お寺の仕事だけでは暮らしていけない現実に直面
「私は長男ですから、いつかは寺を継がなければならないことは子供の頃からわかっていました」という香西住職。高校卒業後に京都の仏教系大学へ進学し、飲食店でアルバイトをするうちに接客業の楽しさを知った。
「中学生の頃に他界した祖父からは、寺を頼むぞと言われていました。祖父の言葉が頭をよぎることもありましたが、その頃は町の暮らしの楽しさの方が勝っていて、自分の中に寺へ戻るという選択肢はありませんでした。結局大学卒業後も9年間、飲食店で働いていました」
時折郷里から親戚が京都へ遊びに来て、そのたびに「いつかは帰って来いよ」と釘を刺されていた住職。京都での暮らしも13年目となった31歳の時、いとこから「お願いだから帰ってきて」と懇願されたことをきっかけに、寺へ戻ることを決意。その頃、次男が先代住職の手伝いをしていたが、親戚や檀家は皆、長男の亨さんが継ぐことを願っていた。
「寺に戻り、父について檀家さんの家の場所を覚えたり、仏事の手伝いをして少しずつ慣れていくことにしました。ところが檀家の数も減少傾向にある田舎の寺では、両親が食べていくのがやっとで、私の分の給料なんて出ません。それで仕方なく高松市の方へ働きに出ることにしました。それから25年間、ずっと飲食業に関わりながらやってきたわけですが、平成25年(2013)の父の死をきっかけに、仕事を寺院経営に絞ることにしたんです。飲食店で働きながら、ということも考えましたが、高齢の母だけに日中の寺を任せることは難しいと思って」
だが、寺の仕事だけになるとまた、生活していけるかどうかという問題が表面化した。とはいえ、できることといえばやはり飲食業しかなく、そうは言っても近くに道の駅くらいしか店らしい店もない地域でカフェをやっても、人が来てくれるはずもない・・・。
以後ずっと悩み続けていたが、なかなか解決法が見つからない。しかしあるとき、ふと、近くに店がないことを逆手にとることを考えついた。