特別セミナー【宗教にできる社会貢献】大阪大学大学院・稲場圭信教授「神社と防災」 <2>

令和3年4月7日、当協会が連携している稲場圭信大阪大学大学院人間科学研究科教授(宗教者災害支援連絡会世話人)による、愛知県神道青年会の青年神職たちを対象とした特別講演会がオンラインで実現した。稲場教授は当日、近著『宗教者の災害支援:2021年1月版』(アマゾンKindle版電子書籍)をもとにリアルな現場の事例を交えながら、宗教者や宗教施設ができる社会貢献としての防災について、その思いを青年たちに託すかのように語った。

寺社Nowオンラインでは、明日を生き抜くための貴重な講演の抄録を3回にわたって紹介する。いざというときに地域の神社や寺院がどのような機能を果たそうとしているのか、あるいは期待することできるのかを予め知っておくことが重要だと考えたからである。

なお、稲場教授の著書『宗教者の災害支援』は、電子書籍でネット販売しており、その売上が災害支援に活用される。
※文末リンク参照

前回の記事はこちら。
【宗教にできる社会貢献】大阪大学大学院稲場圭信教授の特別セミナー「神社と防災」 <1>


2.自治体と宗教施設や団体との連携におけるポイントとは

 

これまで、日本国憲法に政教分離の原則があるため、自治体と宗教者や宗教施設が災害時に連携をしたり避難場所の指定を受けるといったことができない、という間違った認識が、防災の専門家や自治体の担当者の中に少なからずありました。
ところがここ数年、少しずつ認識が変わってきています。例えば東日本大震災の被災地でもある宮城県岩沼市の竹駒神社には、指定避難所の看板が設置されています。市長と宮司が交わした避難所指定に関する文書も残っています。
実は東日本大震災の前に、避難所に指定されている小学校は遠いから、自分たちは竹駒神社へ逃げる、という地域住民の声を受けた自治体からの依頼で、竹駒神社はすでに避難場所に指定されていました。しかし避難場所を示す看板がないばかりか、自治体との協定に関する書類もなく、連携がうまくいきませんでした。それで震災後に宮司が、これでは地域の方々の命を守れないと進言し、覚書が作成され、看板が設置されました。

東日本大震災後、竹駒神社に設置された指定避難所の看板

加速し始めた、自治体と宗教施設との協力関係

平成31年(2019)2月から一年間、文部科学省の科学研究費基盤研究「宗教施設と要請と市民の連携による減災・見守り」の一環で、全国調査を行いました。その結果、329の自治体がすでに2000を超える寺社と災害協定を締結しているか、協力関係にあることがわかりました。
平成16年(2004)にも同様の全国調査をしていますが、その時から比べると、協定を結んで避難場所になっている寺社が2倍以上に増えています。さらに、協定を結んで一時避難所となっているところも増えていました。
協定を締結している自治体数はこの調査時点で95から121に増えており、続く令和2年の調査では新たに40の自治体が地域の宗教施設と災害協定を締結しています。
地域の人の命を守るため、安心安全を守るため、自治体と神社やお寺、教会などの宗教施設が連携する動きがどんどん増えているのです。

 

連携の前に、とにかく耐震性の確認を

さて、寺社を防災に活用する際にひとつ考えておきたいのは、建物の耐震性です。東京都では、東京都宗教連盟と東京都の間で、平成29年以降、災害時に連携する動きが、少しずつ出てきています。
とはいえ、耐震などインフラの整備がどうなっているのか現状を把握しておく必要があるため、平成30年(2018)に東京都宗教連盟が実施主体となり、東京都宗教連盟、大阪大学大学院人間科学研究科、JTB総合研究所が協働で、連盟に加盟している4068の宗教施設を対象に「東京都宗教施設における災害時の受け入れ調査」を実施しました。
その結果、耐震建造物のある宗教施設が全体の34.6%(461施設)、井戸水を有する施設が20.5%(273施設)あり、区市町村の防災対策への協力意向については49%(651施設)が積極的な意向を示していることがわかりました(下図参照)。
しかし、実際に行政組織と防災に関する連携協定などを締結している宗教施設は4.3%(57施設)にとどまっている現実もありました。

平成31年(2019)「東京都宗教施設における災害時の受け入れ調査」より。対象:東京都内4068宗教施設

 

また、講演や研修などで全国の寺社の方々とお会いすると、耐震はどうなのか、神社やお寺は古いから危険じゃないのかという声が時折あります。確かに、地震で神社やお寺が残念ながら倒壊することもあります。ところが、例えば熊本大地震では、指定避難所となっていた益城町の総合体育館で、本震の際に天井が崩落しました。避難所ですから前震の際に避難してきた人もいたのですが、指定管理者の方が「ここに避難させるのは危険じゃないか」と判断し、事なきを得ました。もし指定避難所だから大丈夫だと考えて避難していたならば、大惨事になっていたことでしょう。また同じく熊本県の宇土市では、危機管理の対応をする市役所が被災してしまい、一時的に機能しない状況に陥りました。
つまり、時と場合によっては、役所も指定避難所も小学校も公民館も、同じような状況になる可能性があるわけです。

こうなってしまったら、もうどこにも逃げられません。そうしたときに人はどういう行動をとるのか? そうなんです、被災を免れた寺社に逃げるのです。熊本大地震だけでなく、その前の東日本大震災の時にも、指定避難所になっていない、自治体から指定されていない神社にたくさんの人が逃げています。小学校が津波で流され、自分の家もない。命からがら逃げて、たどり着いたところに神社がある。しかも高台だからと、多くの人が避難した神社の例がありました。
自治体と協定を結び避難場所に指定されている神社はもちろん、そうではない神社にも人が逃げてくる可能性がある。やはり備えが必要なのです。

 

連携が進む、宗教団体のボランティア

自治体との災害時協定に関して、もうひとつ重要なのが、ボランティアの観点です。災害が起きると、その地域にある社会福祉協議会(以下、社協)がボランティアセンターを立ち上げます。そこと宗教者が連携できているかも考えておきたい点です。
令和2年(2020)の1月に、「社会福祉協議会と宗教団体との災害時連携」について、全国で初となる調査を実施しました。全国の社協を対象に行ったこの調査では、これまでに災害が発生し、災害ボランティアセンターを開設したり、災害対応をしたところが321か所ありました。その中で宗教団体や宗教者のボランティアを受け入れた経験があったのは134カ所、約41%でした。
さらに、宗教者の方々を受け入れた満足度を聞くと、8割近くの社協が非常に満足している、あるいはやや満足していると回答。つまり地域連携については、社協と宗教者の連携が近年の災害時にはすでにある程度できていて、今後もこういった動きは強化されていくと思います。

熊本地震の被災地の災害ボランティアセンターで活動する宗教者

熊本地震の被災地の災害ボランティアセンターで活動する宗教者

 

助け合いの根底にある「無自覚の宗教性」

ところで、私は利他主義の研究をしています。世界のさまざまな宗教の中では利他が説かれており、そして利他的精神を育て、広めていく最適な環境は宗教的環境だということが言われています。しかし日本では、世界と比べると随分状況が違います。新聞各社やNHK などの調査によると、7割以上の人が自分は無宗教だと答えています。それなのに、日本では災害が起きるたびに多くの人が被災地へ駆けつけ、物資を送り、義援金で寄付をするといった助け合いをします。
このことを欧米の学者は、「日本は不思議な国だ、無宗教という人がそんなにいるのに」と首をかしげるのです。そして無宗教の人が多いのになぜ神社やお寺がたくさんあるのか、よく理解できないようです。
確かに無宗教と考える人は7割以上います。ところが初詣やお墓参りには、7割近くの人が行くと答えています。また、神仏に対する感謝の念や世間に対するおかげさまの気持ちが大切だと答える人も7割近くいます。無宗教と言いながら、どうしてこんな初詣や墓参りへ行き、宗教的な部分を大切だとするのか。私はこれを、日本人特有の、無自覚な宗教性と捉えています。欧米のような強い信仰心とはまるで別の、無自覚で、漠然と自分を超えたものがあるといった感覚を持ち、ご先祖さまや神さま仏さま、世間に対するおかげさまという気持ちを大事にしている。このような国民性が、災害時のボランティアや物資支援、義援金寄付につながっているのではないでしょうか。

次回は社会とつながる寺社の役割「ソーシャルキャピタル」について紹介します。


『宗教者の災害支援:2021年1月版』Amazon Kindle版
著者:稲場圭信
発売日:2021年1月1日
価格:1,000円


 

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