行事を通じて仏心の種を蒔く 法相宗大本山 薬師寺 村上 太胤 管主


世界遺産に指定されているほか、数多くの国宝を有する奈良県屈指の古刹、法相宗大本山 薬師寺。
昨年8月、薬師寺では山田法胤(やまだほういん/現長老)管主から村上太胤(むらかみたいいん)管主へとその任が引き継がれ、大きな転換期を迎えた。
今回は、新管主として薬師寺のみならず奈良という地域全体での取り組みについて、さらには今後の展望と日本文化の伝承地としての役割も担う奈良の寺院のあり方について話を伺った。
 

s_薬師寺-横向き法相宗大本山 薬師寺 村上 太胤 管主

 

先人が整えてくれた環境に〝魂〟を吹き込むことが命題

編集部:
新管主にご就任され、これからの抱負をお聞かせください。

村上管主:
薬師寺は七堂伽藍といって七つの大きなお堂によって構成されております。
しかし、過去の歴史において東塔以外はすべて焼失してしまい、50年前から故・高田好胤(たかだこういん)管主をはじめ、歴代管主によって伽藍の復興に取り組んで参りました。
今年中には最後の食堂(じきどう)が完成します。講堂や食堂は奈良のお寺の特徴ともいえますが、食堂は食事をする場所ということだけではなく、勉強をする場所でもあります。ここでお坊さん同志がディスカッションして、研修する場所として使っていただきたい。

奈良の古寺は、お墓もありませんし、檀家も持たないのでお葬式も行いません。
だからこそ〝場〟を提供して、いろんな人に集まっていただき、仏教の教えを勉強してもらうことが私共の使命だと思っています。昨年、いくつかの奈良の大きなお寺で管長が変わられたこともあり、奈良全体で力を合わせて行かねばと思っています。

編集部:
奈良の寺院の魅力を多くの人に伝えて行くためにどのような取り組みが必要なのかお考えをお聞かせください。
 

s_薬師寺-お写経の様子写経会の様子

村上管主:
奈良に限らずですが、昨今、豊かになればなるほど心の絆が薄れていっているような気がします。
お仏壇のある家や三世代で暮らす家も少なくなり、仏教に触れる機会がない。そういった面からも、私共が場を提供することで仏教を学ぶきっかけになればと思います。
定期的に行っているお写経会をはじめ、私が塾長を務めさせていただいている「薬師寺まほろば塾」もそういった取り組みのひとつです。
 

s_まほろば塾04薬師寺まほろば塾 宮崎県 都城総合文化ホールにて 右から村上胤管主、デューク更家氏、大藏基誠師 演題「笑いと日本人」「こころの健康 からだの健康」

 

美しい心と仏教の精神を 若い世代に伝える第一歩

編集部: 
外国人旅行客や修学旅行生など、〝観光〟という感覚で奈良の寺院を訪れる人も多いかと思います。そういった若い世代にこそ仏教の心を伝えるという努力を地道になさっているそうですね。

村上管主:
努力というのはおこがましいですが、若い僧侶が中心となり、学生さんに手を合わせる意味や慈しみの心の話をすることで、最初は観光感覚だった人が寺を後にする際には手を合わせて帰るようになってもらえればと。
このような活動は仏教の教えを知ってもらう第一歩であり、それがきっかけとなって再びお寺を訪れてくれたら嬉しいですね。
そのためにも私は薬師寺をもっと開放し、日本文化の発祥の地である奈良の魅力を体感してもらう。そのために行動し続けることが使命であると考えています。

編集部:
こういった姿勢は奈良の地域全体においても同様なのでしょうか?

村上管主:
寺院の伝統行事を通じて地域と触れ合うことで、歴史ある奈良の魅力をより知ってもらいたいと願っています。
行事の際には地域の協力と理解がとても重要ですから、その行事に参加していただくことで寺と地域が共存し、共により良い場所にしていければと思います。
古都である奈良の魅力を訪れる人と住む人の両方が知ることで、形だけでなく中身の伴った伝統行事を次世代へ繋いでいけるのだと思います。

編集部:
今後の奈良の寺院のあり方、展望についてご意見をお聞かせください。

村上管主:
私はこれからの奈良の寺院は、脱・観光を目指すべきだと思うのです。というのも、観光地にある寺院の宿命かもしれませんが、やはり観光を追求するとどうしても何人来たか、という数字ばかりを追うことになる。
しかし重要なのは参拝者数ではなく、奈良や寺院の真の魅力を知ってもらうために心を込めたことがきちんとできるかどうかであり、ひいては仏教の教えを広めることだと思うのです。

観光はあくまでも手段であり、その手段を優先しがちですが、私共は「仏心の種を蒔く」という、つまりはご縁を作っていくことを大事にしたいのです。そのために研修や講演の開催などにも力を入れ、単に〝来た、見た〟だけではない寺院の魅力に触れてほしいです。

団体バスで来られるのも良いですが、「古寺巡礼」という言葉にもありますように個人で奈良のお寺を歩いて巡ってもらえれば。その場に足を踏み入れることで何かを感じ取り、体験することができ、場所そのものにも愛着が湧きます。愛着のある場所には魂が宿り、それは仏教の教えの素晴らしさを知るきっかけにもなるでしょう。

新たに管主となった私に課せられた役目というのは、人々の思いが形となって完成した空間に魂を入れることですから、これからどれだけ場を活用して愛される場所、仏心の宿る場所にしていくか。そのために本来の寺のあるべき姿に立ち戻ることは必然なのではないでしょうか。
 
s_薬師寺-遠景

お寺を開放し、本来の魅力を伝えることが使命

編集部:
奈良県では現在観光誘致のためにいろいろな施策、イベントの企画が進められています。地域や行政、当協会との連携についてご意見をお聞かせください。

村上管主:
奈良は隣接する京都や大阪と比べても、多数の名所があるにもかかわらず宿泊施設が少ないため、これまでは夜8時以降には店の灯りも落ち、閑散としてしまいがちでした。
しかし近年では「燈花会(とうかえ)」をはじめ、寺院でのコンサートなどイベント活動を積極的に行なうことで賑わいを見せ、奈良の街と寺院とが一体となった取り組みが広がりつつあります。
また、海外に向けての情報発信などはなかなか難しいところなので、そういった弱い面を行政のサポートがあれば良いですね。
この「寺社Now」もお寺の魅力の発信源となっているのは嬉しい限りです。多くの方に奈良の魅力を知ってもらうためにも地域や協会との連携を今後も強化して行きたいです。

 
悠久の歴史を見守ってきたであろう木々を眺めながらゆったりと語ってくださった村上管主。
管主の言葉通り、ここを訪れる人が感じる愛着は仏心の種となり、いずれは花を咲かせて実を結ぶのかもしれない。
新管主として地道に布教の種を蒔き続けることこそが、今後の仏教の発展と奈良の発展を望む村上管主の信念と言えるだろう。

「薬師寺まほろば塾」の活動について
s_まほろば塾01
「まほろば」とは、優れた美しいところを指す言葉。日本人の「美しいこころ」と「豊かな文化」をすべての人に広く伝えたいと、全国各地で開催する「まほろば塾」は、宗教やジャンルを超えた講師陣による「こころのまほろば運動」を進めている。

法相宗大本山 薬師寺(やくしじ)
〒630-8563 奈良県奈良市西ノ京町457
TEL 0742-33-6001
http://www.nara-yakushiji.com

情報誌・寺社Now vol.12「インタビュー~」 より

2017-03-03 | Category インタビュー

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