問題の、そして注目の仏像は、国宝の阿弥陀堂で知られる法界寺(ほうかいじ、京都市伏見区日野)の秘仏「薬師如来立像」(重要文化財)だ。特別展のチラシ・ポスターデザインにも使われている。法界寺は、永承6年(1051)に、藤原(日野)資業(すけなり)が創建した寺で、この時に造られたのが本像である。
法界寺は現在、真言宗醍醐派に属する寺院だが、元をたどれば天台宗であったため、今回、伝教大師1200年の大遠忌ということもあり、各方面の尽力もあり宗派を超えて秘仏出展の運びとなった。
本像は、サクラとみられる材を用いた檀像(だんぞう)で、素地のうえに直接あしらわれた載金文様(きりかねもんよう)が美しい。またその姿形は、比叡山根本中堂に秘仏本尊として安置されている最澄自刻の薬師如来像をうかがわせるものとして、きわめて重要な仏像である。日本仏教にあってもっとも重要な秘仏の姿をうかがわせる秘仏を目撃することができる。
さてその法界寺の薬師如来立像には、造像時に日野家祖先代々に伝えられた最澄が自ら刻んだ三寸の薬師小像が納められたという。像内に小像を納める姿から乳(ちち)薬師として信仰されてきた。
昭和37年(1962)に解体修理された際に、胎内仏は近世までに造り直されたと判断されていたが、胎内仏はおろか、そもそも薬師如来立像が秘仏のため、その姿形はこれまで秘められたものとなっていた。
それが今回、特別展のために東博に出座された際に、コンピューター断層撮影(CT)による精密な調査を実施、胎内仏の精緻なデータを取得することに成功した。
胎内仏の像高は28.4cm。近世までに最澄自刻のものと取り替えられていたことがわかっている。がしかし、今回のCT調査による精緻なデータをもとに、最澄自刻の像を模したことも想定しうるなど、いくつもの新たな発見の可能性が広がった。
東博と京博の共同チームによる調査データをもとにした研究は、まだ始まったばかりだが、その成果の一部が4月に開催される京博の特別展でディスプレイされると発表された。CTのデータをもとに3Dプリンターで胎内仏を再現して、薬師如来立像とあわせて展示する計画があることも明かされた。展覧会の裏側のこうしたダイナミックでアカデミックな現在進行形のワクワクする知的作業についても知ることができる、またとない機会となるだろう。
京博の特別展は、九博(2月8日~3月21日)巡回後の、4月12日に開幕する。そのとき貴方は、1200年の歴史と文化の目撃者となる。
■京都国立博物館
伝教大師1200年大遠忌記念特別展「最澄と天台宗のすべて」
会期:2022年4月12日(火)〜5月22日(日)
開館時間:9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)
※特別展期間中は延長あり
公式サイト:https://saicho2021-2022.jp/
■西国四十九薬師霊場第38番札所
法界寺(ほうかいじ、通称:日野薬師)
所在地:京都市伏見区日野西大道町19
霊場会HP(法界寺):https://yakushi49.jp/38hokaiji/
2