向かった先は、京都市上京区にある西陣織国際美術館(2021年10月オープン)。ビルの1フロアに、聖林寺十一面観音を筆頭として、国宝や重要文化財クラスの仏像を緻密に再現した美術織物が展示されている。十一面観音だけでも、聖林寺に限らず国宝指定の各地の十一面観音すべてがここにある。
ほかにも、源氏物語絵巻や、シルクロードの巨匠・平山郁夫の日本画、可愛らしい仏画をものにした瀬戸内寂聴師の作品など、珠玉の仏教美術作品の数々が西陣織で再現されていて圧巻だ。
「夢が叶った思いでした」
蔦屋文二郎館長は、聖林寺での開眼法要を振り返ってこう語る。
「開眼法要で、まさに糸の〝みほとけ〟にしていただいたという思いです。苦境に立たされている西陣織の未来を仏像に託したその第1号が、聖林寺の観音さまでしたから」
京都を代表する伝統工芸、西陣織の歴史はおよそ1200年。美しくピュアな絹糸で繊細に織り上げられた西陣の着物は、国内にとどまらず多くの人々を魅了してきた。しかし、和装の文化が日々の暮らしから消えて久しく、さらにこのコロナ禍で結婚式や成人式など着物を着る機会が激減し、西陣の衰退に追い討ちがかけられた。最盛期には2,000軒以上あった工房が、今では100軒にまで激減し、伝統技術の継承が危ぶまれている。
そうした危機の中での西陣織国際美術館のオープンである。
それにしてもなぜ、西陣織で仏像なのか。