立体造作物の構造
窟内部は、タリバンによる破壊前の時点ですでに壁画面の半数以上が剥がれ落ち、岩肌が露出している。また、岩肌には漆喰を保持するための心棒を入れた穴がところどころ開いており、凹凸が激しい。
今回の再現は、主となる天井壁画を間近で鑑賞できるよう、壁画が残っている部分(座仏の肩を基準に上部)のみを、90度回転させた状態で行うこととなった。そして、天井壁画中心近くに存在する大きくえぐれた部分など、元の図像を想定できる部分に関しては、復元したうえでの再現を行うこととした[図3,図4]。
制作にあたり、まずは最終的な造形物の構造を3D上で検討した。美術館等展示のための運搬・設置が可能となるよう、全18パーツに分割した。搬入時の利便性を考え、小さいパーツの上に大きいパーツを乗せる構造とした[図5]。
接合にはボルトナットを使用し、位置ずれを起こさないようボスを設けた[図6]。また、強度確保のために、パーツ毎の背面にはパネル、側面には合板を埋め込んだ[図7]。面の基礎となる構造体は、密度が高い難燃耐熱性の発泡スチロール素材を使用した。
完成した3Dデータを元に3軸NC加工で発泡スチロールを削り出し[図8]、人の手による仕上げを加え造形を完成させた[図9]。さらに発泡スチロール表面は樹脂と和紙で覆い、補強とした。
壁面の質感を再現するにあたっては、東京藝術大学にて修理・保管されていたアフガニスタン流出文化財の壁画を参考にし、熟覧調査と試作による比較を繰り返し行うことでオリジナルに近いと想定される構造の壁面を制作した。
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