仏像マニアならずとも、東京国立博物館の特別展「国宝 聖林寺十一面観音 —三輪山信仰のみほとけ」は注目だ。天平彫刻の名品であり、日本彫刻の最高傑作といわれる聖林寺「国宝 十一面観音菩薩立像」が初めて奈良を出る(会期:2021年6月22日〜9月12日)。
文化庁、宮内庁、読売新聞社が官民連携で取り組む「日本の美を伝える『紡ぐプロジェクト−皇室の至宝・国宝プロジェクト−』の一環として開催される本展は、国宝を間近に見られるだけでなく、仏教伝来以前の信仰の形が今なお続く奈良県・三輪山の自然信仰を示す出土品も展示される貴重な機会となる。
■滅多に見られない仏像搬出の作業動画も現在公開中!
紡ぐプロジェクトの公式サイトでは現在、国宝 十一面観音菩薩立像が搬出される模様を動画で公開している。なかなか目にする機会のない緻密で繊細な作業の様子を特別展と併せてチェックしたい。
紡ぐプロジェクトHP・聖林寺動画ページ
奈良県桜井市にある大神神社(おおみわじんじゃ)の御神体・三輪山。日本人は古来、自然に畏敬の念を抱き、神が宿る依り代(よりしろ)として山や滝、樹木などを崇拝してきたが、三輪山はその代表的な例として知られている。
国家の庇護により仏教が興隆した奈良時代になると、神社に付属する寺がつくられるようになり、大神神社にも大神寺(鎌倉時代以降は大御輪寺(だいごりんじ))が建立され、そこに安置されたのが、今回東京初公開となる国宝 十一面観音菩薩立像(聖林寺蔵)だ。
明治元年の神仏分離令により、大御輪寺は大直禰子神社(おおたたねこじんじゃ)に変わるが、寺内の仏像は同寺の住職や地域の人々の手により、聖林寺など近隣の寺院に移された。本展で国宝 十一面観音菩薩立像と共に展示される国宝 地蔵菩薩立像(法隆寺蔵)、月光菩薩立像、日光菩薩立像(ともに正暦寺蔵)は、どれも大神寺(大御輪寺)にかつて祀られていた仏像たち。それらが約150年ぶりに再会するのも見どころのひとつである。
今回の東京初公開に際して、「1200年奈良を守ってこられて、今回初めて奈良から出られる。当時も、もしかして疫病が流行して、十一面観音悔過(けか)をするために観音さまがつくられた可能性もあると思っている。コロナウイルスが蔓延したその時、偶然だけではないような気がしています」と聖林寺の倉本明佳住職は語る(紡ぐプロジェクトより)。
会場には、大神神社で本殿に代わるものとして神聖視されてきた三ツ鳥居が再現されている。三輪山禁足地からの出土品展示と併せ、三輪山信仰に迫っている点も興味深い。
■聖林寺とは
三輪山南のある桜井市の南部にある、奈良時代に藤原鎌足の子・定慧(じょうえ)が建てたと伝わる真言宗室生寺派の寺院。山門からは三輪山の山稜や、古代奈良の古墳が散在する奈良盆地の東半分を望むことができる。
聖林寺HP
特別展 国宝 聖林寺十一面観音 —三輪山信仰のみほとけ
会場:東京国立博物館 本館特別5室
会期:2021年6月22日(水)〜9月12日(日)
会館時間:9時30分〜17時
休館日:月曜日(ただし8月9日は開館)
主催:東京国立博物館、読売新聞社、文化庁、日本芸術文化振興会