オンライン僧侶クリニック開設記念!作家&僧侶 家田荘子の 『そうだ!お坊さんに相談しよう。』第1弾:尾田嵩月師

今年(2021年)4月、日本全国各地にいるお坊さんに人生相談できるインターネットの新サービス「オンライン僧侶クリニック」が開設され、話題となっている。相談に乗ってくれるのは、まさに人生いろいろな体験をくぐり抜けてきた信頼できる超宗派のお坊さんたちで、年齢も性別もさまざまで、なかにはLGBTの僧侶もいる。

それでなくてもストレスフルな現代にあって、さらにコロナ禍が追い討ちをかけて閉塞感に包まれる日々。自宅に居ながら相談できて、悩みや苦しみに寄り添ってくれるお坊さんが日本のどこかにいると思うだけでも、心の平穏を保つことができるというもの。ニューノーマルな時代に生まれるべくして生まれた、オンラインでの新しいサービスに期待は高まる。

現在、この「オンライン僧侶クリニック」の開設を記念して、ベストセラー作家で高野山真言宗の僧侶でもある家田荘子さん(高野山本山布教師・大僧都)出演の、特別対談動画『そうだ、お坊さんに相談しよう』シリーズが期間限定で順次公開されている。

寺社Nowでは、気になるその動画の中味を記事化してシリーズで紹介していく。


■『そうだ!お坊さんに相談しよう』第①弾

今回の対談相手は・・・
尾田嵩月(おだ・こうげつ)師
高野山真言宗大師教会
慈光月灯り支部(岡山県・岡山市)

 

看護師、介護士を経て僧侶に。かつて、うつ病に苦しみ、眠れない日々が続き、早くお迎えが来ることばかりを願っていた。頑張りすぎた。誰にも相談せずに踏ん張りすぎた。一歩間違えば死んでいたかもしれない、大きな孤独を抱えていた。そんな彼女だからこそ寄りそえることがある。僧侶クリニックで人気の尼僧さんです。


 

幼い頃から苦労つづきの人生で僧侶に

ー尾田先生はお寺の子ではないそうですね

はい、在家出身です。前職は介護士で、その前は看護師でした。学校は事情があって途中で終わってしまったんですけど、その後、学んだことを生かすために介護の仕事に就きました。

—いろいろご苦労されたと伺っていますが、介護士時代のお話ですか?

私の半生は、幼い頃から得度(編集部注:お坊さんになること)するまでがずっと苦労続きだったんです。育った環境もけっしていいとはいえません。

—子供時代にはどんなご苦労が?

母子家庭で、アル中の母で、おばあちゃんに育てられました。中学生の時には、母は一緒だけど父が誰か分からない妹が生まれたんです。それでも母は働かない。超ウルトラ貧乏な暮らしを送っていました。

祖母が亡くなってからは、もっと酷くなり、中学校を卒業してすぐに就職することにしました。でも、周りはみんな普通に高校に行っていますし、自分もせめて高校くらいはと思って、働きながら夜学に通って卒業したんです。

—介護士は、それまでの経験が生きて、思いやりを持って仕事ができたのでは?

実は、中学生ぐらいの頃から、なんとなく将来は仏門に入るのかなとうっすら思ってはいたんです。

人生の若い時、華のある時、一生懸命頑張る時、そして老いていく時を、見なきゃいけないっていう気がしていて、結局、介護の道に進みました。老いゆくおじいちゃんおばあちゃんの気持ちもわかるようにもなりましたし、ご家族の気持ちもわかります。老いを見守りながら、老いを支える人たちも見ることができました。

 

—介護の仕事は「四苦八苦」の四苦、老いや死にも直面しますよね?

死に向かって歩いていく心の変化や、諦めから満足へ変わっていく姿をたくさん目の当たりにしました。そうした中で多くを学びました。

「人の縁が一番大事よ」と、みなさんよく言われました。

「人を大事に!」という言葉を何度も聞きました。そういった心からの言葉に、すごく感銘を受けたのを覚えています。

—その後、なぜお坊さんに?

私の経験が誰かの役に立つのであれば、なんぼでも!という気持ちはあったんです。苦労や轍(わだち)をいろいろ踏んできた中で、自分の心も成長しました。でも、この心の成長というのは、いったい何なんだろうといつも思っていました。そんなときに、パッと出会ったのが、仏教だったんです。

仏教ってもしかして、自分の心の変化や人の心の変化に何かヒントになるようなことがあるんじゃないかなと思って、得度しようかと考え始めたんですけど、まだ行動には移せていませんでした。

それが、前の夫と過ごしていた時に、ものすごく辛い時期があって、車を運転して憂さを晴らしたしていたような時があったんです。苦しみました。その時に、たまたま立ち寄ったお寺に、大きな大きな観音さまの立像がありまして、その下にベンチがあったので、何の気なしにボーッと座っていたんです。

しばらくしてパッと上を見ると、半眼の観音さまとちょっと目が合ったような気がして。「大丈夫、大丈夫。あなたはこっちに来なさい」って言われたように思えて、「ああ、これはもう得度しよう」と決めたんです。

それから勉強をして、仏さまはどういう方に手を差し伸べるのだろう、どういった存在なんだろうということを一生懸命学んで、私も仏さまの一助になれたらと思い、本格的に得度を目指しました。

でも、実際に得度してお坊さんになるまでが大変でした。師僧を探すのに約3年間、岡山県と広島県の福山市にある真言宗のお寺の門を全部叩いて歩いたんです。

 

—師僧とは、いわゆる師匠ですね。お寺の世界はタテ社会なので、師僧が見つからないと得度もできないし、「命、預けます」というくらいの師弟関係になっていくわけですけれど、3年もかかりましたか?

はい。ツテも全然ありませんでしたし。
3年間、真言宗のお寺というお寺を調べて歩きました。

 

—真言宗に絞っていたんですか?

自分が一番リスペクトできる方じゃないと絶対に嫌だと思っていまして、そんな時に、お大師さま、弘法大師空海さまの言葉にいろいろ出会ったんです。

「お大師さまは、生きる人のために仏教はあるって言ってらっしゃる!」

「死んでからとかではなく、今!まさにこの瞬間、今、救われたい人がいるのだから、そのために動きなさい!って言われてる気が……」

それで、お大師さまが開いた高野山真言宗のお寺を探したというわけなんです。

 

こんどは自分が人生相談を受けるように

—これまで受けた相談ごとで、話せることがあれば教えてください

 

この10年で、延べ2000件のご相談に対応してきました。夫婦関係であったり、恋愛だったり、嫁姑、仕事、引越など、生きていくうえでの悩みが非常に多い印象です。

あるとき、女性の方でした。死んだおばあちゃんが枕元に立つのだけれど、何を言おうとしているのかという相談がありました。

そこで、仕事関係で何かありますかと尋ねたら、ハッとされました。職場の男性と不倫関係にあったようなんです。「子供たちが気付いてしまうので、やめておきなさいとおばあちゃんが心配してますよ」とお伝えしました。すると、「そんなことまでわかるんですか!」とおっしゃって、その後、ちゃんと清算されたというようなこともありました。

 

—清算できたんですね

 

はい、ちゃんと清算したそうです。意志が強い方でした。お子さんが何より大事だと言われていました。

後日、自分の過ちを正してくれてありがとうとおばあちゃんに伝えるには、どうしたらいいか教えてほしいと聞かれました。お墓参りに行って、お仏壇に好物でも供えて、しっかり手を合わせて、「おばあちゃん、ごめんね。心配かけました」とちゃんと伝えること。それとお子さんたちも気付いていたようなので、正面から向き合って謝る姿勢を見せてではどうですかとお伝えさせていただきました。そうしたら、ちゃんとそのようにされて、今は家族円満だそうです。そういった相談は非常に多いですね。

 

—オンライン僧侶クリニックで相談される方が、何でもすぐに解決すると思われてしまうかもしれません。そのあたりはいかがですか?

はい、劇的変化はそうそう起こるものではありません。変化を起こそうと思ったら、まず自分が一番に動かなければなりません。

「人事を尽くして天命を待つ」という言葉がありますが、私たちがやっていることは、その「天命を待つ」にちょっと力をお貸しするだけなのです。自分も努力をするから、「神さま仏さま、少しお願いします」というくらいがいいのかなと思います。

 

—最後に、ご覧いただいている皆さまにメッセージをいただけますか

 

人生には悩みが付きものです。生まれてから死ぬまで悩みが尽きることはありません。でも、物事の見方ひとつを変えるだけで、人生が大きく変わることもあります。本当は自分次第なのですが、でも、どうすればいいのかわからない……。

僧侶は、そうした気持ちの切り替え方なども勉強していますし、私自身が培ってきた経験をもとに、少しでもお力添えすることができたらなと思っております。

私は先生と呼ばれたりするのが嫌いなので、気楽に「タメ語」で相談してください!

 

●次回は、LGBT僧侶、大阪・性善寺の柴谷宗叔住職のインタビューです。

インタビュアー
家田荘子

 

これまで光が当たってこなかった世界や人々にスポットを当て、取材することによって社会問題を提起する異色の作家。平成3年(1991)『私を抱いてそしてキスして~エイズ患者と過ごした一年の壮絶記録~』で第22回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。コミック原作や恋愛エッセイ、小説にも定評があり、著作は130冊を超える。
著書に『極道の妻たち®』『代議士の妻たち』『バブルと寝た女たち』『私を抱いてそしてキスして』などがあり、30作品以上が映像化されている。近著には『熟年婚活』などがある。
また、高野山で修行を積み、平成19年(2007)、高野山大学にて伝法灌頂を受けて僧侶に。高野山の奥の院、または総本山金剛峯寺にて駐在(不定期)し、法話を行っている。

 

■オンライン僧侶クリニックはこちらから(画像をクリック!)

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監修:全国寺社観光協会

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