世界文化の共有
文化財の破壊は、その物質的な意味よりもそれ以前に存在した記憶を抹殺する、歴史上でも類を見ない暴力行為である。落書きや破壊行為などの文化破壊運動(ヴァンダリズム)だけでなく、文化大革命やナチス、ドイツによる特定の宗教や文化以外の排斥を目的とした文化抹殺運動(文化のジェノサイド)は古くより世界各地でおこなわれてきた。
近年も、アフガニスタンをはじめ、クロアチアやボスニア、ヘルツェゴビナ、近年ではイラクやシリア、パルミラ遺跡の破壊などが起こっている。そこに政治的意図が含まれていようがいまいが、それは社会に対するテロリズムであり、文化財の破壊や文化の抹殺運動は、二度と取り返しがつかない不可逆的所業だといえよう。
2016年5月26日、日本で開催されたG7伊勢志摩サミットにおけるサイドイベントとして「テロと文化財-テロリストによる文化財破壊、不正取引へのカウンターメッセージ」が催され、会場には破壊されたバーミヤン東大仏天井壁画「天翔る太陽神」の復元と、焼損した法隆寺金堂再現壁画(クローン文化財)が展示され、テロリズムに対する新たなカウンターとして全世界に発信された。
クローン文化財の理念と技術は、文化財の保存と公開という矛盾を解決するために有効であり、文化財という世界共有の財産を守る新たな芸術文化の伝承手段として、文化外交の一助としても寄与するものである。この大きな感動の輪を広げていくことで、このプロジェクトが豊かな世界を作りあげていく基盤になると確信している。
(付記)
本稿は「「クローン文化財」による新たな文化共有の提案」『東京藝術大学社会連携センターBulletin vol.3』東京藝術大学、2018年、および「文化財とテロリズム」『ユーラシア研究』第55号、ユーラシア研究所、2017年1月の内容をもとに加筆修正したものである。
当記事は東京藝術大学COIより特別に許可を得て「みろく展」公式図録から転載するものです。