世界文化社は、全国各地の32の木造遺産を徹底解説する『日本木造遺産 千年の時を超える知恵』を2024年6月8日(土)に発売します。建築探偵の藤森照信の深い文章×建築写真界の大御所・藤塚光政のキレのある写真。さらに、構造学の観点から東京大学生産技術研究所の腰原幹雄教授がコラムを寄稿。日本の木造建築の粋を集めた“後世に残したい”一冊です。
日本には世界に誇るべき遺産があります。それは木造建築です。古来、木の国・日本では“黒木”“赤木”“白木”そして“塗り”の四つに分けて建築用木材を使ってきました。明治になり欧米スタイルの建築が導入されましたが、木造の技術と美学は近代化のなかでも生き続け、昭和には日本独自の“木造モダニズム”が出現します。日本の木造建築はまさに、千年の時を超えて受け継がれてきた知恵なのです。
建築探偵・藤森照信ならではの深い洞察力が光る本文
近代建築史研究の第一人者・藤森照信氏の深奥でありながら読者に寄り添った平易な文章は、日本文化に関心を抱くすべての人を受け止め、日本の木造建築の扉を開くきっかけとなるでしょう。
「……岡本(太郎)が美術界で縄文的なるものを提起した時、畏友の建築家丹下健三の反応は鈍かった。なぜなら、弥生的な代表作桂離宮に対抗できるほどの、生命力溢れた伝統建築が見つからなかったからだ。そこに白井晟一が現れ、縄文的なる建築の実例を示し、わが意を得た丹下は以後、桂離宮を衰弱した貴族の美のしるしとみなしてゆく。岡本、白井、丹下を桂離宮批判に走らせた張本人が〈江川家住宅〉だった。3人ならずとも、土間の写真を目にすれば”縄文的なるもの”を感じ取ることができるだろう。……」(「江川家住宅」より)
建築写真の巨匠・藤塚光政による渾身の撮影。被写体と向き合った時の高揚感が伝わる「撮影記」
建築写真のありようを変えた建築写真家・藤塚光政氏が、足かけ5年の歳月をかけ粘りに粘って撮り下ろした
美しく迫力に満ちた写真、語り口調で書かれた臨場感たっぷりのエッセイ。藤塚氏とともにファインダーを覗き込んでいるかのような没入感を楽しんでください。
「……なんでもそうだが、現場は踏んでみなけりゃ、わからない。撮影で難しいのは、内部の空間に決まっているから、特別許可を受けると、さっそくガサ入れのごとく内部調査を始める。(中略)いちばん大きな茶室は平面が平行四辺形をしている。畳だってすべて平行四辺形だ。マズイな。空間知覚がやられそうだ。何をオタオタしている。ここをメインカットにするぞ!と、ポジションを決めた。……」(「北方文化博物館 三楽亭」より)
腰原幹雄(東京大学生産技術研究所教授)による専門家の眼から見た「構造学コラム」も秀逸!
都市木造の第一人者である腰原幹雄氏が解説する「構造学コラム」は、建築士や建築学科の学生にも目からウロコな情報が満載です。
「……あまりに、あっさりした床下空間がある。この建物は、柱で支持されているのではなく、岩と岩の間に橋のように架け渡されている太い梁によって、支えられているからである。水平線が強調されて見えるのは、これが主構造だからである。(中略)きざはしは、風化してもはや凹凸がはっきりしないが、丸太に段を直接刻み込んだささら子架構の単純な階段だったと推測される。太い材による単純な架構を、原始的とみるか単純明快とみるか。単純明快な仕組みは洗練されると美しくなっていく。……」(「龍岩寺 岩屋堂」より)
本書で取り上げた日本の木造遺産
01妙喜庵 茶室「待庵」 京都府乙訓郡大山崎町
02嚴島神社末社「豊国神社」千畳閣 広島県廿日市市
03成田山新勝寺 三重塔 千葉県成田市
04吉備津神社 岡山県岡山市
05臨江閣 本館 群馬県前橋市
06東大寺 南大門 奈良県奈良市
07東大寺 鐘楼 奈良県奈良市
08江川家住宅 静岡県伊豆の国市
09瑞鹿山円覚寺 舎利殿 神奈川県鎌倉市
10新宮熊野神社 長床 福島県喜多方市
11善光寺 本堂 長野県長野市
12三渓園 聴秋閣 神奈川県横浜市
13与倉屋大土蔵 千葉県香取市
14瑞巌円福禅寺 本堂 宮城県宮城郡松島町
15瑞巌円福禅寺 庫裡及び廊下 宮城県宮城郡松島町
16春日大社 御本殿 奈良県奈良市
17東山慈照寺 東求堂 京都府京都市
18北方文化博物館 三楽亭 新潟県新潟市
19閑谷学校 講堂 岡山県備前市
20安楽寺 八角三重塔 長野県上田市
21諏訪大社 上社 本宮 長野県諏訪市
22小野家住宅 埼玉県所沢市
23虎渓山永保寺 無際橋と開山堂 岐阜県多治見市
24虎渓山永保寺 開山堂と坐禅石 岐阜県多治見市
25栗林公園 掬月亭 香川県高松市
26龍岩寺 岩屋堂 大分県宇佐市
27箱木千年家 兵庫県神戸市
28大沢家住宅 埼玉県川越市
29高山寺 石水院 京都府京都市
30総本山 三井寺 光浄院客殿 滋賀県大津市
31法隆寺 西院伽藍と廻廊 奈良県生駒郡斑鳩町
32聴竹居 本屋と茶室 京都府乙訓郡大山崎町
著者プロフィール
藤森照信(ふじもり てるのぶ) 建築史家、建築家
1946年、長野県生まれ。工学院大学特任教授、東京大学名誉教授。71年、東北大学工学部建築学科卒、78年、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。東京大学生産技術研究所教授、工学院大学建築学部教授を歴任。専門は明治以降の近代現代建築。丹念なフィールドワークと膨大な資料をもとに建築史を解き明かしていく「建築探偵」としての活動が幅広く共感を得る。赤瀬川原平らと路上観察学会を結成し、路上観察ブームを起こした。著書に『明治の東京計画』(岩波書店)、『建築探偵の冒険東京篇』(筑摩書房)、『日本の近代建築』(岩波書店)、『丹下健三』(新建築社)など多数。建築家としての主な仕事に《神長官守矢史料館》《秋野不矩美術館》《高過庵》などがあり、建築の起源に迫る独創的な建築作品は多岐にわたる。
藤塚光政(ふじつか みつまさ) 写真家
1939年、東京都生まれ。61年、東京写真短期大学卒業。月刊「インテリア」編集部を経て65年独立。大型カメラが主流であった建築写真界で早くから35ミリカメラを駆使し、周辺環境や人間を含めた建築のライブな姿を記録。著書に『どうなってるの?身近なテクノロジー』(新潮社)、共著に『意地の都市住宅』(ダイヤモンド社)、『現代の職人』(晶文社)、『不知詠人詠み人知らずのデザイン』『建築リフル』『藤森照信の特選美術館三昧』(以上TOTO出版)、『BRIDGE』(鹿島出版会)、『木造仮設住宅群』(ポット出版)、『SENDA MAN 1000』(美術出版社)、『日本木造遺産 千年の建築を旅する』『日本の住宅遺産』(以上世界文化社)、『JAPAN’S WOODENHERITAGE』(出版文化産業振興財団)など。2018年、長年の建築写真活動に対し、「2017毎日デザイン賞・特別賞」を受賞。
腰原幹雄(こしはら みきお) 東京大学生産技術研究所 教授
1968年、千葉県生まれ。92年、東京大学工学部建築学科卒業。2001年東京大学大学院博士課程修了、博士(工学)。構造設計集団〈SDG〉、生産技術研究所准教授を経て、12年より現職。NPO法人team Timberize理事長。構造の視点からさまざまな材料の可能性を追求している。著書に『都市木造のヴィジョンと技術』(オーム社)、『感覚と電卓でつくる現代木造住宅ガイド』(彰国社)。構造設計に《下馬の集合住宅》《幕張メッセペデストリアンブリッジ》《八幡浜市立日土小学校耐震改修》《油津運河夢見橋》《金沢エムビル》など。
刊行概要
■発売日:2024年6月8日(土)
■定価:2,970円(税込み)
■仕様:B5判 208ページ
■発行:株式会社世界文化社
https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/24210.html
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4418242104/sekaibunkacom-22