これらの発案者が、岩本寺の窪博正住職だ。きっかけは「人が来なくなった四万十町を元気にするには、町内外の人が楽しんでくれるコンテンツをつくらなければ」との思いだった。
地域おこしをするには仕組みが必要
四国八十八ヶ所霊場全体で見ると、近年お遍路の数は減少傾向で、令和元年(2019)6月に四国経済連合会が各札所を対象に行った調査によると、10年前と比べ4割近く人数が減少。岩本寺のある窪川地域もそれに伴い商店街は人影がまばらになっている。この状況に、四万十町では中心地街活性化計画を立てさまざまな策を試みるが、形になる前に立ち消えになった計画も数知れず。
「町に暮らす自分たちが動かなければ町は変わらないと考え、昨年(令和2年)4月に、地元の商店主たちと『しまんと街おこし応援団』を立ち上げました。私が団長となり、自分たちの手で四万十町を元気にしていこう、という私の思いに20人近くが賛同してくれて、何ができるか、何をするべきかを定期的に議論しています」
街おこし応援団のメンバーには、地元商店の跡継ぎが多い。それらメンバーと協力し合い、みんなの意見をもとに生まれたのが、先述の岩本寺の多彩なコンテンツである。岩本寺の宿坊を利用する遍路客や一般の宿泊客の多くは、夕暮れに寺へ着き、翌朝は早く出るため、町を楽しんでもらえない。それならば寺院での体験に町の産業を組み込み、寺院に宿泊すれば四万十町を体験できるようにしてみたらどうか、というアイデアだ。
「メンバーと会合を繰り返す中で、町内外の人が“楽しんで”お金を払ってくれる仕組みが必要との共通認識もできました。そのためには、寺院中心に町のさまざまなコンテンツを組み込んでいく事業と、町を中心に寺院が協力していく事業を、町おこしの両輪にすることにしたのです」
そこで、岩本寺を事業の舞台とする「!SHIMANTO」を立ち上げ、活動に興味を持ってくれた高知県コンベンション協会と日本航空株式会社のバックアップを受けながら、観光庁観光振興事業補助金を申請。補助金事業は無事に採択され、ホームページ制作とSNSの準備、境内の多言語化、モニターツアーなどを行った。並行して、プロジェクトに合わせて寺院の予算で宿坊を改修し、敷地内にRVパークも新設。
同時に「しまんと街おこし応援団」としての地域おこしも、高知県と四万十町から予算を得て積極的に進め、7月にはメンバー発案のしまんと古書街道をスタート。これはイギリスの田舎町ヘイ・オン・ワイで1960年代に一人の男性が古書店を開いたことがきっかけで、人口1,500人ほどの町に年間約50万人が訪れるようになった、古書による町おこし成功例を参考にした取り組みだ。