインでのライブ配信が人々の心に直接響いていることを実感しました」

ほかにも、「法要の時間になると画面の前で手を合わせています」「毎日見ていて(僧侶が唱えている)お経を覚えました」や、テレワークでだらだらとつい時間を忘れがちになるなかで、ライブ配信で定時に聞こえてくる鐘の音のおかげで生活のリズムが整うといった声もあった。毎日、壇上の荘厳(おかざり)を行う係の人に、画面上で感謝や応援のメッセージが送られるなど、そのほとんどが東大寺とドワンゴ社の取り組みに対する好意的な反応だった。

森本師は、オンラインでのライブ配信に大きな手応えと可能性を感じた。

この挑戦と成功を機に、東大寺ではその後も、ドワンゴ社のニコニコ生放送を通じて大仏殿のライブ配信を定期的に実施している。

今年は、年間一度も絶えることなく続いている東大寺二月堂の伝統行事「修二会(しゅにえ)」を行う二月堂を3月1日から15日にかけての2週間にわたってライブ配信している。4月24日からは昨年に続いて再び、オンラインで大仏殿のリモート参拝を実施した(注:大仏殿のライブ配信は5月31日まで延長)。

伝統行事「修二会」のライブ配信では、2週間にも及ぶ全日程終了と同時に、視聴者から無数のコメントがリアルタイムに投稿され画面にあふれた

 

東大寺では、以前から公式のYouTubeチャンネルを開設して情報を発信してきた。SNSも活用している。にもかかわらず、そのうえでドワンゴ社と協同でオンラインのライブ配信に挑んでいるのは、なぜなのか。

「複数の発信チャンネルを持つことが大事なのかなと思っています。コロナ禍でお参りできない方に少しでも安心をお届けしたい。それに、『拝観できません、参拝自粛してください』と後ろ向きに伝えるよりも、『今年はオンラインで大仏さまにお参りください。落ち着いたらまたお寺にお参りください』というメッセージのほうが前向きで安心していただけますよね。仏さまへの思いは同じです。オンラインでの参拝は、リアルな参拝とはご縁のつながり方がほんの少し違うだけではないでしょうか」

東大寺の森本師は、1年以上にわたるライブ配信の経験を通じて新たなご縁の結び方に気づいた。思いはひとつ。ただし、その思いの届け方はひとつではない。

挑戦して初めて気づくことがある。

 

東大寺公式YouTubeチャンネル

ライブ映像をアーカイブして動画配信予定

 

【リモート参拝】

東大寺から国宝・盧舎那仏像(奈良の大仏)24時間定点生中継(2021年5月31日まで)

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