寺がにぎわいを取り戻すことまで想像していなかった
「香川県は、普段からうどんを求めて誰もが動くクルマ社会です。だったら、ちゃんとした店構えにして、きちんと美味しいものを出せる店にすれば、高松市内の街中よりも財田町のような田舎の方が、面白がってお客さんが来てくれるのではないかと思いました」
お寺に併設のカフェというのは各地にあるが、本気のイタリア料理店を併設しているケースは、少なくとも香川県内、そして四国エリアにも見当たらない。そこで、これまでの経験をフルに活用し、イタリア直輸入の食材も使い、本格的なピッツェリアをオープンすることにした。すると予想以上にオープン後の評判は上々だ。
「辺鄙な場所だからのんびりやっていけばいいか、と考えていましたが、地元のテレビや雑誌で取り上げられたことで、ありがたいことに平日でもお客さんが市外から来てくださいます」
もちろん、地域の人も足を運んでくれている。
「一度ピザを食べたおじいちゃんが後日、孫に食べさせたいからと買いに来ることもありますし、何より、寺が寂れていくことを危惧していた門徒さんが『お寺がまた賑やかになってうれしいねぇ』と言ってくれたことはうれしいですね」
家族の誕生日や記念日を祝うためにディナーを予約する地元の人も出てきたほか、同じ地域に住んでいながらお互いにこれまで面識がなかった人たちが、同じ日に来店したことがきっかけで知り合いになったという嬉しいケースも。お店のインスタグラムには、誕生日を祝ってもらって満面の笑みを湛えるおじいちゃんの姿など地域の人たちの交流も見られ、地元でも大歓迎されている様子がうかがえる。