情報求ム!これは事件です。龍谷ミュージアム「仏像ひな型の世界」展に秘められた真のねらい

たとえば左から2番目、七条仏師31代康朝作「布袋胸像」(江戸時代 文政元年 1818年)は、東京上野・寛永寺の子院・見妙院に納められた布袋像のひな型。見妙院は昭和20年3月の戦災で堂宇を消失しており、このひな型が、在りし日の布袋像の姿をうかがわせる唯一の手がかりとなる

かくして貴重なコレクションと向き合うことになった龍谷ミュージアムの学芸員たちは、わが目を疑い、驚愕した。畑家は、定朝(じょうちょう)・運慶・快慶の系譜に位置付けられ、江戸時代の造仏界をリードした七条仏師の流れを汲む。七条仏師は、明治維新時の神仏分離令以降に衰退し途絶えた。その弟子筋であった畑家が、なんと、七条仏師が代々伝えていた仏像ひな型をも、ひそかに現代へ承継していたのだ。

仏像のひな型は、時として完成品としての仏像そのものよりもさらに多くの仏像の秘密や制作の舞台裏を伝えてくれる。中には、火災や戦災などですでに失われてしまった歴史的な仏像のその原型として、今は存在しない仏像の情報をもたらせてくれることすらある。

龍谷ミュージアムのこれまでの研究調査により、畑家のコレクションにあるひな型をもとにして制作された完成品、つまりリアルな仏像が、北は山形から南は長崎まで全国広範囲に及んでいることが一部判明している。一方で、どの寺院に安置されているどの仏像のひな型なのか明確でないものも多く残され、その謎の解明が期待される。

そうした意味で、龍谷ミュージアムの歴史的発見ともいえる仏像ひな型コレクションの公開は、全国各地の寺院や仏像関係者、ミュージアムや研究者に対して、情報を求めるメッセージともなる。

写真左)今回展示されている仏像ひな型「聖僧文殊菩薩坐像」、右)はその像底銘文。「江戸吉祥寺」と墨書きがある。もともと江戸・本郷にあった吉祥寺は、明暦の大火(いわゆる振袖火事)により、当時の江戸郊外であった駒込へ移転。吉祥寺は昭和20年には空襲でほとんどの伽藍を焼失。そのため、文殊菩薩坐像は現存していないが、仏像ひな型によって、失われた仏像の姿をリアルに想像することが可能となる。仏像制作のための模型である仏像ひな型が持つ、もう一つの現代的な意義といえよう。ちなみに像底にマス目が墨書きされているが、「墨割り法」という仏像設計の技法によるもので、ひな型が大きな仏像を制作するための立体設計図であることがよくわかる

美術史的にはこれまで、仏像といえば平安期を筆頭に古い時代の文化財にばかり目が行きがちだった。そのため、仏像制作が盛んになり開花したとも言える近世江戸期の仏像は、その数が膨大すぎることもあり研究の蓄積がされてこず、評価の対象になりにくかった。

しかし、近世江戸期の仏像に対する評価がここから変わっていく。そのターニングポイントとなる歴史的事件ともいえるコレクションの公開に、リアルタイムに立ち会える幸運に感謝したい。

写真左は、龍谷ミュージアム副館長(学芸員)石川知彦氏。今後はインターネットでも公開を検討中で、一つひとつの仏像ひな型に対応する完成品に関して、各方面からの情報提供を期待している

開催概要

会場龍谷大学 龍谷ミュージアム
日時前期:2022年1月 9日(日)~ 2月13日(日)
後期:2022年2月19日(土)~ 3月21日(月・祝)
10:00 ~ 17:00 ※最終日は16:30まで
休館日:月曜日、2月15日~2月18日
   ※ただし、1月10日、3月21日は開館
住所京都市下京区堀川通正面下る(西本願寺前)
交通JR・近鉄・地下鉄烏丸線「京都駅」から徒歩約12分
京都市バス9・28・75系統「西本願寺前」下車、約2分
駐車場なし ※公共の交通機関をご利用ください。
料金一 般 550(450)円
シニア 450(350)円
大学生 400(300)円
高校生 300(200)円
中学生以下:無料
障がい者手帳等の交付を受けている方及びその介護者1名:無料
(手帳またはミライロIDを受付にてご提示ください)
※シニアは65歳以上の方
※( )は前売り・20名以上の団体料金
お問合せ先龍谷大学 龍谷ミュージアム 075-351-2500
ホームページ龍谷大学 龍谷ミュージアム https://museum.ryukoku.ac.jp

日本で初めての仏教総合博物館として2011年4月にオープンした龍谷大学龍谷ミュージアムは、浄土真宗本願寺派本山・西本願寺(龍谷山本願寺)御影堂門のすぐ目の前にある

写真は、龍谷大学の学生が発案して運営を手掛けている館内のカフェ「cafe rita(リタ)」(2021年9月18日運営開始)。コロナ禍の影響で2021年3月いっぱいでそれまでのカフェが営業を停止していたため、その空きスペースを活用して、学生と地域住民が世代を超えて交流できる場として開設された。イベントの開催やゼミ活動、卒業生が関わっている商品を扱うなど、龍谷大学の仏教SDGsに関する活動を広く社会に発信していく。珈琲は、京都西陣のコーヒショップ「Laughter」(アカイノロシ)。紅茶は、京都の高級紅茶ブランド「ムレスナティーハウス」と大学とのコラボレーション。西本願寺御用達・亀屋陸奥の和菓子が月替わりで提供されている

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監修:全国寺社観光協会

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