破損・消失した文化財がよみがえる新技術!東京藝術大学「クローン文化財」の秘密に迫る

【寺社Now17号(平成30年1月発行)より】

 

寺社を未来につなぐ最先端テクノロジーの活用

自然劣化や災害、破壊などで本来の姿を失った文化財を、クローンとして現代に甦らせる技術を東京藝術大学が開発した。特許も取得したこの技術は、文化財の「保存と公開」の間で揺れるジレンマを解消させる画期的な手段となりそうだ。


東京藝術大学が生み出した文化財継承のための技術とは

平成29年(2017)秋、上野の森は「特別展 運慶」や「怖い絵」展などが開催され、それぞれ入場一時間待ちは当たり前になるほど、美術愛好会で大いににぎわった。その中でも異彩を放ちながらも多くの鑑賞者を集めていたのが、東京藝術大学大学美術館で開催された「シルクロード特別企画展 素心伝心クローン文化財 失われた刻の再生」だ。

東京藝術大学のクローン技術で再現された法隆寺釈迦三尊像

普通、展覧会は“本物”を展示し鑑賞するものだが、この企画展のコンセプトは“クローン(複製)”である。かつて、火災によって古の美しさを失ってしまった「法隆寺金堂壁画」が釈迦三尊像とともに、まるで失われた時間が再生されたごとく、質感はもちろん、年月を重ねてまとわれた古色までも現代に甦らせることに成功した。また、平成13年(2001)に完全に破壊され、今は跡形もない「バーミヤン東大仏天井壁画」さえも、壁画の手触りまで復元されたのである。

これまで文化財における共通の課題として、「保存と公開」の兼ね合いがあげられている。保存を優先するなら非公開として封印してしまう方がよいが、その価値をも封印してしまうことになる。逆に公開を優先するのであれば劣化や損傷のリスクを免れない。観光客が飛躍的に増大している現代ではなおさらだ。「シルクロード特別企画展 素心伝心クローン文化財 失われた刻の再生」では、この文化財の「保存と公開」の問題に対して新たな答えを投げかけている。こうした文化財の本来の姿を現代に甦らせる試みが各方面で行われているが、東京藝術大学COI拠点(以下東京藝大)は、文化財をクローンとして複製する特許技術を開発した。この東京藝大が産学連携で研究を進める、高精度な文化財の複製は「クローン文化財」と呼ばれる。

これまでの複製と大きく異なる点は、最先端のデジタル技術を使って精度の高いレプリカを作成し、さらに彫刻、絵画、工芸などの美術家による人の手技や感性を取り入れて仕上げることで、単なる複製ではなく新たな芸術を生み出すことにある。

このクローン技術を使って初めて再現されたのが、法隆寺金堂壁画12面である。四方四仏と八大菩薩が描かれ独創的な優美さをたたえ、インドのアジャンター石窟群や敦煌莫高窟の壁画とともに古代仏教絵画の傑作と知られるこの壁画が、クローン文化財として昭和24年(1949)に焼損する以前の状態に再現された。さらに、日本仏教彫刻史における最高傑作とされる釈迦三尊像や重要文化財の天蓋も再現され、まさに仏教美術の極地とも言える空間の再現がなされた。

クローン技術で再現された法隆寺金堂壁画  ©東京藝術大学

 

シルクロードの結晶、法隆寺釈迦三尊像と金堂壁画の再現方法

では、門外不出となっている国宝・釈迦三尊像はどのようにしてクローン文化財として再現されたのか。こちらの再現には3D スキャナでオリジナルの御像を計測し、デジタルモデリングシステムを使用して、3Dデジタル上で造形。さらに3Dプリンタで鋳造原型を造形する方法が使われた。

法隆寺金堂壁画12面の再現は、昭和24年の焼損前に撮影されたガラス乾板やコロタイプ印刷、明治時代の模写が集められ、これらの資料をもとにすべての壁画資料をデジタル化して画像を統合。画像の編集と印刷のみをデジタル技術に頼りつつ、模写技術の継承という意味も込めて、質感再現や彩色仕上げは伝統的な手作業による方法が用いられた。

往時がしのばれる、再現された法隆寺金堂壁画と釈迦三尊像やその台座、天蓋

世界が落胆した破壊事件。あの壁画が再び目の前に

平成13年に破壊されたアフガニスタン・バーミヤン東大仏の仏龕天井壁画。実はこのバーミヤンの壁画に関して最も重要な資料を有しているのは日本だ。

この壁画は約8メートル四方と巨大。1970 年代に撮影された15000 枚におよぶブローニー版の写真が京都大学人文科学研究所に残っていることを確認し、こうした貴重な画像の中から選んだ約150 枚を、高精細デジタル化して壁画の細かい部分まで完全に復元。岩などに描かれた壁画も、壁の質感や顔料の盛り上がりまで忠実に復元した。また高原のさわやかな風が吹き渡る標高2500 メートルのバーミヤンの渓谷も、最新のCG 技術や4K 映像で再現されており、あたかも時空を超えてバーミヤン大仏の頭上に立っているような感覚を実感させてくれる。

現状の模刻ではなく制作当初の形状を考慮して復元された、敦煌莫高窟第57窟の仏塑像

復元されたバーミヤン東大仏の天井壁画

 

排他的な時代だからこそ、文化財で知る多文化世界

このクローン文化財の意義について、プロジェクトを率いる東京藝術大学大学院の宮廻正明(みやさこまさあき)教授はこう語る。

「世界中の名品に接することが可能になるのがクローン文化財です。また破損や消失などによって失われてしまった美術品も復元ができます。しかも制作当時の状態まで遡って復元することもできるので、従来のレプリカとは異なった付加価値を生み出せます。世界に点在する画家の作品を全てクローン文化財で再現して一同に展示することもできるので、これまでの美術館、博物館の展示にも大きな影響を与える可能性があります」

このように、文化財を「モノ」として再生するだけでなく、臨場感まで再現してその精神性や意図までもイメージさせることは、「モノ」が壊れても「ココロ」は残り続けることも示唆しており、紛争やテロによる文化財の破壊行為に対するカウンターメッセージでもあることは間違いない。

法隆寺の金堂壁画とバーミヤンの壁画は、シルクロードでつながる東西文化の多様性の結晶といえる。このクローン技術による再現や復元を通して、あらためてその価値の高さを社会全体で考えるきっかけを与えるに違いない。それは、文化財を広く社会に知ってもらう場合に常に投げかけらる「保存と公開」という問題へ一石を投じる新しい技術と言えよう。

クローン文化財であれば、展示物に実際に触れることも可能となる


<取材協力>

東京藝術大学 CO(I センター・オブ・イノベーション)拠点
http://Innovation.geidai.ac.jp/


 

関連記事

    よく読まれている記事

    寺社関連プレスリリース

もっと読む

    クラウドファウンディング

もっと読む

    ミュージアム・イベント

もっと読む

    寺社Nowの書棚-Books-

もっと読む