お寺の温泉宿!?小石が敷き詰められた「禅サウナ」で禅の心に触れる
—静岡県河津町・天城山慈眼院(曹洞宗)—
ところ変わって伊豆半島、河津の桜で知られる河津町。
川端康成『伊豆の踊子』の舞台であり、あるいは昭和の大ヒット演歌『天城越え』のモチーフとしても知られる天城峠のほど近くに、曹洞宗の禅寺、天城山慈眼院がある。アメリカ合衆国の初代駐日公使タウンゼント・ハリスが、安政5年(1858)の日米修好通商条約締結時に宿泊したともいわれ、歴史的に峠の宿坊として活用されてきたと推察される。1950年代から70年代にかけては、若い世代の個人旅行を応援するユースホステルとして人気となり、10年ほど前に温泉採掘に成功して以降は、装いをモダンな宿坊「天城温泉 モダン宿坊 禅の湯」に変えて、地の利を活かした湯宿として営業している。東京から2時間圏内ということもあって、コロナ禍にあっても客足の大きな落ち込みもなく、堅実な経営となっている。
そんな禅寺の湯宿に「禅サウナ」がある。
「禅の湯では、男女ともに浴場の一角に「石の湯」というサウナを備えています。温泉母岩やトルマリン、深成岩などの小石を敷き詰めていて、やや熱めの敷石サウナですが、遠赤外線とマイナスイオンでリラックスしていただけます。私自身もちょっと疲れているかなと思ったら、一日に何回も石の湯で横になるんですけど、そうするとたちまち回復するから不思議です」
と、寺で生まれ育った住職の娘で、当宿の女将として経営を切り盛りしている稲本雅子さんが、実感を込めて語ってくれる。そんな女将が、もうひとつほかの禅寺ならではの理由で、宿泊客に石の湯を勧めているという。
「曹洞宗といえば坐禅を連想される方が多いと思います。石の湯のサウナを利用していただくことでリラックスできるのはもちろんですが、敷石の上で呼吸を整え、静かに座る行為は坐禅のようなものです。サウナをきっかけにお寺や坐禅にも興味をもっていただければ、とお客さまへ石の湯をご案内しています」
禅サウナを堪能するには手順がある。まずは温泉で身体を洗い、少し水を飲むか飲泉も可能な温泉の湯を口にしてから、石の湯のある部屋に移動して横になる。薄明かりの空間で無心になっていると、やがて心が落ち着き静まってくるので、呼吸を調え、心を調えるのだ。
サウナーがいう快感的な「ととのう!」とは、ちょっと違う。まさに坐禅しているかのような心持ちになってくるし、一度体験すると、何度でもここに帰って来たくなることだろう。禅サウナから、禅寺の禅に興味を持つ人も出てくる。理想的な循環を生み出す寺の宿だ。
さらに食事の時間には、伊豆河津という地の利を活かした、地産地消の地元野菜や名物の金目鯛など海の幸が待っている。前出の高知四万十町の岩本寺もそうだが、サウナを備えた寺の宿坊は、サウナーにとって最高のオーベルジュ(宿泊の付いたレストラン)といえるだろう。
■曹洞宗天城山慈眼院 モダン宿坊 禅の湯
〒413-0501 静岡県賀茂郡河津町梨本28-1
電話:0558-35-7253
HP:https://zen-no-yu.com
Facebookページ
Twitter
Instagram
ということで、冒頭でも触れたように、日本における「寺サウナ」の歴史、つまり寺院が人々に入浴を施す「施浴」の歴史は千年を遡る。そして今回紹介した3つのケースも、それぞれの寺院ならではやり方で「心と身体の癒し」を提供しようとしている点において、伝統的な施浴文化の延長線上にあると考えることができる。
古くから旅の目的として、温泉巡りがその代表格としてあるが、今般のサウナブームによって「寺サウナ」にも脚光が集まれば、新たな旅のジャンルが成立して広まる可能性は大いにある。寺社Nowは「寺サウナー」の代表として、引き続き「寺サウナ巡礼の旅」を続けることにしたい。