2024夏最注目!若き空海デビューの舞台!話題の東博「神護寺展」後半戦突入〜真言密教のはじまりを目撃する【9/8まで】

文:吉田燿子(ライター)
雑誌「日経おとなのOFF」の美術館特集やWebメディアで展覧会の取材を数多く経験。雑誌や機内誌、書籍など幅広いフィールドで、神社仏閣や建築・文化史・民俗・山岳信仰をテーマに取材・執筆を行っている。著書に『日本初「水車の作り方」の本』(小学館)など。北海道大学文学部史学科卒業、國學院大學大学院文学研究科修了(民俗学修士)。

東京国立博物館で開催中の「神護寺~空海と真言密教のはじまり」展神護寺創建1200年空海生誕1250年を記念して企画された本展は、連日多くの来場者を集めている。8月14日〔水)より展示の一部入替があり会期も後半に突入した今、未見の方のために、あらためて見所をご紹介させていただきたい【会期 9/8〔日)まで】

京都の西北・愛宕山麓にある神護寺は、古くは高雄山寺と呼ばれた山岳寺院である。唐で恵果から密教の奥義を伝授された空海は、帰国後、高雄山寺に招かれ、ここを真言密教の拠点とした。
弘仁3(812)年、空海はこの寺で日本初の両部灌頂を行う。この高雄山寺を前身とする神護寺は、最澄とともに平安仏教の旗手となった空海デビューの舞台、「真言密教のはじまり」の聖地となったのである。

密教の力によってあまねく人々を救いたいと願った空海が、その目で見、その手で触れて、制作を指揮し、祈りを捧げた名品の数々。密教への情熱をたぎらせた若き空海のエネルギーを、展示を通じて感じられるのが本展の魅力である。

右)吉野右京・大橋作衛門等作「十二神将立像」(京都・神護寺蔵)※通期展示[撮影:寺社Now 2024年7月16日 プレス内覧会にて]


ということでさっそく、最大の見どころともいえる3つの寺宝をご紹介しよう。

吉田セレクション「3つの寺宝」
1. 病魔退散!桁外れのパワーを感じさせる異相の薬師仏
2. 空海プロデュース・現存最古の曼荼羅が100倍楽しめる!
3.「伝頼朝像」が放つオーラに放心状態…見逃した方は神護寺へGO!

1. 病魔退散!桁外れのパワーを感じさせる異相の薬師仏

チラシやポスター、図録などのキービジュアルに採用されている国宝・薬師如来立像[撮影:寺社Now]

左手中央)薬師如来立像(国宝/平安時代・8~9世紀/神護寺蔵)※通期展示[撮影:寺社Now]

 
天長元(824)年、神願寺と高雄山寺が合併し、神護寺が誕生した。その際、空海が自ら神護寺の本尊として迎えたのが、この「薬師如来立像」である。以来、1200年間門外不出とされてきたこの国宝仏が、今回初めて寺外で公開される運びとなった。

薬師如来といえば、病に苦しむ人々を救う慈悲の仏としてのイメージが根強く、温雅な像容のものが多い印象である。だが、この「薬師如来立像」は、鋭いまなざしとへの字に結んだ口元を持ち、容易には近寄りがたい雰囲気を身にまとっている。なぜ、この薬師仏はこれほど厳しい表情をたたえているのか。

しばらく眺めていて、ふと、この異相の仏が持ついかめしさとは、内なる呪力の表現なのではないかと思った。総身にみなぎる病魔退散、怨霊調伏のパワー。この仏はまずその強大な呪力によって病魔を退け、打ち祓い、しかる後に人々を救うのだ。だからこそ加持祈祷の力が問われる密教の本尊にふさわしい、と空海は考え、本尊として迎え入れたのではないか。

そんなことを思いながら、この薬師仏が放つパワーを全身に浴びて、身内にひそむ病の種を焼き尽くすことができたらと想像をたくましくした。それは1200年間にわたって人々が共有してきた、切実な思いであったかもしれない。

2. 空海プロデュース・現存最古の曼荼羅が100倍楽しめる!

東博「神護寺展」開催の1年前、2023年5月10日、京都・神護寺にて、修理完成した両界曼荼羅(高雄曼荼羅)(国宝/平安時代・9世紀)の開眼法要が厳粛に行われた[撮影:寺社Now]

開眼法要後、神護寺の谷内弘照貫主が報道陣の質問に答え、喜びと責任を語った[撮影:寺社Now]

 
「高雄曼荼羅」は、神護寺を代表する寺宝の1つ。天長年間(824~833年)の制作とされ、空海がプロデュースした曼荼羅としては現存最古のものだ。約4m四方の巨大な曼荼羅で、紫色の綾地に金泥と銀泥で仏の世界が描かれている。約230年ぶりの大修理を経ての一般公開であり、1200年前の作品をここまで復元した関係者の苦労は並々ならぬものがあったと推察するが、やはり歳月が残した爪痕は深く、「高雄曼荼羅」の図像を肉眼で判別するのは容易ではない。

こういう場合、「なんだかよくわからなかった」で終わるのが常だが、ありがたいことに本展では、「高雄曼荼羅」をより深く理解するための手がかりが提供されている。「高雄曼荼羅」と隣り合わせに、江戸時代の修理の際に制作された原寸大の模本が展示されているのだ。

まずはオリジナルの「高雄曼荼羅」に向き合い、次に模本を見て、クリアに描かれた図像を脳裏に刻む。そして再び原本に向き合うと、模本の残像が原本に重なり、往時の姿がうっすらと眼前に浮かんでくる。こうした方法で「高雄曼荼羅」を鑑賞できる機会は、そうそうないのではないか。それができただけでも、本展に足を運ぶ意義はあると感じた。

右)そして2024年夏、満を持して東京国立博物館「神護寺展」にて初公開。※前期は「胎蔵界」、後期展示は「金剛界」[撮影:寺社Now]、左)公式の図録とは別に会場でも頒布している『高雄曼荼羅図録』(2023年5月、神護寺刊)は、神護寺HPからも直接購入可能(http://www.jingoji.or.jp/)

3.「伝源頼朝像」が放つオーラに放心状態・・・見逃した方は神護寺へGO!

右)伝源頼朝像(国宝/鎌倉時代・13世紀/神護寺蔵)※注:前期展示〔8/13まで)

 
最後に、展示替えで見ることができなくなってしまったが、前期展示で印象に残った作品について触れておきたい。それは、神護寺に伝わる3幅の肖像画の一つ、「伝源頼朝像」である。かつて歴史教科書には、源頼朝の肖像として必ずこの絵が掲載されていた。その後の研究により、この肖像画のモデルが「頼朝か否か」は学界を二分する論争となっている。

だが、実際に目の当たりにしたこの肖像画は、想像を超えて素晴らしいものだった。等身大の坐像は、気品にあふれ、この人物が並々ならぬ雅量の持ち主であることを示している。本展では「神護寺三像」として、「伝平重盛像」「伝藤原光能像」とともに示されているが、この「伝源頼朝像」の美しさは他の2作とは比較にならない。これほどの肖像画なら、清和天皇の末裔として武家の時代を開いた偉人・頼朝こそがモデルにふさわしい、と後世の人が考えたとしても驚くにはあたらない。それほど、この肖像画は光輝いていた。

 
ぜひ本展に足を運んで、等身大の「頼朝」と対面し、希代の名品と心を通わせてほしい・・・と言いたいところだが、残念ながら本作は前期展示のみ。神護寺では毎年5月1~5日の宝物虫払い行事の際に、本作を含む「神護寺三像」を公開している。見逃した方は、ぜひ現地にお運びいただきたい。

いざ、神護寺展&神護寺へ!

東京国立博物館「神護寺~空海と真言密教のはじまり」
会 場東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園内)
会 期2024年7月17日(水)〜9月8日(日) ※8/14〔水)より後期展示
開館時間9:30 – 17:00(金土は19:00まで。入館は閉館30分前まで)
休館日月曜日
公式サイトhttps://tsumugu.yomiuri.co.jp/jingoji/
神護寺HPhttp://www.jingoji.or.jp/
問い合わせ050-5541-8600(ハローダイヤル)

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監修:全国寺社観光協会

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