神社の社会貢献イベント「神さまと海と森の教室」で育む子供たちの未来(東京・瀬田玉川神社)

近年、神社の「鎮守の杜」が見直され、保全の動きが全国的に広がっている。同時に、その貴重な自然を活用する動きも各地で起きている。

毎年5月に開催される瀬田玉川神社(東京・世田谷区)の恒例人気イベント「神さまと海と森の教室」もそのひとつだ。発案者は同社の神職で、東日本大震災後の復興支援活動の経験から「命を守るために、命を育むことの大切さを伝えたい」という思いでスタートした。ところが残念なことに、コロナ禍のため昨年に続いて今年も中止が決定した。しかし、コロナ禍の今だからこそ、伝えたいことがある。早くも来年を期して準備に動き出した神職に、「自然と人間」「海と森」、そして「命」について、子供たちに伝えようとしているその思いを聞いた。


都会のオアシス的な瀬田玉川神社は、東急二子玉川駅の北側、多摩川の河岸段丘である国分寺崖線の丘の上に鎮座している。多摩川の流れを見渡し、遠くに富士山を望み、移り行く街の変化のなかで地域の人たちの暮らしを見守ってきた。

おもに地元の小中学生を対象にしている「神さまと海と森の教室」は、そんな瀬田玉川神社の鎮守の杜をフィールドとして、平成29年(2017)から毎年5月に開催されてきた人気のイベントだ。

発案者の髙橋知明禰宜は、東日本大震災後に現地で復興支援を展開する「鎮守の森のプロジェクト」の事務局で働いた経験を持つ。東北沿岸部の鎮守の杜が防災林として機能したことを現場でリアルに目撃し、森と海がつながっていることを痛切に実感した。その時の経験もあって、瀬田玉川神社に奉職して以来ずっと、「子供たちに森と命の大切さを伝えるための活動をできないか」と考えていた。

拝殿横の森が参拝者に人気だと話す髙橋知明禰宜

東急二子玉川駅の北側、多摩川の河岸段丘に沿って住宅地が広がる静かな場所に、瀬田玉川神社は約450年前から鎮座している

 

命の大切さを伝える「3つの柱」

同社は、都会の住宅地にありながら広い境内を有している。かくれんぼをしたり、自転車の練習をしたり、普段から子供たちの声が絶えない。

ある夏のこと。神社にスイカが届き、境内にいる子供たちとスイカ割りをすることにした。ところが……。

「なんと、集まった子供たちのほとんどが、スイカ割りを一度も経験したことがなかったんです。衝撃でした。同時に、こんなことでもいい経験になるのなら、自然を感じるプログラムを神社で企画すれば、子供たちがもっと喜ぶのではないかと考えました」

髙橋さんは、「命」を伝える活動を思案する中で、「人間も自然の一部である」「多くの祖先からのつながりの中で私たちは命をいただいている」、そして「人間は他の命をいただかなくては命を育むことができない」、そんな3つのメッセージを活動の柱にしたいと考えるに至った。

これなら形にできるかもしれない。子供たちのこれからの人生に何かヒントとなるような内容にしよう。神社を知ってもらい、鎮守の杜を舞台に、海と森と人間の関係や、豊かな自然に思いを馳せることができる内容にしたい。高橋さんの中で、そんな思いが、日に日に募っていった。

 

鎮守の杜で、見る・聞く・触れる!

考えた抜いた末に、プログラムが出来上がった。

プログラムはまず、神職の「神さまの教室」からスタートする。「神さま」や「ご先祖さま」、自分たちへとつながる「命」の話から始まり、参拝の作法など神社についての解説もする。

次は、東京都中央卸売市場・豊洲市場(東京・江東区)のマグロ仲卸「鈴与」店主の生田與克(よしかつ)さんによる「海の教室」とつづく。

その日に仕入れたばかりの鮮魚類を市場から持参する講座は、昼食のバーベキューとセットで行われる。生きたままの有頭エビに串を刺して焼くなどしながら、生田さんから漁場の現状や漁師の仕事についてなど聞く。

「生きているエビに串を刺すなんて、子供たちは誰も経験したことがありません。怖い、かわいそうと言いながらも頑張って串を刺し、それを焼いて食べるとおいしい。こうした経験を通して、人は他の何かの命をいただいて自分の命を育まなければならないことを知ってもらいます。恵みに感謝すると共に、いただきます、ごちそうさまの意味につながる貴重な体験だと思います」(高橋禰宜)

さらに食後は、東京農業大学の西野文貴さんによる「森の教室」が開催される。新林学の専門家と、鎮守の杜を歩きながら、植物や昆虫、動物の話に耳を傾ける。

「当社の境内と鎮守の杜を合わせると、50種類以上もの多様な植物を見つけることができます。東京ではもうほとんど見られなくなったきれいな玉虫に出会えることもあります。みんなで一緒にわいわいと森を歩くので、それはもう子供たちはかなり盛り上がります」(高橋禰宜)

「神さまの教室」では、神社での作法も学ぶ

「鈴与」の生田與克さんによる「海の教室」。子供たちの真剣な眼差しが印象的だ

東京農業大学の西野文貴さんによる「森の教室」は、子供たちの冒険心もくすぐる

 

朝からトータルで7時間近くにもおよぶワークショップの間、子供たちは見る、聞く、触れる、の連続でまったく飽きる様子はない。プログラムで意識しているのは、一方的に授業を受けるのではなく、遊んでいる感覚で楽しんでもらうこと。

「人間は自然の一部なのだと、どうやって都会の子どもたちに伝えていくかを意識しました。大人が先生として教えてあげるという上から目線ではなく、『今日はまる一日、一緒に遊んでいって!』というスタンスで企画しています。そのうえで、子供たちが命について考えるきっかけになり、両親への感謝や周りの人へ優しくするという気持ちにつながってほしいと願っています。大人になって『神様と海と森の教室』のことを思い出したときに、ちらっとでも神社のことが頭に浮かんだらうれしいですね」

 

動けない今だから、次への活動を

 

髙橋さんの頭の中にはいつも、「神社に何ができるか」という思いがある。

「皆さんは、どういうときに神社へ行かれますか?おそらく、初詣やお祭りくらいしか思い浮かばない人が多いと思います。私は神職として、神社と地域の人との間に、“それだけではない関係”をつくりたいのです。神社や神さまを知ったことで、人生がちょっとだけ豊かになる、そのきっかけづくりの場になる。

もともと神社は地域の寄りどころであり、神職は人と人とのつなぎ役だったはずです。それこそが、地域を見守り、地域と共に歩み続ける神社の役割だと考え、教室を開催してきました」

初めて開催した平成30年(2018)は神社の主催だったが、翌年には仲間たちと「一般社団法人第二のふるさと創生協会」を設立し、協同で運営するようになった。

「鎮守の杜」のある神社は、ほかにもまだまだある。各地の神社でも「神さまと海と森の教室」を開催することができれば、子供たちの未来に神社が役に立てる。こうした考えに、協会設立のメンバーでもある浅草神社(東京・台東区)の土師幸士宮司をはじめ、大稲荷神社(神奈川・小田原市)の穐山光鑑宮司など共感する神職が増えてきている。

「当社だけでやっていても、なかなか広がりません。それで仲間たちと団体を設立し、神社の仕事から教室の運営を切り離すことにしたんです。そうすることで、プログラムを一神社に留まらず外へと広げていくことが可能になります。この「神様と海と森の教室」は、神社ができる社会貢献のひとつだと私は考えているので、より多くの神社で開催できるようにしていきたいですね」

「思い」はあるが、コロナ禍のため令和2年と3年は、残念ながら開催見送りとなった。しかし、動き出したムーブメントは止まることはない。今は、社会が落ち着いた時に活動を一気に拡げるための準備期間と考えて、すでに前を向いて動き出している。

「全国にいる神職の知り合いに、ことあるごとに活動の話をしています。全国各都道府県神社庁主催の研修会などに講師として呼ばれた際にも、活動を紹介しています。少しずつですが、私の思いを伝え、共感してくれる人を増やしています」

地元では、早くも来年に向けて、周辺地域の神社へ開催の打診を始めた。

活動は、いよいよ次のフェーズへと向かう。都会や地方の別なく、全国の神社が、自然へ思いを馳せる拠点となることを目指して。

 

一般社団法人第二のふるさと創生協会

住所:〒158-0095 東京都世田谷区瀬田4-11-31 瀬田玉川神社内
電話:03-6426-4868
HP

 

瀬田玉川神社

住所:東京都世田谷区瀬田4-11-31
電話:03-3700-3829
HP

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