ご相談を受けた当初、火災で焼けた廃材はほとんどが彫刻に適さない材でしたので、いったんはお断りしようと思いましたが、ご住職があきらめず山積みになった廃材の中から欅の心柱を探し当てられたことから始まり、完成までいくつも困難がありましたがこうして無事納められたことが何か必然だったような気もします。
実はこの仏像は、仏師として独立して最初の作品でした。それがこのようなご依頼であったことは、これからの仏師としての人生の、大きな糧になっていくはずです。
思い返すに今回のご依頼は、人と人との〝善〟がつながったものでした。お寺に長く善を積んでこられた方々に、お寺が善をもってお返しされた。この〝善の連鎖〟に、私も関わらせていただいたこと、人として、仏師として、非常に貴重な経験となりました。
これを糧に、見る人、拝む人に、末永く、幾世代にもわたって慈しみの眼差しを注ぐことのできる善(よ)き佛を、これからも造り続けていきたいと思います。このような貴重な経験をくださった方々に、そしてこのドキュメントを最後までお読みいただいた皆々様に、この場をお借りして厚く御礼を申し上げます(合掌)。
仏師・宮本我休
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