【寺社Now25号(平成31年5月発行)】より
※情報は掲載時のものです。こちらの宿坊はその後、境内で新たな展開を始めています。詳細は直接お尋ねください。
聖徳太子による創建の伝承もある古刹が、大阪市南部・喜連(きれ)の住宅街にある。このあたりはかつて環濠集落があった地域で、細い路地を歩いていると、そこかしこに痕跡を見ることができる。と言っても、それ以外に着目するような観光スポットはない。にもかかわらず如願寺には、訪日観光客が多い。彼らの目的は「すばる庵」と名付けられた一軒家の宿坊だ。
旅行者をもてなすのは副住職のヴォルコゴノフ・ドミトリー・慈真(じしん)さんと、奥様で坊守の奈央子さん。寺で生まれ育った奈央子さんは5年前まで添乗員として海外へ渡航する生活を送っていた。ウラジオストクを訪れた際、現地で日本人旅行者のガイドをしていたご主人と知り合い、その後結婚。ウラジオストクでの生活を経て、夫婦で如願寺へ戻ってきた。
普段着の日本に触れる良さが外国人に好評
「もともと寺院は父母が守っており、そこに私たち夫婦が加わりました。父母だけなら安定して運営できていた寺も、暮らす人数が二人も増えると新たな収益が必要となります。そこで民泊を始めることにしました」と奈央子さん。新たな収益といっても、あくまで寺院の仕事をしながらできることに限られる。悩んだ末、行き着いたのが宿坊だった。しかし、周りに人を惹きつける有名観光地があるわけではないため、成功するかどうかは未知数。なので、いきなり増改築するのも勇気がいる…。
そこで隣接する民家を活用し、お試しでスタート。海外からの利用客を念頭に年間営業180日という制限の中でいかに稼働率を上げるかを考え、外国人が喜ぶ文化体験を複数用意。予約が入ったら、宿泊当日までに何度かメールでやりとりし、希望する文化体験などを聞く。食事についても希望を聞いたうえで、近隣の飲食店まで送迎。日本を訪れる外国人旅行者に日本の普段の暮らしが好まれ始めたという時勢も相まってか、一年後には営業可能日数ほぼすべてが埋まるほどになった。
「ありがたいことに、多くの外国の方に来ていただけているだけでなく、私たちは一年で実に多くの学びも得ました。そこで料理を提供したい、もっとくつろげる空間を創りたいと考え、いよいよ境内地に新たに宿坊を設ける決意をしました」。
新しい宿坊が今年(令和3年)完成。最大受け入れ人数は1日1組最大5名、もてなしの質も上げる。観光名所のない町といいながら、数年もすると、この宿坊が一番の名所になっているかもしれない。
真言宗御室派霊峰山 如願寺 すばる庵
住所:大阪府大阪市平野区喜連6-1-38
TEL:06-6709-2510
HP