特別セミナー独占公開「寺社と防災〜宗教にできる社会貢献」大阪大学 稲場圭信教授

2021年1月某日、愛知県神道青年会より『寺社Now』発行元の全国寺社観光協会宛に1通のメールが舞い込んだ。当協会が連携している稲場圭信大阪大学大学院人間科学研究科教授(宗教者災害支援連絡会世話人)への講演依頼であった。

メールには、いつの日かやがて襲ってくる南海トラフ大地震に備えて、神社や神職ができる地域のための防災について学び、「有事の際に即行動ができるようにしたい」「SDGsの目標11:住み続けられるまちづくりに寄与したい」という切実な思いが綴られていた。

そのメールから3カ月後、若い神職たちを対象とした特別講演会がオンラインで実現した。稲場教授は当日、近著『宗教者の災害支援:2021年1月版』(アマゾンKindle版電子書籍)をもとにリアルな現場の事例を交えながら、宗教者や宗教施設ができる社会貢献としての防災について、その思いを青年たちに託すかのように語った。

寺社Nowオンラインでは、明日を生き抜くための貴重な講演の抄録を紹介する。いざというときに地域の神社や寺院がどのような機能を果たそうとしているのか、あるいは期待することできるのかを予め知っておくことが重要だと考えたからである。

なお、稲場教授の著書『宗教者の災害支援』は、電子書籍でネット販売しており、その売上が災害支援に活用される。
※文末リンク参照

稲場圭信(いなば けいしん)
1969年東京生まれ。大阪大学大学院教授(人間科学研究科)。東京大学文学部卒、ロンドン大学大学院博士課程卒、2000年、博士号(Ph.D、宗教社会学)取得後、ロンドン大学、フランス社会科学高等研究院、國學院大學日本文化研究所、神戸大学を経て2010年4月に大阪大学准教授。2016年4月より現職。大阪大学社会ソリューションイニシアティブ「地域資源とITによる減災・見守りシステムの構築」プロジェクト代表。専門社会調査士、専門宗教文化士、防災士、「宗教者災害支援連絡会」世話人。専門は共生学、宗教社会学。主な研究テーマは、利他主義、地域資源と科学技術の融合による防災・減災。主な著書に『阪大生の宣言文』(アマゾンKindle版電子書籍)、『災害支援ハンドブック』(共編著、春秋社、2016年)、『利他主義と宗教』(弘文堂、2011年)、『震災復興と宗教』(共編著、明石書店、2013年)、『思いやり格差が日本をダメにする~支え合う社会をつくる8つのアプローチ』(NHK出版、2008年)等>


1.今、防災分野で寺社への期待が高まっている

 

東日本大震災被災地の仮設住宅に米を届ける僧侶たち

—以下、稲場教授講演抄録

全国では、新型コロナウイルスの感染拡大がなかなか収束せず、大変な状況にあります。この状況下で、自然災害への備えと併せて、あらためて各方面から、感染拡大防止の対策をどうするか、空間の確保をどうするかといった声が上がっています。

避難所が足りないという声もあります。従来のように体育館や公民館に人が雑魚寝をするような密集状況では、誰かが新型コロナウイルスに感染していれば蔓延してしまいます。分散避難の重要性が叫ばれているのです。

また令和2年(2020)4月7日の段階で、内閣府が避難所における新型コロナウイルス感染症のさらなる対応として、ホテルや旅館といった民間施設も活用を検討するようにという通達を出しました。ホテルや旅館と書いてありますが、民間の施設には神社、お寺、教会が含まれ、宗教施設などの重要性がさまざまなところで意識されています。

実態を踏まえて各地で進む、自治体との連携。みなさんの地域では?

例えば令和元年(2019)の台風19号が引き起こした水害により、長野県では避難所に入れなかった方々がかなりいました。これを受けて、長野市では地域の7寺院と「災害時における地域の避難所の設置及び運営に関する協定」を締結しました。

翌年の夏には、熊本県や福岡県で豪雨による河川の氾濫で甚大な水害が起こりました。その際、川の周辺の指定避難所であった小学校が浸水して使えなくなり、被害を逃れて神社やお寺に人が避難した事例もありました。

実は全国的に見ると、最大2メートル以上の浸水リスクがある小学校や公民館がなんと27%もあることが、令和2年8月の日経新聞に掲載されました。地域住民には、行政が指定した小学校・公民館が安全だという思い込みがあるかもしれません。しかし実態は違います。災害が起きた際に、広い境内を持つ、高台にあるなどの理由で人々は地域の寺社にも逃げてくるのです。

愛知県岡崎市では避難場所不足解消のために、行政の防災担当課職員がお寺の活用を考え、それに対して住職が協力を申し出る動きが出ています。ちなみに愛知県では、県内の神社のうち55社が指定避難所となっています。

このような連携は今後さらに増えていくと思われますが、地域の人たちを守るために寺社の方々が日頃から備えておくことも、全国で必要とされていると言えます。

西日本豪雨被災地の真備町で炊き出しをする宗教者と大阪大学の学生

東日本大震災の被災宅で支援活動をする宗教者

寺社が持つ、避難場所としてのポテンシャルとは

さて私は、所属する大阪大学の学生と一緒に避難所を訪問するなど、さまざまな支援活動を行ってきました。

東日本大震災のは、救援物資を届けながら神社やお寺を回りました。そういった中でわかってきたのが、震災時には100か所以上の神社やお寺などの宗教施設が避難場所になっていた、ということです。

気仙沼の高台にある八幡神社では、津波が押し寄せてきたときに神社の3方向にある階段から神社に駆け上がって多くの人が助かりました。津波が押し寄せてくるなか、階段を駆け上がる途中で津波に飲み込まれそうになった人を氏子青年会の方が手を引いて助けたこともあったそうです。また、寒い中での避難は大変だということで、「こういう時は神様も許してくださるから」と宮司が判断し、お年寄りを拝殿へ入れました。

気仙沼の八幡神社から見下ろす津波被災地

また、平成30年(20187月の西日本豪雨災害時に岡山県の真備町で支援活動を行いましたが、その際、高台にある神社が避難場所になっていることが確認できました。

西日本豪雨被災地で緊急避難所となった神社

広い空間があり、畳もあり、水もある。高台にある神を想像させる社やお寺には井戸が掘られているところもある。全国的なネットワークを活用したボランティアも期待できる。災害時には、宗教施設が持つこのような力が大変重要です。

命を守る「防災と宗教」のクレド(行動指針)

平成27年(20153月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議で、関連行事として「防災と宗教シンポジウム」があり、私も講演させていいただきました。

シンポジウムでは宗教や信仰の違いを越えて連携していこうということがいわれ、宗教者や宗教施設は今後どのように地域住民の命を守るために備えるべきか、災害時にどうするか、被災してしまった場合はどうすればいいのか、それらを「学ぶ」「備える」「支える」「歩む」「広げる」という5つの行動指針にまとめました。これらは「防災と宗教」クレド(行動指針)として策定しています。

「防災と宗教」クレド

1.災害について学ぶ
宗教者・宗教施設は、防災減災について共に学べる場を提供します。

2.災害に備える
宗教者・宗教施設は、災害時に向けて共に生きるための備えをします。

3.災害時に支える
宗教者・宗教施設は、災害時に分け隔てなく共に命を支え合います。

4.災害復興に歩む
宗教者・宗教施設は、共に身も心も災害復興に歩みます。

5.連携の輪を広げる
宗教者・宗教施設は、民間機関・行政と共に連携の輪を広げます。

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監修:全国寺社観光協会

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