【ミュージアム巡礼】開幕!奈良国立博物館「大安寺のすべて―天平のみほとけと祈り―」(仏像イラストレーター・田中ひろみ)

第1章:大安寺のはじまり

上段左)「聖徳太子像」室町時代(14〜15世紀)奈良国立博物館蔵 ※通期展示。 上段右)会場展示パネルを見ると、平城京に壮大な寺地があったことがわかります。およそ25万㎡の境内に約100棟のお堂があり、インドや中国からの渡来僧も含め1000人近いお坊さんが学んでいたそう。下段)会場では、大画面で「南都大安寺天平伽藍CG復元映像」(画像提供:大安寺)を鑑賞することもできます。東大寺や興福寺にも匹敵する大伽藍を構えていて、画像の奥にはCGで復元された高さ約70mの威容を誇る、東西2つの七重塔が見えます

大安寺は、もとをたどれば日本で最初の官立寺院です。飛鳥時代に聖徳太子が舒明(じょめい)天皇にお願いして639年に建立された「百済大寺(くだらのおおでら)」を起源とする歴史あるお寺です。奈良時代は、東大寺、西大寺、法隆寺、薬師寺、元興寺、興福寺ともに南都七大寺の1つでした。

当時は、七重塔が2基もある壮大な伽藍で、現在の25倍の寺地だったとか。インドや中国からはるばるやってきた名僧たちも含めて1000人近いお坊さんが、約100棟あるお堂で生活をしながら仏教を学んでいたそうです。ちなみにお坊さんの数は、法隆寺の3倍にあたるそうで、そう聞くと大安寺がいかに大きかったかがわかりますよね。

第2章:華やかなる大寺

十一面観音立像(奈良・大安寺蔵)※前期展示

重要文化財「十一面観音立像」奈良時代(8世紀)奈良・大安寺蔵〈像高190.5cm 木造 彩色〉※前期展示

さてさていきなり真打ち登場です。
大安寺本堂秘仏本尊「十一面観音立像」は、なんと100年ぶりの寺外公開です。
生きててよかった!

均整のとれたプロポーション。よく見ると、頭部と胴体の色が若干異なるのに気が付くかも知れません。頭部は、後から補われたようです。

まとっている衣は、腰のあたりが複雑にくねくねと表され、装身具のネックレスも細かく美しく彫り出されているのがわかります。また、乗っている台座の蓮華にも、細かい模様が彫り出されていて、細部に至るまでこだわりにこだわって丁寧に造られた仏像だということがよくわかります。

普段は秘仏で、毎年10月1日から11月30日までのご開帳の時期しかお会いできないので、こうしてミュージアムでじっくりと、そして360度ぐるりと拝観できて本当にしあわせです。

伝楊柳観音立像(奈良・大安寺蔵)

左)重要文化財「伝楊柳観音立像」奈良時代(8世紀)奈良・大安寺蔵〈像高168.2cm 木造 彩色〉※通期展示。右)拙著『拝んでしあわせ 奈良の仏像100』(西日本出版社)より

私の好きな大安寺の「伝楊柳観音(でん・ようりゅう・かんのん)立像」も、もちろん出座されています。こちらも360度ぐるりと間近で拝観することができます。後ろ姿を拝めむことができるのは、仏像フェチににとってはとっても嬉しく、ありがたいことです。

楊柳観音は、三十三観音の一つで、病気からの救済を使命とする観音さまです。 柳の枝を持つことから楊柳観音と呼ばれています。ちなみに、昔は柳の枝を歯ブラシとしてして使っていたんだそうですよ。

観音さまは、優しいお顔をしているのが一般的ですが、大安寺の伝楊柳観音立像は、目を吊り上げ、口を開けて怒っているようんび見えます。口の中には、舌や歯も表現されています。

さらに、菩薩像の足元の台座は蓮華座であることが多いのですが、この観音さまのケースでは岩座で表されています。さらに加えて、足の下にはサンダルを思わせる履き物が…。と思ったら、学芸員さんの説明によると、鼻緒がないことから、足下に各1輪ずつ蓮華座を有する〝踏み割り蓮台〟の可能性もあると考えられているようです。いずれにしても、ただの観音像ではなさそうです。

両手は、後世に補作された後補で、もともとは違う形の手だったのかもしれません。

装飾ですが、お腹に巻いているベルト(石帯)は、てっきり素肌に直接巻いているのかと思っていたのですが、お像におへそが表されていないことから、薄い布をまとってベルトでとめているかもしれないそうです。

胸元のネックレスは、先に紹介した十一面観音立像に負けず劣らず、細かく掘り出されていて、ただただ美しいのひとこと。思わず、「こんなネックレス、欲しいかも」と思ってしまった私めをおゆるしください。

ちなみに、この記事の冒頭の写真にも写っている貫主さま(ご住職)にお聞ききしたところ、大安寺にはかつて大勢の中国僧がいたことから考えると、平安時代以前からの密教が伝わっている可能性があるとのこと。その影響で、密教仏のような怖いお顔をされているのかもしれません。

伝楊柳観音(ようりゅうかんのん)立像の足元にも注目!

伝馬頭観音立像(奈良・大安寺)※後期展示

重要文化財「伝馬頭観音立像」奈良時代(8世紀)奈良・大安寺蔵〈像高173.5cm 彩色〉※後期展示

大安寺で有名な、秘仏の「伝馬頭観音(でん・ばとう・かんのん)立像」は、5月24日からの後期展示にお出ましで、ご本尊の十一面観音立像と入れ替えになります。

伝馬頭観音立像、と「伝」がついているのは、つまり馬頭観音だと伝わっているけれど実際のところはよくわかっていないということ。それは、普通の馬頭観音と異なる点が多いからかもしれません。

たとえば、馬頭観音なのに頭上に馬が乗っていません。おでこに目もなく、お顔も三面でなく一面です。また、馬頭観音特有の指のサイン〝馬口印(まこういん、人差し指と薬指を折って中指を立てるカタチ)ではなく、普通の合掌をしています。

ただ、馬頭観音と考える手がかりとしては、ネックレスと足首にヘビがからんでいることを指摘することができます。というのも、仏像の姿について決まりが書かれている儀軌(ぎき)の古いものに、馬頭観音は蛇がからまっていると書かれているからです。

儀軌も時代により変化があり、古い馬頭観音像には、馬口印を結んでいないものものが多いようですから、普通の合掌をしているこの観音さまが馬頭観音であると考えることができるというわけです。中には、腕が2本の像もあるんだそうです。このお像は、腰に牛皮を巻いていますが、それも儀軌にあると聞きました。

やはり秘仏の伝馬頭観音立像は、大安寺では毎年3月1日から31日までのみのご開帳です。何度も繰り返しになりますが、その秘仏をじっくりと、あらゆる角度から拝観できるとは、仏像イラストレーターにとっては天国のよう。本当にありがたいことです。

ちなみに、大安寺の伝楊柳観音立像と伝馬頭観音立像については、拙著『拝んでしあわせ 奈良の仏像100』(西日本出版社)にも登場しているので、よかったらご覧ください。

次ページ:第3章「大安寺釈迦如来像をめぐる世界」〜第4章「大安寺をめぐる人々と信仰」

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監修:全国寺社観光協会

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