LGBTツーリズムと寺社観光:世界の潮流を寺社と地域の振興につなげる観点から

【寺社Now25号(平成31年5月発行)】より
※情報は掲載時のものです

新たなエンターテインメントや観光スポットが世界中で続々と誕生し、日本におけるインバウンドと同じように、「観光」をテーマに各国でさまざまな施策が実行され、世界は人の大移動時代に入った。そうした中でいま注目されているのが「LGBT(性的少数者=セクシャルマイノリティ)」の人々の動向。多様性を認める世の中の象徴とも言うべき「LGBT」は実は寺社観光の今後と、密接にかかわっている。


観光施策を考えるうえで、LGBTは注目の存在

レズビアン(L・女性同性愛者)、ゲイ(G・男性同性愛者)、バイセクシュアル(B・両性愛者)、トランスジェンダー(T・性同一性障害者など)の頭文字を取り、性的少数者(セクシャルマイノリティ)の総称として使われているLGBT。雇用や社会保障など生活環境のいろいろな面で課題として取り組まれているが、今回は旅行分野に着目したい。

近年LGBTツーリズムという言葉が聞かれるようになった。文字通りLGBTの人たちを対象にした観光施策のことだが、平成12年2000)に観光関連やホスピタリティを学ぶ学校であるアメリカのトラベル・ユニバーシティが発表したレポートによると、国際旅行者に占めるゲイ・レズビアンだけの割合は約7000万人(全体の10%)、またLGBTツーリズムの市場規模はオランダのアウト・ナウ・コンサルティング社による平成26年(2014)の調査で2020億ドル(1ドル100円換算で約20兆円)と出ている。

なぜこれほどの市場規模かというと、LGBTの旅行者は比較的可処分所得が高く、そのため旅行回数が多く、また気に入った場所に再訪する傾向があるとされるからだ。ほかにも、SNSの更新頻度が高いといった特徴もあり、その消費行動に世界の観光産業が注目している。

世界各地の航空会社がLGBTに優しいというスタンスを示していることもその一例で、アメリカン航空など日本に乗り入れている欧米の航空会社ではすでに、LGBT専用WEBサイトを開設したり、関連イベントに協賛する動きが出ている。

 

日本でもLGBT対象の観光施策が動き出している

世界ではこのように活況となってきているのだが、日本はどうだろうか。平成27年(2015)に観光庁および政府観光局がニューヨークで開催した日本の魅力を発信するイベント「JAPAN WEEK2015」内で、日本に興味のある海外のカップルを日本へ招待するイベントがあり、その最終選考に選ばれた3組のうち1組がレズビアンカップルだった。また復興庁による平成30年(2018)度「新しい東北」交流拡大モデル事業のひとつには「目指せ!ダイバーシティ東北【LGBTツーリズム】」が選定された。さらに全国各地で、行政主催によるLGBTツーリズムの講演なども開催されている。もはや日本も、LGBTツーリズムに向けて大きく舵を切っていると言える。

国内の観光関連産業においても同性結婚式プランを設けるホテルが出てきたり、沖縄県那覇市のようにLGBTフレンドリーを謳う観光地も登場、各地でLGBTイベントも開催されるようになってきた。

全国9自治体で同性パートナーシップ証明制度が始まったことを機に、同性婚を希望するケースも増えてきている

プライドパレードが世界的な人気に

さて、観光地でのLGBTイベントを考える時、世界各国で開催され、日本にも平成12年(2000)から導入されている「東京レインボー祭り」に見られるような「プライドパレード」はもっとも注目すべき施策だろう。LGBTの人たちがレインボーフラッグなどを持ちにぎやかに練り歩くパレードのことを「プライドパレード」と呼ぶが、ニューヨークのパレードは200万人を動員し、経済効果は200億円とも言われ、サンパウロではなんと400万人も動員した。

世界のプライドイベントとLGBTツーリズムの経済効果
出典/観光産業に従事する方のためのLGBTツーリズムハンドブック(後藤純一、株式会社アウト・ジャパン著)

このように世界各国で毎年多くのLGBT旅行者を集めることに成功し、どこも100億円以上の経済効果を上げている。その状況に呼応して日本でも東京や大阪、名古屋、福岡ですでに開催され、ここでも億単位の経済効果があったようだ。これらのパレードには海外のLGBT旅行者も数多く参加するようになっており、彼らはイベント後に国内観光地を訪れ、消費行動を積極的にしている。

LGBT旅行者の特徴・傾向

1 Facebook、InstagramなどSNSへの投稿
自分自身の旅行体験記・写真を頻繁に更新する傾向が強い

2 愛着心が強い
気に入った場所に何度も行く傾向が強い

3 サービスへの厳しい目
サービス面には厳しいが、一度獲得できれば、リピーターにもなりえる。LGBTが納得するサービスを提供できれば、どのお客様にも喜んでいただけるはず

寺社観光に魅力を感じるLGBT旅行者が増加

イベントと絡めてだけではない。LGBTの人々はスピリチュアルなものや場所に興味を持つ傾向があるとも言われ、しかも日本の寺社に興味があるという。特に近年では、寺社での結婚式を目的に来日する人も増えているようだ。その一因として、平成26年(2014)に京都にある臨済宗妙心寺派大本山妙心寺の塔頭寺院である春光院が同性同士の結婚式を受け入れたことが、アメリカのオンラインメディア「ハフポスト」で紹介されたことが挙げられるだろう。

春光院の川上全龍副住職によると、特別にLGBTを意識しているわけではなく、挙式を相談された方がたまたま当事者だっただけだそうだが、以来LGBTの外国人旅行者の中には日本の寺社で挙式をと考えて来日する人も出てきているよう。国内の当事者間でも同様の動きが見られ、ブライダル企業と提携している寺社の中には、毎年何件かの問い合わせを受けているところも複数あった。中には挙式という形ではまだ対応できないが、それに似た形で「祈祷」として受け入れている神社もあり、すべての人を受け入れるという寺社の考え方が、国内外のLGBT当事者に、関心を持たれているようだ。

しかし、挙式の可否にかかわらずLGBTの人々とどう向き合うべきか悩んでいる寺社はまだ多いように見受けられる。近年は寺社においてLGBTについて考える勉強会が多数開催されており、対応についてさまざまな意見が出ている。ここで考えておきたいのが、LGBT旅行者が訪問先を選ぶ基準のひとつに「LGBTフレンドリー」かどうかがあることだろう。

 

LGBTフレンドリーは寺社本来の姿

「LGBTフレンドリー」とは、簡潔に言うと相手がどのような人かにかかわらず友好的であることとなるが、これこそ寺社にもともとある魅力ではないだろうか。寺社は「だれもが過ごしやすい場所」である。つまり文化財や体験などの情報だけでなく、過ごしやすい場所としての魅力を発信していけば、おのずとLGBTフレンドリーになっていける。先述したように、LGBT旅行者には気に入った場所を再訪する、SNSの更新頻度が高いといった傾向が見られる。つまりLGBT旅行者は、気に入った場所の良さを寺社に代わって発信してくれる存在と言い換えることもできる。

LGBTフレンドリーであることが、すべての人が楽しめる寺社につながる

例えば国内のホテルでは、LGBTフレンドリーをアピールするために社内研修を行い、さまざまな施策を打ち出しているところもある。ホテルグランヴィア京都では、トランスジェンダーの旅行者が利用しやすいようにフロント近くに男女共用トイレを設けたり、同性カップルが宿泊する際には客室のテーブルの上にレインボーの折り鶴を飾るといったことに取り組んでいるが、これがLGBT旅行者の間で評判となり、広まっている。

情報を発信して寺社の存在を知ってもらい、より多く訪れてもらえるようになることが、これからの寺社振興には不可欠。そのためにどんな魅力があるのかを把握し、またLGBTの人たちに喜んでもらえるちょっとした工夫をしてみるだけでも、その情報がLGBT当事者を中心に拡散され、訪問につながり、また一般旅行者にも伝わっていくことが期待できる。

LGBTツーリズムはもはや、世界全体が取り組んでいること。この動きに合わせて取り組みを始め、「すべての人に優しい」寺社をアピールできれば、ゆくゆくは寺社の活性化にもつながっていきそうだ。


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