そうした中で観光行政を取り仕切る観光庁単体の予算としては、数字的には下記のような減額となっている。
▪一般財源:141億5800万円(前年度比4%減)
▪国際観光旅客税財源:80億9500万円(同69%減)
▪総額:222億5300万円(同46%減)
国際観光旅客税を財源とする施策については、インバウンドの回復が見通せないことから前年度比で大幅な減少を余儀なくされている。ただしその一方で、一般財源では、「国内交流の回復・新たな市場の開拓」や「高付加価値化」「観光産業の変革」などに対しては、たとえば次のような事業では増額、あるいは新規で推進していくことが示されている。
①[継続]新たなビジネス手法の導入による宿泊業を核とした観光産業の付加価値向上支援
5億5000万円(前年度予算の約5.5倍)
②[新規]ポストコロナを見据えた新たなコンテンツ形成支援事業
4億4800万円
③[新規]持続可能な観光推進モデル事業
1億5000万円
①では、地域の観光産業や旅行消費の核となる宿泊業について、既存のモデルとは異なる「新たなビジネス手法」の導入による付加価値向上策の方向性を見いだすことが期待されている。
②では、新たな市場やニーズの開拓に取り組む地域を支援する。〝第2のふるさとづくり〟を進めるための滞在コンテンツや滞在環境、移動の足の確保を進める。また、地域や日本の新たなレガシーの形成に向けた支援を実施。将来にわたって国内外からの旅行者を惹きつける取り組みを進めていく。
これは、実は「寺泊(テラハク)」の大きなテーマでもある。「寺泊」を単なる異文化体験だと理解している向きが多いようだが、地域のハブとなっている寺院や神社に宿泊滞在することで、住職や寺族、神職などと交流し、また地域の人たちとフレンドリーに触れあう機会に恵まれる。SNSなども活用して、いわゆる関係人口の創出や、〝第2のふるさとづくり〟につながる可能性を大いに秘めている。
第2のふるさとづくりに関しては、観光庁において「第2のふるさとづくりプロジェクト」が立ち上げられ、その方向性や具体的な取組内容について検討が行われている。
コロナ禍などによって働き方や住まい方に関する意識が大きく変化している中で、密を避け、自然環境に触れる旅へのニーズが高まっている。ふるさとを持たない大都市の若者が増え、田舎にあこがれを持って関わりを求める動きもある。こうした新しい動きも踏まえて、「第2のふるさと」として「何度も地域に通う旅、帰る旅」というスタイルを推進、定着させることで、国内観光の新しい需要を掘り起こし、地域経済の活性化につなげていこうというものだ。
具体的には、地域課題の解決をめざす滞在型コンテンツの開発、古民家活用や空き家の再生による滞在環境の整備、観光型MaaSやサブスクリプションプランによる移動の確保などを通じて、点ではなく面として地域が一体となった活性化をめざしている。
【参考】観光庁「第2のふるさとづくりプロジェクト」に関する有識者会議
③([新規]持続可能な観光推進モデル事業)では、「日本版持続可能なガイドライン(JSTS-D)」の実践を通じて、サステナブルな観光地経営のモデルを形成し、その取り組みを全国展開を図っていくほか、地域人材の育成も進めていくことが確認された。言わずもがなだが、寺院や神社および地域による「寺泊」の運営は、物心共にサステナブルな観光地経営のモデルとなりうるし、そのノウハウの全国展開も可能だろう。
以上、令和4年度の観光関連予算を眺めると、地域と共に歩む寺院や神社への応援メッセージと読み取ることもできる。寺社がこれまで地域で紡いできたネットワークが、今こそ活かされる時が来た。