全国に広がる 「神社de献血」 。 穢れ(けがれ)とされてきたことを突破した宮司たちの決意と願い

令和2年(2020)7月、三社祭で知られる東京・台東区の浅草神社境内で、献血イベントが開催された。その名も「神社de献血」。浅草神社を皮切りに、世田谷区の瀬田玉川神社、太子堂八幡神社、松陰神社でも始まり、さらにこの動きは、関西の大阪天満宮や道明寺天満宮(大阪)、播州三木大宮八幡宮(兵庫)ほか全国へと次々に波及し、現在までに全国約30の神社で展開されるまでに広がりを見せている。

「神社de献血」は、医師や弁護士はじめ神職などで組織されている一般財団法人国際災害対策支援機構の主催イベントだ。評議員を務める浅草神社の土師幸士(はじ・こうじ)宮司が橋渡し役となり、同機構と神社界との連携事業として、東京都赤十字血液センター献血事業への支援を目的にスタートした。

しかし、神道において「血」は「穢れ」とされてきたもの。この問題にいったいどのように折り合いをつけることができたのだろうか。浅草神社の土師宮司にその真意を聞いた。

神社はみなさまが「心を寄せる場所」だから

「きっかけは、東京都赤十字血液センター立川事業所の方から、国際災害対策支援機構のほうに支援依頼が届いたことでした。聞けば、新型コロナウイルス感染症による影響で献血活動の場が減少してしまい、医療機関への血液供給に深刻な影響を与えているとのこと。コロナ禍でも輸血を必要としている人はいます。『何かしなければ』と、国際災害対策支援機構で支援の方法を検討し始めたのです」

土師幸士宮司と、浅草神社の社殿にて

中でも、輸血用血液不足の大きな原因となっていたのは、学校や企業、イベント会場といった集団献血の場が大幅に激減したことだった。そこで土師宮司が注目したのが、自分たちのテリトリーでもある神社の境内である。

「そもそも神社というのは、みなさまが〈心を寄せる場所〉であり、精神的な癒しを伝える場です。もともと肉体的な治療を施す医療とは縁が遠く、その支援についても疎い部分があったのは確かです。一方で、身体と心は一体であり、物理的肉体的な癒しを与える医療と精神的な癒しを与える神社が一体となれば、より多くの方を助けることができるのではないかという思いを、以前から抱いていました」

あまり知られていないが、実は、都内で奉職する40歳までの神職が集う東京都神道青年会では、これまでも毎年献血活動を行ってきたという実績がある。神職たち自身も献血し、また献血センター前での呼びかけや、たとえば文京区の湯島天満宮でも献血イベントを実施したことがあるという。

「私自身、かつて東京都神道青年会の会長を務めていたこともあり、毎年献血活動には協力してきました。湯島天満宮での経験もあったため、神社で献血をする、ということ自体に免疫があったのです。そのことが、『神社de献血』を立ち上げる大きな後押しになったと思います」

浅草神社では、2020年に2度献血イベントを実施し、今年も5月5日に3度目のイベントを実施予定

今やるべきご奉仕を

とはいえ、企画の推進にあたっては神職として大きな苦慮があった。神道では、「血」は忌み避けるべき「穢れ」であるという観念があり、常に「清浄」を保とうとする意識が働いている。そのため、血液という「不浄」なものを神社で扱ってもいいのかという葛藤があったのだ。

「清浄と穢れを区別することは重要です。ただ、コロナ禍で多くの方がお困りの時に、『教えに背くことになるからやらない』という選択肢を取るわけにはいきませんでした。ですから献血は、心を寄せてくださるみなさまからお預かりする“善意の血液”ととらえ、こんなご時世だからこそ、今やるべきご奉仕をしたい。神社だからこそできる社会貢献をしたいと、私は神職として、この企画の立ち上げに踏み切ったのです」

浅草神社で「神社de献血」が開催されると、賛同する神社が次々と現れた。神社同士のつながりによって、東京、神奈川、大阪、兵庫と広がっていった。

今年4月に「神社de献血」を実施した、東京都品川区の居木神社

「神社の境内は屋外ですし、訪れる参拝者の方は礼節を大事にされている方も多く、観光地でも外国からの観光客が減っている分、密になることなく実施することができました。当初は、『神道の教えに背く行為ではないか』とお叱りを受けるかもしれないという不安もありましたが、そのような批判はありませんでした。参拝に来た方が『神社で献血ができるんだ』と興味を持ってくれるケースもあれば、献血をするためにわざわざ神社に来られる方もいらっしゃった。神社にとっても、献血センターの方にとっても、良い機会になっているのではないかと思います」

社会貢献が神社を見直すきっかけに

「神社で社会貢献を」という土師宮司の決断があって実現した「神社de献血」だが、そこには、社会における神社の役割について日々考える土師宮司の強い思いがあった。

「30年後にはおよそ30%の神社がなくなるかもしれないと言われています。地方の過疎化や少子高齢化といった問題だけでなく、信仰心の希薄化、『神様にすがる』という感覚が薄れてきていることも、神社の存続に大きく影響しているでしょう。一方で、これまで神社はみなさまがお越しくださるのを待つという姿勢でした。社会福祉との接点も少なかったのではないかと感じています。だからこそ、ただ待つだけではなく、社会福祉に貢献することで、地域のみなさまに神社の存在意義を見直していただく機会につながってほしい。『卵が先か鶏が先か』ではありませんが、『神社がやっているから興味を持った』でも『こんな活動をやっていたことで神社に興味を持った』でも、それぞれの意義が伝って、足を運ぶ理由になればと思っています」

「神社de献血」の活動には各地で新たな神社が次々と加わり、毎月開催が続けられている。神社ならではの特別企画「献血スタンプ」を用意したことも功を奏して、献血イベントが開催されている神社を巡る人も出てきているようだ。テレビやSNSでも話題を呼んでいる。

浅草神社で献血した際にもらえる限定スタンプ

御朱印ではない、神社をめぐる新たなきっかけづくり

神社側からのお礼でもある「献血スタンプ」は、「神社de献血」をもっと知ってほしい、もっと広がってほしいという思いで企画された。

「最初は献血をしてくださった方に特別な御朱印をお渡ししようと考えたのですが、本来御朱印は参拝の証しなので、本来の意味とズレてしまうことが頭を悩ませました。『地域に貢献したいので献血はいいけど、御朱印はちょっと』という神社さんも少なくありません。それで、オリジナルスタンプを設けてスタンプ帳の配布をしたところ、集めてくださる方が増えてきたんです。最近では献血のために特別御朱印を独自に出される神社さんも出てきましたので、浅草神社でも、今後取り組んでいけたらと思っています」

土師宮司は「神社de献血」を企画した際、「神社の規模にこだわらない」ことを重視した。そのため赤十字の担当者には、あえて中小規模の神社から広げていきたいと伝えたという。なぜなら大きな神社が先に名を連ねてしまうと、それ以外の神社は「うちの規模でやっても役に立たないのではないか」と、および腰になってしまう。むしろ、地域に根ざした全国各地の神社で広がっていくことで、参画のハードルが下がり、独自の工夫も生まれていくのではないかと土師宮司は考えている。

「大きな神社は各地域にひとつあるかどうかというところも少なくありません。しかし大きさに関係なく、神社は全国どこの地域にも必ずあります。社会と神社の未来のためにも、この活動が全国に広がってほしい。それが私の願いです」

神社はこれからも地域とともにあり続ける。だから地域のために、できることを。「神社de献血」には、宮司たちのそうした思いと願い、そして決意が込められている。

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