国立歴史民俗博物館(通称:歴博)の企画展示「中世武士団―地域に生きた武家の領主―」(3月15日から5月8日まで)は、最新の研究成果が凝縮していて見逃せない。寺社Now的には、展示構成の第5章にとくに注目したい。
〈展示構成〉
第1章 戦う武士団 ― プロローグ
第2章 列島を翔る武士団 ― 移動と都市生活
第3章 武士団の支配拠点 ― 地域のなかの本拠
第4章 武士団の港湾支配 ― 地域の内と外をつなぐもの
第5章「霊場を興隆する武士団―治者意識の目覚め」
第6章 変容する武士団―エピローグ
■注目の第5章「霊場を興隆する武士団―治者意識の目覚め」
中世日本の地域は、主に一族と家人によって構成された武士の軍事的組織「武士団」が支配していた。世襲制の職業戦士である彼ら武士たちは、ただ戦うだけではなく、「領主」として権力を振るい、地域を支配していった。
本来、軍事的組織である武士団に、地域社会を支配する正当性はない。にもかかわらずそれを実現していた。これは、アジアのみならず世界的にもレアケースとされている。
いったいなぜ、数百年もの長きにわたって、武士が統治者であり続けることができたのか…。それははたして圧倒的な武力を背景とした暴力と恐怖による圧政だったのだろうか?!
その謎を解くキーワードが、第5章のタイトルにもある、武士団による霊場の興隆だ。
本展の第5章は、武士団を表面的な戦闘集団としてではなく「領主組織」という観点からとらえ、13世紀から15世紀を中心に、武士団がいかにして宗教者集団と接触して地域を支配したのか、その実態と展開について再現しようと意欲的に試みている。
会場の仏像たちも時代を物語っている。中世日本の武士団は、地域社会の救済を実践する寺や神社と結びついた。宗教者集団と接触し、寺や神社、霊場を整備して保護することで、実質的に地域社会を支配する正当性を確保しようとしたのだ。
と同時に、そうした宗教者集団との接触を通じて、民衆を憐れむことを心がける「撫民(ぶみん)」の思想を学んだ。戦う戦闘集団として武力を振るう残忍な戦士集団が、殺生を禁じる仏教との矛盾を抱え、悩み、葛藤しながら、統治者たらんとする姿が浮かび上がってくる。
寺社Nowが「中世の武士団」展に注目するのは、まさにこの点にこそある。世界は今、混沌としている。第三次世界大戦という物騒なワードまで飛び交い、武力により人を支配しようとする動きがある。本展は、この国の歴史を振り返るだけに留まらず、世界を見直す契機ともなる。
1
2