ホテルでよく見る『仏教聖典』の秘密〜仏教伝道協会・木村清孝会長:人間の完成を目指し世界中の人々に仏教の心を伝える

【寺社Now17号(平成30年1月発行)】より

※情報は掲載時のものです

昭和40年(1965)に沼田惠範(ぬまたえはん)さんの発願により設立された公益財団法人仏教伝道協会。5千余巻にもおよぶ経典をまとめあげた『仏教聖典』は、46言語に翻訳され、現在、世界62カ国の主要ホテルや寺院・病院などに約920 万冊頒布されている。

偉業ともいえる事業を成し遂げた仏教伝道協会の歩みについて、曹洞宗龍宝寺のご住職であり、華厳思想・東アジア仏教を専門に東大名誉教授も務める木村清孝(きむらきよたか)会長にお話を伺った。

木村 清孝( きむら きよたか)
1940(昭和15)年熊本県生まれ。公益財団法人仏教伝道協会会長。曹洞宗龍宝寺住職。東京大学名誉教授。1963(昭和38)年東京大学大学院人文科学研究科印度哲学専門課程の修士課程へ入学以来、一貫して華厳思想を中心とする東アジア仏教思想の研究に従事。平成29年(2017)より現職兼務


発願者の沼田惠範さん

「発願者である沼田惠範師は、東広島市の浄土真宗本願寺派浄蓮寺の第16世沼田惠生師の三男として生まれました。19歳のときに浄土真宗本願寺派よりアメリカ開教使補に推され渡米すると、カリフォルニア大学バークレー校在学中に『ザ・パシフィック・ワールド』という東洋文化を紹介する雑誌を創刊します。当時の米国はまだ排日感情が色濃く、お茶や華道、剣道など東洋文化を通して、間接的に仏教精神の素晴らしさを伝えようとしました」

『ザ・パシフィック・ワールド』は、米国の各大学や図書館などに寄贈され、多くの識者に好評だったという。しかし4年後、経済的に行き詰まり廃刊。沼田惠範さんはその教訓を胸に、帰国後、三豊製作所を創業、マイクロメータの分野では国内90%以上のシェアを誇る株式会社ミツトヨへと育て上げる。

事業の発展により、かねてより「世界の平和は人間の完成によってのみ得られ、人間の完成を目指す宗教に仏教がある」と考えていた沼田惠範さんは、仏教伝道への安定的基盤を得て、私財を投じ、新たに仏教伝道協会を設立。仏の教えを広く世界に伝えるため『仏教聖典』の現代語訳に着手するが、数多くの宗派が存在する日本でその作業には多くの困難が伴ったという。

「宗派が細かく分かれているのは日本の特徴。それだけに『仏教聖典』の編纂には苦労が多かったと思います。ともあれこの聖典は大乗仏教と上座部仏教を通じて基本的かつ重要な仏の教えを網羅し、しかも誰もがそれを理解できるように工夫されています」

現代語訳『仏教聖典』の多言語翻訳とその無償頒布

苦労の末に翻訳された仏教聖典

『仏教聖典』の現代語訳は多くの賛同者を得ることになる。そして、外国語訳による編集、刊行とその普及が仏教伝道協会の事業の柱となり、昭和41年(1966)には『日英対訳仏教聖典』が刊行される。今も全世界のホテルに約7万冊が無償で頒布されている。東日本大震災の被災者から「ホテルで見た『仏教聖典』の一言に救われた」という声も届いたという。木村会長は「仏教の教えが、個人の悩みに寄り添い安心できる場所をつくることができたなら、私たちのひとつの目標は達成されたといえる」と語る。

超宗派の団体として、宗派間の交流を促進

現在、仏教伝道協会では『仏教聖典』を従来の型にとらわれず、現代人が親しみやすい副読本やマンガなどのかたちに編集しなおして発行もしている。また、仏教精神を体験できる坐禅会やヨガ教室、英語講座のほか、絵本コンテストの創設など、ユニークな活動も行う。さらに、超宗派の仏教団体として、宗派間の交流を進める活動にも積極的だ。

「実践布教研究会は、昭和45(1970)の創設から毎年開かれている超宗派の活動です。この研究会は、日本仏教各宗派を代表する大本山で行われ、これまでも比叡山延暦寺、身延山久遠寺、正法山妙心寺、吉祥山永平寺などが会場になりました。研修中は、会場となった宗派のお勤めの仕方、講話、食事作法などを学び、聞・思・修三慧(もんししゅうさんえ)一体となった仏道を修めます。普段、なかなか知ることができない他宗派の仏道を体験することで、自らの宗派を新たな視点から見つめ直すことができます」

世界でますます存在感を強める制度や取り組み

仏教研究の宝庫『大正新脩大蔵経』

さまざまなアプローチで仏教精神の醸成・流布を図る仏教伝道協会。世界に目を向けると、その存在感はより大きくなる。代表的な事業が、30年以上も前から寄付講座として開かれている「沼田仏教講座」だ。今やオックスフォードやハーバードなど世界有数の名門大学をはじめとする15の主要大学で開講されている。

また、近年、欧米では日本仏教の研究者が増え、多くの成果をあげているという。その陰には、二代会長の沼田智秀(ぬまたとしひで)さんから始まった外国人留学生奨学金制度などの、仏教伝道協会の継続的な支援と、学術振興への貢献がある。昭和57年(1982)から着手された『英訳大蔵経(えいやくだいぞうきょう)』の刊行事業も、その代表的事例だ。

二代会長 沼田 智秀さん

「大蔵経のもとになる『大正新脩大蔵経(たいしょうしんしゅうだいぞうきょう)』は、もともと漢文で書かれたものです。これを世界各国の仏教学者の協力のもと、最新の研究結果で読み解いて翻訳。平成5年(1993)には初巻『摂大乗論(しょうだいじょうろん)』を発刊、現在85典籍が53巻にまとめられました。全仏典の翻訳完了にはまだまだ時間を要しますが、世界中のより多くの方々に仏教を広めるために、今もなおその刊行が続けられています」

長年、各国語に翻訳した『仏教聖典』を寄贈してきた仏教伝道協会の活動は海外からも高く評価され、これまで世界各地で贈呈式が開催された。合わせて寄贈先国の協力も得てその式典へ参加できる日本からのツアーも組まれてきた。昨年には、今世界から新しいマーケットとしても注目を集めるミャンマーに、『仏教聖典』ミャンマー語版と英語版が、同国のホテル1054軒、約4万室に常備されるよう10万冊寄贈された。それとともに、ミャンマーでの『仏教聖典』贈呈式の開催と、この式典参加を含めたミャンマーへの仏教伝道協会オリジナルツアーが企画されている。

発願者の沼田惠範さんの、世界の人々に仏教精神を広めるという志を受け継ぎ、国内外の仏教伝道活動と、仏教文化・学術振興に寄与する仏教伝道協会。超宗派の団体だからこそ可能な幅広い活動が今後も注目される。

 


公益財団法人仏教伝道協会

〒108-0014 東京都港区芝4-3-14
TEL:03-3455-5851
HP


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