一筋縄ではいかない地方神社の再興。息子に支えられながら孤独と戦った
希望を胸に帰郷した辻さんを迎えたのは、予想以上に厳しい現実だった。神社はあちこちに蜘蛛の巣が張り、拝殿に上がれば足の裏は一瞬で真っ黒。氏子さんたちが持ち回りで月に一度は掃除してくれてはいたものの、気持ちよく参拝できる状態にするには相当な努力と時間が必要だった。
「毎日ひたすら掃除しましたが、ひとりでできることは限られていて、疲れは溜まるのになかなかきれいにならない。どうして誰も手伝ってくれないのかといらだつこともありました。でも、少し冷静になれば、仕方がないことだと理解できるんですよね」
白川に限らず、地方では住民の高齢化と人口減少が進み、神社の護持にあたる人手が不足している。都市部と比べれば住民間の交流はまだあるものの、以前より付き合いは希薄になっている。
「地方も “個の時代” になってきているんです。昔は “神社をきれいに維持すること=みんなで集まる場所を守ること” でした。神社を手入れすることに、住民のみなさんにもメリットがあったんです。でも、今はお神輿を担ぐお祭りなどもなくなって、神社の手入れはなかば義務的な意味合いが強くなってきています。そうなると、昔のように取り組めなくなるのは当然だと思います。
だから、みんなに手を貸してもらうためには、神社を好きになってもらわなければならないんです。それが叶えば状況は絶対に変わってくると信じて、当時はひたすら自分にできることを模索していました」
しかし、その目標は容易ではなく、孤独を感じる日々が過ぎていった。
「 “人手が足りない”からではなく、“理解者が少ない”ことが精神的につらかったですね。一緒に手を動かしてくれなくてもいい、“頑張ってるね” とひと声かけてくれるだけでいい。当時はそれくらい疎外感や寂しさがありました」
そんなときに彼女を支えたのが、子供の存在だった。
「息子と一緒に神社を掃除したときのこと。帰りぎわに『楽しかったね! また一緒にやろうね!』と笑顔で言ってくれたんです。新しい環境を楽しむ息子の姿を見て、元気が湧いてきました」