3.地域を元気にし、社会とつながる寺社の役割とは
最後に、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)という考え方をご紹介したいと思います。日本ではあと10年もすると、単身世帯が全体の4割近くになると言われています。そうなったときに、地域や人と人とのつながりをどうするのか、というのは国としても対策中の課題で、その解決となるのが、ソーシャル・キャピタルの考え方です。
人が複数いれば、地域、自治体、大学のサークルなどさまざまな組織や集団ができます。するとそこには顔の見える関係性やルール、協力関係といったつながりが生まれます。
そのような中で信頼関係が築かれていくのですが、このように関係性やルール、信頼性のあるグループをソーシャル・キャピタルと言います。これができると、協力し合って課題を解決する、集団でイベントを開催する、みんなで役割分担することにより大きなミッションをクリアする、といったことができるようになります。つまり社会の課題解決や改善を可能にしていくのです。
防災への対応は、ご縁づくりにもなる
この関係性は、災害時にも生きてくると理解しています。その核になり得るのが、神社のお祭りなど地域のさまざまな行事ではないでしょうか。
また、寺社が自治会や社会福祉協議会、NPOといった地域社会と連携しているところは災害時に力を発揮しているということが、近年の災害時をみるとわかります。大災害時には行政の担当者も被災者です。東日本大震災では、自衛隊がトラックに物資を積んで救援活動に行こうと思ったら、津波で流されたということがありました。道路が寸断され、物資が数日間届かないということもありました。
このような地域で活躍したのも、神社やお寺でした。普段から境内がボーイスカウトの拠点になっていたり、NPO と連携した子育て支援で日頃から神社に人が来ているというところがあります。そうしたネットワークが災害時に威力を発揮し、全国や、さらには海外からも物資がいち早く届いていた例がありました。
つまり平時から、神職のみなさんが地域の方と連携して、神社という地域資源を使って子育て支援や高齢者の見守りなどを実践しておくことが大事なのです。防災の取り組みだけでなく、平時からの関係構築が日常の新しいご縁づくりにもなるのです。
例えば神社で、水や食料を備蓄しているとします。それらの消費期限が切れる前に年に一度くらいのタイミングで氏子だけでなく地域の方々に来てもらい、備蓄品の食料で炊き出しをするなど、楽しみながら防災に取り組むという方法もいいと思います。
そうすれば、地域の方々が神社に来て有事の際の行動について話し合うこともできるかもしれません。すると、次に災害が起きた時に、神社に神職が不在だったとしても、氏子や地域の方々がいち早く神社へ行き、避難所を開設するといった動きも可能になります。
このようにつながりをつくり、拡げながら、ソーシャル・キャピタルをどんどん醸成していってほしいと思います。それが、ひいては地域を強くしていくことにもつながっていきます。
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