第5章:それぞれの来迎の夢
ひとくちに「来迎図」と言っても、図様はさまざまでバラエティーに富んでいる。阿弥陀如来が単独で来迎することもあれば、観音菩薩や勢至菩薩を加えた阿弥陀三尊として来迎するケース、あるいは25人の菩薩を率いての来迎、さらにはもっと多くの菩薩や人物が登場するケースもある。大きさもさまざまだ。
そうしたいずれの来迎図も、死にゆく自らのために、あるいはたいせつな誰かのためにつくり、その多くは、実際に臨終の場面で、枕元に置かれたり、懸けて広げられた。旅立つ人、あるいは送り出す人が望む来迎のかたちにあわせて、さまざまなバリエーションが生まれたと考えられる。
第6章:たいせつな人との別れのために
上の画像の左側「阿弥陀三尊来迎図」 をよく観ると、右下の観音菩薩の蓮台の上に、臨終を迎えた剃髪の人物が墨染めの衣と袴を着けて座っているのが見える。本作の画絹(えぎぬ)は、作中に描かれた人物が生前に着用していた衣料を転用している可能性がある。このように、来迎図の中には、往生者を描き込んだ作品もある。これらは、具体的な誰かに訪れた来迎の様子を描いたもので、たいせつな誰かの死後の幸福を約束し、残された人々の心の痛みをやわらげる機能を持ちあわせていると考えられる。
こうして観てきたように、来迎図は、臨終に際して極楽浄土へ行くことを願う往生者自身とその往生者がたいせつに思っている人のために、さらには死にゆく往生者をたいせつに思っているすべての人のためにある。生前には、日常的な礼拝の対象として、臨終の時は、来迎の夢を見るツールとして枕辺に置かれた。そして死後には、死者を想う追善供養のために、来迎図は開き懸けられた。
ひるがえって現代社会にあって、人々の死生観や他界感は大きく変容し、死者を見送る臨終の作法や葬送の儀礼も様変わりしてきている。COVID-19は死にゆく者と送る者を隔絶してそれぞれを孤立化させ、戦場で突然命を落とす犠牲者たちはみずからの死を自覚することすらできない。大阪・中之島の『来迎』展会場に佇み、前後左右で賑やかに繰り広げられる阿弥陀如来と菩薩たちによる「来迎(お迎え)」に囲まれ、「たいせつな人との別れのために」描かれた来迎図に、今、何を想う…。
中之島香雪美術館「来迎 たいせつな人との別れのために」
会場 | 中之島香雪美術館 |
会期 | 2022年4月9日(土)~2022年5月22日(日) 前期:4月9日(土)~5月1日(日) 後期:5月3日(火)~5月22日(日) |
休館日 | 月曜日(祝日の場合は翌火曜日) |
開館時間 | 10時~17時 (入館は16時30分まで) |
夜間 特別開館 | 2022年4月28日(木)、5月12日(木) 午前10時~午後7時30分(入館は午後7時まで) |
料金 | 一般 1,000円/高大生 600円/小中生 300円 |
公式HP | https://www.kosetsu-museum.or.jp/nakanoshima/ |