—動画を見ると、そこには深いメッセージがあるように思えます
「いやいや、これまでも今回も私の中では同じで、シンプルに流行りに乗っただけです(笑)。私はアーティストではないので、新しいものを創る才能はありません。知ってもらうために世の中で話題のものを利用させていただくのです」
『鬼滅の刃』を初めて読んだ松崎住職は、作者が仏教にかなり精通しているか、あるいは仏教関係者ではないかという読後感を抱いた。それほどまでにストーリーの随所に仏教的要素が散りばめられているという。
そこで、鬼滅ブームに乗ることを決めた。動画シリーズのタイトルは、「【鬼滅の刃】をお坊さんはこう読む〜『鬼滅』で学ぶ浄土真宗」としたというのだが……
「私は浄土真宗の僧侶です。そして仏教が好きで、好きで、たまりません。お釈迦様のことを本当にすごい方だと常々思っています。だからこそ、仏教のいろいろな要素をパロって、私が夢中になっている仏教というものを、多くの人に紹介したいのです」
つまり、自分が仏教を楽しんでいる姿を通して、仏教を紹介していきたい、ということが動画の核心だった。ただし、パロディを交えて仏教を紹介するとは言っても、何でもありではないようだ。
「仏教やお釈迦様を身近に感じてもらえることはあっても、笑いの対象には絶対にしない。その一線を考えながらやっています」
仏教を身近に感じてもらいたい
例えば動画シリーズの第3弾【参の型:対機説法】では、「継国縁壱(つぎくによりいち)はお釈迦様だ」というテーマで、鬼殺隊が鬼に対抗するために身につける「呼吸」の始まりとされる継国縁壱とお釈迦様との共通点を解説している。
「仏教でいう“対機説法”というのは、相手の人となりに合わせて教えを説く方法ですが、お釈迦様は、どんな人にも同じ説き方をしていません。相手に合わせて言葉や言い回しを変え、伝わりやすいように法を説いていきました。
一方の継国縁壱は、自身の「日の呼吸」を実は次の世代には伝えられていません。しかし呼吸の派生を認めたことで、何百年もあとに、主人公の竃門炭治郎が水の呼吸をもとにして、最終的には日の呼吸を体得します。
これは多様性を認める伝え方だと私は感じていて、お釈迦様が2500年も前に、人に合わせていろいろな伝え方をしたからこそ現代でも仏教は続いている、ということに通じていると思っています。そのあたりを知っていただけると、もっともっと仏教を身近に感じてもらえるかもしれない、と思いました」
続きは書籍で!
実は、「【鬼滅の刃】お坊さんはこう読む」シリーズの解説動画はここまで。四本目の動画もあるが、それは『鬼滅の刃』の最終巻をただ読むだけで終わってしまっている。それは、いったいなぜなのか?
「ここから先は、書籍版でのご紹介となります(笑)。[編集部注:PHP研究所から『「鬼滅の刃」で学ぶ はじめての仏教』2021年5月22日発売]
しっかり解説している3本の動画に加えて、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』からも話をつくっています。ぜひ手に取ってみてください! ただ、これはあくまでも私の仏教の楽しみ方です。いろいろなきっかけで仏教を身近に感じることができるし、仏教って楽しい、と感じてもらえるとうれしいです」
『鬼滅の刃』は週刊少年ジャンプ(集英社)で平成28年(2016)に連載がスタートして以来、単行本は売り切れ続出、令和2年(2020)10月に映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が公開されると、宝満宮竃門神社(福岡県太宰府市)や甘露寺(浄土宗、和歌山県紀の川市)など、登場人物の苗字と同名の寺社が聖地として人気になるなど、一大旋風を巻き起こしている。
映画は国内でロングラン上映中、アメリカでは全米No.1を獲得するなどその勢い未だ衰えるところを知らないが、松崎住職の異色の鬼滅本が、今回もその人気に乗ることができ、そしてその思いがどこまで広がるのか楽しみだ。
出版社 : PHP研究所
発売日 : 2021/5/22
著者:松崎智海
価格 1.463円