【インタビュー】商工会と寺社との連携 乾 敏一(全国商工会連合会 専務理事)


インタビュー

全国商工会連合会 専務理事 乾 敏一

地域経済を担う商工会では、2014(平成26)年から観光への取り組みを強化しています。商工会の寺社観光に対する考え方と具体的な取り組みについて、全国商工会連合会の乾敏一専務理事にお話を伺いました。

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プロフィール
乾 敏一(いぬい としかず)
1954(昭和29)年、大阪府生まれ。1978(昭和53)年、通商産業省 (現経済産業省)入省。外務省欧州連合日本政府代表部参事官、経 済産業省地域経済産業政策課長、東京都産業政策部長、衆議院経 済産業委員会専門員等を経て、2015(平成27)年10月より現職。

商工会と寺社との連携により
地域のブランド力を強化

│まず、商工会の役割と活動内容について教えてください。

乾専務理事 : 商工会は、1960(昭和35)年、商工会法に基づいて設立された地域の経済団体です。商工会議所が大都市部を中心に活動しているのに対して、商工会は、大都市部を除く地域の市町村単位で活動しています。現在、商工会の会員数は全国で100万人。その9割を占めるのが、小規模企業や個人事業主です。こうした会員に対して、商工会では確定申告の際の記帳指導をはじめ、さまざまなサービスを行ってきました。

最近、とくに増えているのが「地域振興」の活動です。市町村からイベントの主催やトータルプロデュースを依頼されることも多く、地域の祭りを復活させたり、婚活パーティーや商店街での結婚式を主催したりといった機会も増えています。今では商工会の活動の半分以上が地域振興の仕事、といっても過言ではありません。

│全国商工会連合会は、どのような役割を担っているのですか。

乾専務理事 : 商工会の活動は基本的に都道府県単位で行われており、都道府県の商工会連合会が、地域の行政や経済団体、観光協会などと連絡を取りながら活動しています。一方、全国商工会連合会では、各地の商工会連合会の意見を集約して国に伝えたり、国の決定を各都道府県に伝達して対応を求めたり、といった活動をしています。働き方改革や観光政策、中小企業政策など、商工会に関わる国の政策を分類し、各都道府県の事情に応じていかに政策を活用するかを考えるのが、我々の仕事。全国商工会連合会はいわば「情報の結節点」であり、商工会の効率的な運営をお手伝いするアドバイザーとしての役割を担っています。

全国商工会連合会設立55周年を迎えた昨年発行された『商工会のご案内』

全国商工会連合会設立55周年を迎えた昨年に発行された『商工会のご案内』

 

文化的価値を維持するには

定常収入を得る仕組みが必要

│今、商工会では、どのような分野に注力しているのでしょうか。

乾専務理事 : たとえば地域振興の一環として、地域の産品を大都市の消費マーケットに売り込むためのルート作りや、販売指導などのお手伝いをしています。とはいえ、近年は内需縮小で競争が激化。ネット通販が普及したこともあって、物品販売にやや限界が見えてきました。そこで、新たに力を入れているのが観光振興への取組みです。今、政府は観光振興を国策に掲げ、訪日観光客数も2020年に4000万人、2025年には6000万人という野心的な目標を掲げています。一方で、“爆買いブーム”は一段落し、外国人観光客の関心は、団体旅行やモノ消費の段階から、個人旅行やコト消費へと移行しつつあります。日本の文化や歴史に関心を持つ外国人観光客が増え、日本観光は、一部の大消費地だけが潤う第1ステージから、地方全体に伝播していく第2ステージへと移りつつある。今こそ、祭りや地域に埋もれた観光資源をもっと発掘するべきだ、多様な観光ニーズに応じて豊富なメニューを提供できる体制を整え、海外に発信していこう―そんな意識が、商工会の中でも共有されつつあります。

│今、日本では観光立国の一環として、寺社観光の推進が国家的な課題となっています。そんな中、地域振興において豊富なノウハウと実績を持つ商工会の役割は、非常に大きいと感じます。

乾専務理事 : 先日、「宗像・沖ノ島と関連遺産群」が世界遺産に一括登録されました。もしイコモスの勧告通り、人が足を踏み入れることのできない沖ノ島周辺だけが登録されていたら、経済価値を生むことはなかったでしょう。もちろん、聖地の持つスピリチュアリティを大切にし、世界に伝えていくことは重要です。しかし、それだけではサステナビリティ(持続可能性)を実現することはできない。聖地を存続させるには費用もかさみますから、皆がリスペクトする仕掛けを継続的に作っていかなければ、いずれは忘れ去られてしまう。そうなれば、本来の価値を普及・伝播できないわけですから、これは非常に重要な問題です。サステナビリティを実現するためには、経済的な定常収入を得る仕組み、もしくは公費で補てんする仕組みが必要です。その仕組みができれば、文化的価値や宗教的意義を維持しながら、将来にバトンタッチすることができる。こうした分野は我々の得意とするところですから、商工会が経済面を担い、より多くの方に来ていただけるような環境づくりをお手伝いすることによって、寺社観光にも少なからず貢献できるのではないかと思います。

 

物語性を重視して
観光ルートと商品をパッケージ化

│具体的な事例をご紹介いただけますか。

乾専務理事 : 最近は地域間競争が激化しており、通り一遍の特産品を売り込むだけでは、なかなか消費者に受け入れてもらえない。こうした自己反省のもと、商工会では2014(平成26)年から、全国展開事業の一環として新しい取り組みを始めています。そのひとつとして、地域のお寺や神社を核にして、共通のコンセプトとストーリー性にもとづいた一連の観光ルートを作り、寺社の持つ意味合いを体現した土産品も新たに開発してパッケージ化するというものも挙げることができます。

その一つの例が、地元の商工会が行政と連携して行った、奈良県の斑鳩町での取り組みです。法隆寺や中宮寺、吉田寺などがある斑鳩の里は、仏教伝来の地であり、日本史のルーツの一つでもあります。その歴史に焦点を当てて商品開発をし、「どのようなルートで回れば、外国人に斑鳩の里のストーリーや文化を理解してもらえるのか」という観点から、最適化した観光ルートを練り上げました。我々も資金の一部も負担させていただきましたが、昨年で一段落し、今年からは地元の独自事業として継続する予定です。

二つ目は、奈良県桜井市での取り組みです。これは2016(平成28)年度から始まったもので、大神神社や相撲神社の協力のもと、県の支援も得て、観光ルートと関連商品を作る取り組みが進められています。既存の観光資源を立体的かつ有機的につなぎ合わせて、短期間で効率的に回れるルートを整備し、地域の伝統文化を理解してもらうための“入門編”を作っているところです。

三つ目は、NHK大河ドラマですっかり有名になった、奥浜名湖での取り組みです。浜名湖の内陸側は、もともと史跡も多く、観光資源や特産品に恵まれた土地柄です。湖や山、夕日の美しさ、神社仏閣など、ありとあらゆる観光資源を有機的につなげることによって、その魅力を多くの人に伝えることができればと考えています。このように、商工会では数年前から、寺社観光に関わる取り組みを続けてきました。地域毎に寺社と商工会が連携すれば、新たな地域振興の可能性を切り拓くことができる、そんな思いを強くしています。

│日本の伝統的価値を担う寺社と、経済分野に精通した商工会がタッグを組めば、可能性も大きく広がりますね。

乾専務理事 : 互いに役割は違えど、寺社観光によって地域を活性化できれば、それが地方創生につながり、日本全体の浮揚にもつながる。そのことについて、皆が共通認識を持つことが大切です。その意味で、キーパーソンとなるのは、市町村や県などの地方自治体です。行政がリードして、関係者が意識を共有できるような環境さえ作っていただければ、商工会もできる限りお手伝いしますし、経験とノウハウを生かして期待にお応えできると思います。

一方で、お寺さんや神社さんにも、「地域全体が同じ船に乗った運命共同体なのだ」という意識をお持ちいただけるとありがたいですね。訪日外国人が不便と感じていることは、実務を少し変えるだけで解消できます。たとえば、海外ではカード決済が普及しているため、現金はあまり持ち歩かないのが普通です。ところが、日本の寺社は現金決済が中心で、両替商も少ないので、「ドル札しかないと言ったら、拝観できませんと言われた」ということが往々にして起こりうる。行政が司令塔となってインフラを整備し、地域の関係者が一堂に会して協力する体制を作っていただければ、課題の解決もスムーズに進むのではないでしょうか。

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商工会のノウハウをフル活用し
寺社活性化のお役に立ちたい

│今後、商工会と寺社が協力することによって、どのような相乗効果が生まれるとお考えでしょうか。

乾専務理事 ; やはり、「観光パッケージ」という総合的な価値を、新たに創出できるという点ですね。今までの日本は、ものの売買がもたらす経済効果だけに注目し、もっぱら売上高や観光客数を観光政策の指標にしていました。しかし、多様な商品やサービスが生まれることで、地域の価値とブランド力が高まれば、地域の方々にとっても「子々孫々に至るまで、ここに住み続けよう」と思えるきっかけになるのではないか。今は東京一極集中が進み、東京の大学に進学した若い人たちが、卒業しても地元に帰らない傾向が強まっています。超高齢化が進んで“人口ゼロ”の地域が続出し、「このままでは、明るい日本の未来像を描けない」という危機感もある。そうならないためにも、地域に埋もれた資源を発掘し、それを現代風に再編して、地域の持つ付加価値を世に知らしめることが大切です。その代表的なものが、各地の神社仏閣ではないでしょうか。寺社観光に取り組むプロセス自体が、地域の価値の再発見につながる。その意味では、寺社観光とはこれからの地方創生の王道である、といってもいいかもしれません。

│今後、商工会としては、全日本社寺観光連盟とどのような協力関係を結んでいくお考えですか。

乾専務理事 : 今後の具体的な協力を継続的に拡大していくためにも、まずは実績を積み上げていくことが大切です。今、国の支援措置として地方創生交付金がありますが、今後はハードだけではなく、「観光」というソフトも交付金の対象にしていただきたい。そして、できるだけ早く具体的な成果を上げていきたいと考えています。今、全日本社寺観光連盟が進めている仙台空港周辺の寺社観光ルート作りの検討委員会にも、宮城県岩沼商工会の会長がメンバーとして参画しています。今後もこうした形でお手伝いができれば、大変意義深いですね。また、(連盟の下部組織である)全国寺社観光協会とも意見交換しながら、政府に共同で施策要望を出したり、各地の寺社のイベントに我々も参画させていただいたりと、さまざまな形で連携していきたい。機会があれば、我々も大いにバックアップさせていただきます。

│ありがとうございました。

<インタビュー・構成/吉田燿子>

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2017-11-07 | Category インタビュー

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