伝説のコピーライター「そうだ 京都、行こう。」の太田恵美さんがコロナ禍の今こそ伝えたい「時間」という寺社の魅力

寺社の“現在進行形”を感じてきた

ここの桜のように、

一年にたった一回でもいい、

人をこんなにもよろこばせる

仕事ができれば

なんて思いました。

これは、太田さんお気に入りの一作だ。平成9(1997)年春のキャンペーンで、天台宗西山善峯寺(京都市西京区)の桜の写真と共にポスター掲示された。彼女がコピーを考案するときに大切にしていること、それは、「今に通じるかどうか」だという。

「今とは私たちが生きている時代であり、生きている人のことです。京都の名所旧跡である寺社に行き、見ている風景は何百年も前からあるものです。コピーを創る際には、その寺社のどこに、今の旅人の心へ届けられるものやことがあるかどうかを考えています。変わらない風景を今へと後押しするのは、寺社が持っているエピソードや文化財かもしれませんし、空間や滞在時間そのものかもしれません。それらの何を現在進行形で感じられるのかが大事なのです」

太田さんのコピーを読むと、実は寺社に直接は言及していない。しかし、そこにある圧倒的な存在感を示す写真と、見る者の想像力をふくらませる「今」を感じさせる現在進行形のコピーが、人々を京都へと向かわせた。

平成5年(1993)、記念すべき第1回は清水寺(北法相宗大本山、京都市東山区)の秋の夕景がポスターに。海外旅行がステータスだったバブル時代が崩壊し、国内へと人々が目を向け始めた頃だった

平成13年(2001)春は仁和寺(真言宗御室派総本山、京都市右京区)の桜。建物や文化財だけでなく、四季を伝える寺社の自然が題材となった

「寺社の価値とは、過去からずっと時間がつながっていることにあると思います」と太田さんは言う。

「文化財のような対象物がなくても、訪れるだけで『この空間にこれまで何人が手を合わせてきたのだろう』というように想像力を遊ばせる喜びが生まれます」

「だから、“今もここにある” ことが何より素晴らしいのです。寺社だけでなく各地にある名所旧跡では、現在のような未来があるなんて思いもせず、当時の人々は暮らしていたことでしょう。幸いなことに私たちは歴史を振り返り、学び、自分がいずれ過去になるということを自覚することができます。すると、未来へ何を残したいのかも見えてくるような気がしています」

毎年、題材となる寺社を訪れ、現在進行形の“今”を探し続けてきた太田さん。四季折々の京都への旅は、すっかりライフワークともなっていた。

ところが、新型コロナウイルス感染症の流行により、訪れることもできず、その空気感を全身で感じる機会も奪われることになる。

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監修:全国寺社観光協会

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