【臨床宗教師】宗教宗派の枠を超え 終末期の患者の心をケアする宗教者


~医療と宗教の連携による新たな試み~

2016(平成28)年の1年間で亡くなった人は約130万人。
世界に先駆けて超高齢社会に突入した日本はいまだ前例のない「多死社会」に突入したと言われている。「延命」から「緩和」へと終末期医療が移行していくのと同時に
今後は、病院ではなく介護施設や在宅等の施設で最後を迎えるお年寄りが増えてくる。それら終末期医療の現場では「身体的ケア」とともに患者の悩みや苦しみに寄り添う「心のケア」が重要になってくるだろう。そんな現状の中で活躍を期待されているのが医療機関や福祉施設などの公共的空間、被災地で布教や伝道を目的とせず心のケアを提供する宗教者「臨床宗教師」だ。

 

東日本大震災の支援を機に「臨床宗教師」養成講座が発足

2011(平成23)年3月、未曾有の被害をもたらした東日本大震災。ボランティアが現地に駆けつけるなか、多くの宗教者も被災地におもむき、物資の搬送や炊き出し、亡くなった方々への追悼儀礼、遺族や被災者の立ち直りを支援するグリーフケアなど宗教者ならではの支援を行った。さまざまな信仰を持つ宗教者が被災者の価値観を尊重しながら苦悩や悲嘆に向き合う心のケアは災害復興支援活動において大きな役割を果たした。

2011(平成23)年5月には宗教者、医療者、研究者の協力・連携による「心の相談室」が発足。墓園での弔事、フリーダイヤルでの電話相談、傾聴移動喫茶の運営などが実践され、宗教者の公共的空間での有効的な活動を目指し、2012(平成24)年4月に「臨床宗教師」を養成する「実践宗教学寄附講座」が東北大学大学院文学研究科に設置された。

 

日本版チャプレンとしての臨床宗教師の役割

「臨床宗教師」と名付けた故 岡部健医師


「臨床宗教師」と名付けた故 岡部健医師

「臨床宗教師」という名称は、「心の相談室」で代表を務めた故岡部健医師が、欧米の“チャプレン”に対応する日本語として考案。欧米のキリスト教圏でのチャプレンは、病院や軍隊などの公共施設に駐在して相談相手となる牧師で、大学院で神学を修めた後に臨床牧会教育プログラムを受講した専門家のこと。現在は人々の宗教宗派が多様なため仏教徒のチャプレンも存在する。岡部医師は「宗教や死生観について語り、この暗闇に降りていく道しるべを示せる宗教者が死の現場からいなくなったことが戦後の日本の問題。医療一辺倒となった死の現場に、医師や看護師と対等のパートナーシップをもって加わることのできる公共性を持った宗教者が求められている。日本でも欧米のような、日本人の文化や社会にふさわしい形の日本版チャプレンが必要である」と考え「臨床宗教師」を提唱した。

公共的空間において布教や伝道を目的とせず、ケア対象者の信念や信仰、価値観を尊重することなどを基本理念としている「臨床宗教師」。異なる宗教宗派者同士が協力し合い、療者とチームを組み、さまざまな信仰を持つ人々の宗教的ニーズにこたえる専門家としての「臨床宗教師」を育成する取り組みが、現在、東北大学を中心に龍谷大学、高野山大学など諸大学へ広がりを見せている。

臨床宗教師育成の取り組み

「心の相談室」の活動を踏まえ、専門家としての「臨床宗教師」を育成するため2012(平成24)年4月に東北大学大学院文学研究科に「実践宗教学寄附講座」が開設。10月には第一回目となる臨床宗教師研修が行われた。受講資格は基本的に宗教教団に所属している宗教者であり、信徒の相談に応じる立場にある者。約3ヶ月の臨床宗教師研修のプログラム受講後に修了証が授与される。プログラムは、座学(講義)、グループワーク、実習からなり、傾聴スキルやスピリチュアルケアの能力、宗教間対話や宗教協力の能力、宗教者以外の諸機関との連携方法等を学ぶ。宗教宗派を超えて、お互いの立場や経験、価値観を尊重しながら心のケアを学ぶ「臨床宗教師研修」は、受講者が自らの信仰を問い直し、宗教者としての自覚を深めることにもつながっている。東北大学大学院実践宗教学寄附講座の高た かはしはら橋原教授は、宗教者の研修後の活動として「福祉施設での傾聴活動や被災地の仮設住宅での居室訪問などの、臨床宗教師本来の理念に基づいた公共的空間での活動。写経会や音楽を交えた法話会の実施、葬儀後四十九日までの法要にグリーフケアを取り入れるなどの、宗教者としての活動報告」をあげている。また、研修により「日々の宗教活動での信徒対応の質が向上し、檀家や教会員、氏子などとの日常的な関わりの中で、良質なケアを提供できるようになったことが、臨床宗教師研修の意義が認められる部分でもある」と語っている。

 

今後の展望と期待

「臨床宗教師」養成講座を設置する大学が増え、日本各地に活躍の場が広がるなか、2016(平成28)年2月に「臨床宗教師」の資格化に向けた認定機関「日本臨床宗教師会」が発足。各大学の研修を修了した臨床宗教師や心のケアで実績のある宗教者を対象にフォローアップ研修を実施。資格を付与する予定。統一資格を与えることで社会への信頼を得やすくし、有資格同士の交流、対話のスキルなどの資質向上を目指している。「多死社会」へ突入した日本社会において、今後ますます「臨床宗教師」の重要性が高まる中、「臨床宗教師」自身がより幅広い分野での役割を見いだし、そのスキルを発揮することが期待されている。

 

<参考資料>
◎東北大学文学研究科実践宗教学寄附講座ホームページ
 http://www2.sal.tohoku.ac.jp/p-religion/2017/index.html
◎東北大学文学研究科実践宗教学寄附講座パンフレット『臨床宗教師とは』
◎東北大学文学研究科実践宗教学寄附講座ニューズレター バックナンバー
◎『宗務時報』No.117(発行:文化庁文化部宗務課 2014年3月)
 「宗教者による心のケアの課題と可能性―臨床宗教師養成の試み―」(著:高橋原)

<協力・資料提供>
東北大学大学院文学研究科 実践宗教学寄附講座教授 高橋 原さん
http://www.galilei.ne.jp/daisyoin

2017-08-07 | Category スペシャル

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