【寺社Now30号(令和2年3月発行)】より
※情報は掲載時のものです
井戸の必要性が再認識されはじめた近年、防災の観点だけではなく、井戸を賑わいづくりに活用する寺社が出てきている。井戸があることで、どんな可能性が考えられるのか。今回は2 つの事例を通して、井戸による寺社活性について考える。
井戸のあるところに人が集う。現代の井戸端づくり
洗濯機がなかった昔は地域に共同の井戸や小川があり、そこで洗濯はもちろん野菜を洗うために女性たちが集まり、世間話に興じていた。そう「井戸端」の語源にもあるように、井戸あるところに人が集う現代の井戸端づくり井戸があるところに昔から人が集まっていた。子供たちの遊び場に、夏の涼にと、井戸はにぎわいには欠かせないものだった。しかし上水道の普及などもあり、いつしか寺社はもちろん、世の中から生活井戸の存在が薄れていく。
ところが近年、防災の議論のなかで井戸の重要性が再認識され、新たに掘削したり、かつての井戸を復活させる寺社が出てきている。もちろん掘削すればすぐに使えるわけではなく、細菌検査といった手続きも必要だろう。それでも井戸を持つに至った大きな理由のひとつは、「井戸が人を呼ぶきっかけになる」から。
■事例1
宮司の声に触発された有志が、掘削を通してにぎわいづくり
高津宮(大阪府)
名水の井戸を復活させてにぎわいを取り戻す!
「高津の富」「崇徳院」など古典落語にもたびたび登場する大阪市の高津宮は、かつて境内と参道に井戸や湧水の小川があった。江戸時代にはその水を使う湯豆腐店もあり、たいそうにぎわっていたようだ。しかし第二次世界大戦中の大阪大空襲で、すべて消えてしまう。
「奉職して間もない頃、かつてのにぎわいを知る人に“寂しくなったなぁ”と言われたことが気になって、昔のことを調べました。するとかつては井戸があったことがわかりました。水の流れが途絶えるのは神社にとって寂しいこと。いつかなんとかしたいと思っていたのです」と語る小谷真功(まさよし)宮司。
そんな折、数年前から神社で「あきんど祭り」を開催していたグループとの世間話の席でこの思いを口にしたところ、それならば、と掘削プロジェクトが昨年スタートした。おもしろいのは、機械で一気に掘るのではなく、手掘りで、それも掘るところから人を巻き込むプロジェクトになっている点。費用的な側面もあるが、何より「境内ににぎわいをつくりたい」と有志グループが考えてのこと。
「掘削はお任せしていますが、神社もできるだけ協力したい。そこでかつて実施していた“富くじ”をあきんど祭りで復活させ、その収益を掘削に充ててもらっています」
うまくいけばこの春にも水が湧き、境内に新たな井戸が誕生することになりそうだ。プロジェクトを知った周辺住民からは、神社の名水として販売してほしいなど、多くのアイデアが寄せられているという。
「水は湯立神事で使うことを決めているほか、さまざまな活用ができると期待しています。水が湧くところには人が集まるものです。訪れる人のつながりをつくるきっかけにもしていきたいですね」
高津宮は人の入れ替わりが激しい市街地にある。古くからの住民と新たにこの町へ来た人が交流できる場にしたい。そのきっかけとしても、井戸に期待している。
高津宮
〒542-0072
大阪府大阪市中央区高津1-1-29
TEL:06-6762-1122
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