静岡県熱海市にある來宮神社は、和銅3年(710)の創建以来「来福・縁起の神」として信仰されてきた。しかし平成17年(2005)、神社は一度経営破綻の危機に瀕している。雨宮盛克宮司は当時を、「バブル崩壊後、熱海全体に閑散期がありました当時は神社を守っていこうにも先立つものがなく、やっとの思いで経営している状況でした」と振り返る。転機が訪れたのは2010年。パワースポットブームが追い風となった。
「境内の大樟(くす)がパワースポットとして注目され、若い女性が参拝するようになりました。神社の伝統を残していくために、『これをブームで終わらせてはいけない』と考え、少しずつ境内のリニューアルに着手したのです」
参道整備に始まり、鳥居の外にはお休み処を設置、本殿は中が見えるようにガラス張りにした。そして平成26年(2014)、参集殿竣工と共に、茶寮として「報鼓」を開店。創設にあたってまず着目したのは、当社の御祭神の好物と伝えられる「麦こがし・橙(だいだい)・ところ・百合根」だった。神社に縁のある食材を使い、メニューを提供しようと考えたのだ。同時に、来宮駅前福道町商店街の菓子店や飲食店などと「来福スウィーツプロジェクト」も立ち上げた。
「最初は店舗と協同でケーキやパンなどを作りました。それが店舗に広がり、来福スイーツは『健康パン』さんの“麦こがし饅頭”のみだった10年前から、現在は報鼓で提供しているメニューも含め50品以上が熱海市内で販売されています。カフェ事業部の収益は当時の8倍になりました」
門前町の形成をめざして、商店街とともに動く
境内には、来福スイーツを提供する店を記した「来福MAP」も置いている。その効果か、「来福スイーツを始めたことで過去最高益を出した店舗もある」という。しかし、外の店舗で販売される来福ブランド商品については、ライセンス料などは設定していない。
「その分、本当に来福ブランドにふさわしい商品なのかという厳しいチェックはさせていただいていますし、お互いを紹介しあうことで観光客の動きも活発になりました。何より、商品開発のやり取りを通して、街の方々と会話をするきっかけができたことが一番嬉しいのです」
神社と地域が互いに〝なくてはならない存在〟だと再認識するきっかけともなったカフェ事業。地域と共に活性化を図ったことで、参拝者数は10年前の5倍にも増えている。「いずれは、かつての門前町が熱海で復活できたら嬉しい」という宮司の言葉からは、さらなる進化も予見させる。
茶寮 報鼓
〒413-0034
静岡県熱海市西山町43-1 熱海 來宮神社内
TEL:0557-82-2241
HP:http://www.kinomiya.or.jp/
【寺社Now20号(平成30年7月発行)】より ※情報は掲載時のものです